蒼色の月 #33 「話し合い②」
「俺はどんなときでも、絶対俺を最優先してくれないと嫌なんだよ!子供に負けたくないんだよ!」
その夫の言葉に私は愕然とした。
それがほんとに離婚の理由?
それが家庭を壊す理由?
それが私と子供達を捨てる理由?
嘘でしょ…。
そんな子供のようなことを、この人は本気で言っているのだろうか。
結婚して20年、そんな話を夫がしたことは一度もない。
私は頭の中が混乱した。
「とにかく!離婚はしません。絶対にしません。私はあなたが帰るのを事務所と家を守りながらここで待ちます」
それは以前、義父母から教えられた言葉そのまま。
「お前知ってるのか?離婚なんて簡単にできるんだからな。300万も払えばそれですぐ成立する。お前がいくら拒否したって無駄だからな」
「だれがそんなこと言ったの?」
「あいつだよ。あいつは離婚経験者だから。経験豊富だから離婚のことだっていろいろ知ってるんだよ」
「あいつってあの不倫女のこと?」
「とにかく!また来るから。離婚届にサインしておけよ。お前が嫌だなんて言ったってどうせすぐ離婚になるんだから」
「離婚なんか絶対しないってば!」
私は泣きながらカウンターの上の離婚届を破り、玄関を出て行く夫の背中に投げつけた。
玄関ドアの向こうで夫の車が立ち去る音がした。
私はその場に崩れ落ちた。
夫がそんな風に思っていたなんて。
離婚なんか絶対にしない。
私は床におちた離婚届の残骸を見つめて泣いた。
どれくらいそうしていたのか、窓の外はもう暗くなっていた。
お腹をすかせた子供達が、間もなく帰ってくる。
子供たちにご飯を作らなきゃ。
この出来事を悟られないように、笑わなきゃ。
それが果たして正しいやり方なのか、そんなことは私にもわからない。
はっきりしていることはただ一つ、私は子供の心を守りたい。
ただそれだけ。
私は手の甲で涙をぬぐい、リビングのドアノブにつかまり、立ち上がりキッチンに向かった。
私の大事な子供たちが帰ってくるから。
mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!