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蒼色の月 #29 「無断外泊①」

「同窓会で今夜は遅くなるから先に寝てて」
と夫に言われた私は、その夜は早めにベッドに入った。

萎縮して縮こまっていた体中の神経が、その末端まで解き放たれるようなしあわせな気持ちだった。夫婦が普通に話ができるしあわせ。夫婦が普通に一緒に生きていけるしあわせ。私はその普通ということのありがたさをひしひしと嚙み締めた。

そして、半年ぶりに夫と仲直りできた安堵感で、私は間もなく久しぶりに深い眠りに落ちた。


翌朝4時、まだ日が昇らない薄暗がりで目覚めた私は、ベッドの隣に夫がいないことに気がついた。

同窓会でお酒が入った夫の身に、何かあったのではないかと私はとっさに事故を連想した。 

私は慌てて夫の携帯を鳴らす。

「はい、もしもし…」

意外にも夫はすぐに出た。

「健太郎さん、どうしたの?なにかあった?事故?ケガしてないよね?今どこにいるの?」

「……今、実家」

「え?実家?なにかあったの?」

「俺、全然寝てないからもう寝るから」

めんどくさそうにそう言うと、一方的に電話は切れた。

なぜ夫は実家に居るのだろう。
なぜうちに帰ってこないのだろう。
いったいなにがあったのだろう。

私には事情が全く呑み込めない。話を聞きたくてもう一度夫の携帯に電話したが夫は出なかった。

いったいなにがあったの?


数時間後、設計事務所に出社するとそこにはいつも通りの夫がいた。

「夕べどうして帰って来なかったの?なにがあったの?」

「ここは会社だ。公私混同するな」

夫は厳しい口調でそう言うと、私を睨み付けた。
え?なに?
その顔は、昨日話し合った夫とはまるで別人。
頭の中は聞きたいことがいっぱい。

昨日話し合って、分かってくれたんじゃなかったの?
遅くなるけど帰ってくると、言ったんじゃなかったの?
女とは別れるって言ってくれたんじゃなかったの?
私たち仲直り出来たんじゃなかったの?

しかし、社員のいる事務所では聞きたくてもなにも聞けない。夫の側には常に従業員がいるのだ。

昼休み、私は設計事務所を抜け出し夫の実家に電話をした。夕べの事情を聞くために。電話に出たのは義父だった。

mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!