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よわよわ作家とつよつよ編集さん 12

12 表紙打ち合わせで試される


 唐突ですが、ここで読者様に質問です。
 まず、皆さんが新人作家さんで、編集さんたちと表紙の打ち合わせをしている状態だと思ってください。

 その際に皆さんは、

 ①嬉しさを伴う感動・感激と、
 ②自我(=作品イメージ)通そうとする作家性と、
 ③仕事上の他人様への配慮と、
 ④ミッション成功への義務感、

 が、一気に襲ってきたとき、どれを優先させますか?
(全部まとめるにしても、どれをいちばん大事に考えますか?)

 ちなみに、迷う時間はありません。打ち合わせが始まったら、ノンストップです。自身の感情をまとめる時間は、会話の合間にしかないので、せいぜい三十秒~一分程度です。

 その中で、「正解」になるのは、どれなのでしょうか。


 +++


 あとがきを提出してから約二ヶ月後。
 表紙イラストの件で編集さんとの打ち合わせがはじまりました。
 今回は米田さんのほかに、別の編集さん――須束さん(仮名)を交えての打ち合わせです。
(イラスト一枚に関しても、編集部内で役割が違うようで、米田さんと須束さんがどの部分を担当くださっていたのかは、私にはわからないのです)

須束さん「お世話になっております!お待たせしました。イラストの方の進捗共有させて頂きます!」

 米田さんと同様に、須束さんも元気な挨拶をしてくれます。
 須束さんとは今まで一対一で話したことはなく、あまり面識もありません。
 ただし、確実に私よりもお疲れな日々を送っている中、こうしてフレンドリーに接してくださるので良い人なんだなぁと思います。

須束さん「まだ仕上げでもう少し調整をかけていきますが、大まかにはこういう形になっています。構図とかについては米田さんにも事前に確認させてもらっています」

(と、表紙の絵を見せてくれる須束さん)


みつき「……(=゚ω゚)」


1Pみつき(本体)「び、美麗ぃ―――……っ!! なにこれキレイカワイイ鮮やかまぶしー! 身体が光に焼かれて目が溶けて嬉死……んでも本望! 私を超えて砂になる! ありがとう、ありがとう絵師様ブラボ――ゥ!!!!(心の声)」(2.5秒)

2Pみつき(クローン)「ま、待ってみつき! 人語を捨てる前にイラストのココとソコとアレをよく見るのよ! 感激の渦に巻かれて思考停止しないで、理性をたもって、目を覚ましてぇぇ!! パーン!!(平手)」(2.5秒)

3Pみつき(コピーロボット)「ううん? あらゆる意味で予想外。……念のため私も叩いておきまーす。パーン☆( ^ー^)ノ」(0.5秒)

4Pみつき(エクトプラズム)「いろいろあるけど、いちばんの問題は……このイラストがラフ絵ではないというとこかな。パーン☆( ^ー^)ノ」(1.2秒)



 そうなのです。(おたふく顔)

 てっきり、最初はラフ絵を見せてもらえると思っていたのですが……。
 いざ表紙の打ち合わせに入ってみると、提示されたのは「色塗りまで完了しているイラスト」だったのです。

 つまりそれは、『大きな修正はできませんよ』と言われていることに他なりません。
 初期のころに聞いた話では、「最初はラフ絵から」ということだったのですが、あれからすでに半年以上。その間に出版社さんの都合で、やり方が変わったのでしょう。
 すぐに過去のことは頭から切り離し、会話に集中します。

 どう言えば、何を言えば? 同時進行で四人に分かれた自分が脳内で意見を出し始めます。

1Pみつき「イメージとしてはだいたい合ってるよね。きっと絵師さんががんばって、美しく描いてくださったんだよ。もったいないくらいだよ。最高です、素晴らしいですって称賛意見だけを伝えればいいじゃない? みつきには絵を見る目はないんだし、下手なことは言わずに編集さん二人に任せておけばいいと思うんだ」(①嬉しさを伴う感動・感激)

2Pみつき「たしかに大体イメージ通り。いや、それ以上なのは本当だけど。……でもいいの? キャラAの髪型と髪色が設定とは違うし、キャラBの外見イメージも違う。あと細かいところだけど、脇役の色指定も違うよ。事前に編集さんに渡した自作資料には細かく描いたと思ったんだけどなぁ……見てくれてないのかな? もしくはこっちの設定が良くないからあえてスルーされてるのかな。だったら、どちらにしても哀しいところだけど」(②自我(=作品イメージ)通そうとする作家性)

3Pみつき「ちょっと待った。『違う』ことについての意見と、絵師さん&編集さんの動きを混ぜるのはやめようよ。お二人とも、私の作品に対して最善のことをしてくれてるよ。そこはまず、信用しよう。敬意と尊重は忘れずに……でないと何もできなくなるよ? あ、言葉遣いも気をつけてね」(③仕事上の他人様への配慮)

4Pみつき「うーん、1Pの意見はどうなんだろう。その線でいったとして、はたして有意義な打ち合わせになるのかな? より良い作品にするために、こうして会議してるんだし。目的を再確認しようよ。絵師さんのためでもなく、自分のためでもなく、読者さんのために創ってるんだよね?」(④ミッション成功への義務感)

 ※この間、30秒。
 ぐるぐると嵐のように転回する脳内です。意見はちっともまとまりません。

1Pみつき「……時間もないし、意見をまとめよっか。私はね、4Pの言うとおり、読者さんのためを思うなら、自分の感性なんか出さないほうがいいと思うのよ。その結果、表紙が自分のイメージと異なるキャラでできあがったとしても、読者さんにはノーダメージなんだし。私は私で自己イメージをこっそり胸にしまっておけば済む話じゃない?」

2Pみつき「でもさ。本当にそれでいいの? 自分のキャラが意識下で他人の子になっちゃわない?」

1Pみつき「ぐっ……それは辛い、けど。もともと小説って読まれた瞬間から自分だけのものではなくなるし……。今回の場合、おそらく編集さんの力でここまで寄せてもらったのだろうから、それくらいの乖離は黙って見送るべきだと思うのよね」

4Pみつき「待って待って。さっきも言ったけど、意見をいうくらいならしてもいいんじゃないの? それこそ打ち合わせの意味ないじゃないの。作者の意見が不必要なら、わざわざこんなことしてないで、『これが表紙です』って見せて終了でしょ?」

3Pみつき「そう思って、忌憚なく意見を言ったとする。自己イメージに沿った形で修正してほしい部分も指摘したとする。その結果、『なんだこの人。ラフ絵ではなくほぼ完成している絵を見せている意味が分かってないのかな? ないわー。ありえないわー』って思われたらどうするの? 才能がない上にコミュ力までヤバいことがバレたら、この先ないよ?(みつき:3P、言い方ひどくない?)」

2Pみつき「それこそ、編集さんを信用してないことにならないかなぁ。相手はプロなんだから、作家の自我の強さも知ってるでしょうし、意思とワガママの違いぐらいわかってくれてるでしょう? まずはぶつかってみてからじゃないかなー」

4Pみつき「だーかーらー、最初から修正が無理だろうな、って見ればわかる部分を指摘してなんの実はあるの? 誰か幸せになるの? 絵をよく見なよ。色くらいならレイヤー分けしてるだろうからすぐ変えられるとは思うけど、髪型と体型はムリでしょ。……ただ皆さんを困らせるだけじゃない? 口に出したあと「無理ですね」って言われるくらいなら、もう、こっちの本文(原稿)を絵にあわせて変えたほうが丸く収まるんじゃないかなぁ。もちろん変更許可をもらってからだけど」

 ※この間、40秒。


 ああ……。
 同じ自分なはずなのに、意見がまとまらない。
 バラバラなことを言ってるようで繋がってる部分もあるし、こちらを立てればあちらが立たずなところもあります。
 そして、どれが一番強く思うのか。どれが一番正しいのか、自分の取るべき対応がわからない。
 情報処理能力に問題があるんじゃないの? ってつっこまれたら、その通りです、ごめんなさい。
 そして――当然のことなんですが、悩んでいる時間はないのでした。


>13へ続きます

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