「認知科学」、マジカルナンバーの話と諸効果 (2)
2 「認知科学」と記憶
「認知科学」では、人の学習・記憶をさまざまに分類しています。「記憶の多重貯蔵モデル」はアトキンソンが提唱した記憶の保持時間に着目した分類です。「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」に分かれており、「感覚記憶→短期記憶→長期記憶」と行う処理の内容に応じて情報が移動します。
◎偶発的学習・意図的学習
1歳半を過ぎた子どもは、1日に10単語ほど覚えていくそうです。
親が気づくと、子どもは教わってもいないのに、「しまじろう」「あんぱんまん」と好きなキャラクターの名前を呼び、親の真似をして「もしもし?」などと耳に手をあてて誰かとおしゃべりしていますよね。こうした日常生活の中で自然に覚えてしまうことを「偶発的学習」と呼びます。一方、例えば試験対策のために暗記カードを作ってめくりながら学ぶなどは、「意図的学習」と呼ばれます。こちらは覚えようとして、努力して覚えているわけです。
◎感覚記憶
人の記憶は記憶が保持される時間の長さに応じて、「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」の3段階に分けられます。
まず五感によって情報のキャッチが行われ、視覚情報は0.5秒〜1秒、聴覚は5秒、残像のように残ります。 これが感覚記憶です。
この時点では、本人はそれが何であるかまでは分析できていません。瞬間的に視界に飛び込んできたものを認識している状況です。
神経科学では、海馬がこうした感覚記憶をキャッチするとしています。
◎短期記憶(ワーキングメモリ)
五感でキャッチされた情報(感覚記憶)はその中から印象的な情報だけが削ぎ落とされ、短期記憶(ワーキングメモリ)に移されます。短期記憶は瞬間的に暗記された記憶です。例えば電話口で顧客の電話番号を暗記する、というような。この短期記憶は別にワーキングメモリ(作業記憶)とも呼ばれ、人が物事を考える・検討する際に一度知識を広げる場所でもあります。
ワーキングメモリは神経科学で言うところの前頭連合野の働きに依るものです。
◎長期記憶
短期記憶の中からさらに一部の記憶は、その人の頭の中に定着していきます。これを「長期記憶」と言います。
人の長期記憶には、例えば物語で覚える「エピソード記憶」、意味や概念を理解する「意味記憶」、身体で覚える「手続き記憶」があります。
*エピソード記憶
例えば自宅で何か物を失くしたとします。「最後にアレを使ったのはいつだっけ?」から「その後何をしたんだっけ?」と思い返していく内に「そうだった、クローゼットから服を取り出す時に置いたんだった」と自分の1日の物語に沿って、思い出していきます。
このような体験や物語に応じて定着する記憶をエピソード記憶と言います。
*意味記憶
意味記憶はそのものの意味と一緒に覚えていくことです。例えば年号などのランダムな数字だけを覚えて、と言われてもなかなか難しいですが、「1192(いい国)作ろう鎌倉幕府」といった語呂合わせによって、意味も含めると覚えやすくなります。**手続き記憶
手続き記憶は身体に落とし込まれた記憶です。無意識化された動作などを指します。例えば寝ている状態から上体を起こすのに、立ち上がるのに、歩き出すのに、意識して行う人はいません。腹筋に力を込める、背から徐々に腰を伸ばす…などの身体の動きは、考えるまでもなく当たり前のように行われています。
このように、無意識な動作などに関わるのは神経科学では小脳の働きと言われます。
ここまで、記憶というものについて、意図するか・しないか、保持される時間の違いによる、記憶の分類を見てきました。加えて、人によって物事を記憶する方法は異なると言われています。例えば、身の回りに、物事を映像で覚えているタイプの人はいませんか?
人によって、音で覚えるのが得意な人、映像で覚えるのが得意な人、文章で覚えるのが得意な人、など記憶のしやすさには特性があり、これを「認知特性」と呼びます。 (つづく)
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