THE POLAR BEAR EXPLORERS' CLUB

ステラは赤ちゃんのころ森で拾われ、妖精学者のフェリックスに育てられた。とても好奇心旺盛で冒険好きな女の子だ。女子禁制の探検家クラブに特別に許可をもらい、まだだれもたどり着いたことのない極寒の中心地を目指す。そこで見つかったのは、思いがけない自分の出生の秘密だった。

作者:Alex Bell(アレックス・ベル)
出版社:Faber & Faber(ロンドン/イギリス)
出版年:2017年
ページ数:346ページ(日本語版は~400ページ程度の見込み)
シリーズ:不明(4巻まで既刊)
ジャンル・キーワード:冒険、ファンタジー


おもな文学賞

・ノース・サマセット教員図書賞ノミネート (2018)
・カーネギー賞ノミネート (2019)
・ウェストサセックス児童文学賞ノミネート (2019)

作者について

1986年生まれ。2008年のデビュー作『The Ninth Circle』以来、一般向けおよびヤングアダルト向けの作品を発表している。本作は初のミドルグレード作品。邦訳はない。法律の学位を持っており、市民相談局にも勤めている。

おもな登場人物

● ステラ・スターフレーク・パール:雪のように白い肌、白い髪の少女。12歳。赤ちゃんのころ森に置き去りにされていたのをフェリックスが見つけ、連れ帰った。
● フェリックス・イーヴリン・パール:妖精学者で、ステラの育ての父。ホッキョクグマ探検家クラブの会員。
● シェイ・シルバートン・キプリング:ステラより1歳くらい年上の少年。オオカミの言葉を話し、守護オオカミがついているオオカミ使い。
● イーサン・エドワード・ルーク:ステラより1歳くらい年上の少年。巨大イカ探検家クラブの魔法使い。父親の魔法使いとともに、ホッキョクグマ探検家クラブとの合同探検隊に参加する。
● ベンジャミン・サンプソン・スミス(ビーニー):ステラのクラスメート。母がエルフのため、癒やしの力がある。探検家の父が行方不明になったため、おじの家で暮らしている。自分の世界に閉じこもり、人とのコミュニケーションが苦手だが、探検家になって父を探しに行くのを目指している。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 明日で12歳になる少女ステラは、妖精学者の父フェリックスと森で二人で暮らしている。ステラは赤ちゃんの頃、森でフェリックスに拾われた。明日からフェリックスは北極探検に出かける。ステラは気難しいアガタおばさんに預けられることになっていたが、アガタおばさんがステラをフィニシングスクールに入れようとしていると知ると、フェリックスは反対し、ステラも探検に連れて行くことにした。探検隊に女性の参加は認められていないが、どうにかするつもりだ。
 フェリックスとステラは、ホッキョクグマ探検家クラブの本部があるコールドゲートに向かった。行きの船で、ステラはキプリング探検隊長の息子シェイと知り合う。オオカミ遣いで、コアという名の守護オオカミがついていた。コールドゲートに着くと、フェリックスはステラの参加を認めてもらうためにフォグ会長と面会し、ステラは地図や海図のある部屋や、数々の旗が飾ってある部屋を探検した。旗の部屋では、巨大イカ探検家クラブのローブをまとった少年と出会う。父親と共にホッキョクグマ探検家クラブに招かれた、魔法使いのイーサンだ。威圧的な態度をとる子だったが、魔法の腕はまだまだらしく、魔法でヘビを出すと言って出てきたのは5粒のホッキョクマメだった。ステラは大笑いし、イーサンの敵意はますますつのった。
 ステラの参加が認められ、ホッキョクグマ探検家クラブと巨大イカ探検家クラブの合同チームが船に乗り込んだ。ステラ、シェイ、イーサンのほかに、もうひとり子どもが参加していた。ステラのクラスメートのビーニーだ。ビーニーにはエルフの血が流れていて、癒やしの力があった。8年前に父が冒険に出たまま行方不明になり、父が作ったイッカククジラの彫刻を肌身はなさず持ち歩いている。自分の世界に閉じこもっている子で、ステラ以外に友達はいなかった。

 ついに、雪と氷の地アイスランズに到着した。船はいったんコールドゲートに戻り、2週間後に迎えにくる。極寒の中心地をめざしてオオカミゾリで移動を始めたとたん、マンモスの遠吠えが響き、おびえたオオカミたちが走り出した。子どもたち4人だけを乗せたソリは爆走し、シェイが必死にオオカミをなだめ、やっとのことで止まった。しかし氷の橋が崩れたため後戻りはできず、2週間後までに自力で集合場所に戻らなくてはならない。地図を広げても、ここから先はほとんど何も書かれていなかった。イーサンはシェイとビーニーに対しても悪態をつき、先が思いやられた。
 ステラは探検コンパスを「食料」に設定した。針が指すほうに進むと、小さなイグルーがたくさん見えた。氷の妖精の村だ。敵か味方かは分からず、イーサンだけが警戒したが、みんなで行ってみることにした。氷の妖精が飼っているガチョウのたまごは、食べたいものを想像してから割ると、想像した食べ物が出てくる。夢中になってごちそうになり、帰ろうとすると、いきなり妖精たちが襲ってきた。イーサンは魔法で矢を放って応戦し、4人は必死に逃げ出した。どさくさにまぎれて、ステラはガチョウを1羽つかまえた。イーサンは氷の妖精に噛まれ、噛まれたところからどんどん凍傷が広がった。ビーニーの癒やしの力で進行を遅らせることはできるが治すことはできない。4人は氷の虹の向こうにあるという、豪華ホテルへと急いだ。
 ところが氷の虹は見えてきたものの、豪華ホテルらしいものはない。とにかくコンパスに沿って進むと、ぼろぼろの小屋があった。どう見ても豪華ホテルではないが、人がいる気配はある。扉を開けると、15人ほどの男がいる酒場だった。ステラたちが事情を説明すると、赤ひげの大男が、報告書に店のことを書かないなら、と言って治療法を教えてくれた。使い道がないと思っていた探検隊グッズ「口ひげワックス」が特効薬だった。もはや気を失っているイーサンの手先足先に塗ると、すぐに効果があらわれた。そして腕に塗るために服を脱がすと、おびただしい傷跡があった。赤ひげ男は、これは巨大イカに襲われた跡で、このイカに襲われて生き延びたという話は聞いたことがないと言った。イーサンは船のなかでどんなに暑くても袖をまくらなかったが、傷跡を見せたくなかったからのようだった。
 赤ひげ男はキャプテン・アジャックスという名前で、元船長だった。海賊を捕まえて王に引き渡そうとしたところ、盗品も渡すよう言われたので逃げ出し、この地にたどり着いたそうだ。乗ってきた船はこの先の雪原に放置されたままだと言う。イーサンが無事に目を覚ますと、子どもたちはその船を目指して出発した。船まで来ると、4人はロープで体をつなぎ、縄ばしごを作ってよじのぼった。ビーニーが足をすべらせ、イーサンを道連れに落ちそうになる。足をすべらせた理由が、落ちそうになったイッカククジラの彫刻に手を伸ばしたからだと聞いて、イーサンの怒りが頂点に達する。イーサンはイッカククジラの彫刻を船の上から雪原に投げ捨て、その彫刻がビーニーにとってどんなに大事かを知っていたステラはイーサンに飛びかかった。ステラは今までイーサンに抱いていた不満を爆発させるが、イーサンも心に大きな傷を負っていたと知り、愕然とする。巨大イカに襲われたとき、イーサンの兄が身代わりとなって命を落としたのだ。最悪の雰囲気で4人は船内に入り、眠りについた。

 翌朝、イーサンはビーニーに謝り、早起きして探したイッカククジラを差し出した。ふたりは仲直りし、ビーニーはイーサンの腕に触れた。人との接触が苦手でハグもしないビーニーには、とてもめずらしいことだった。魔法のたまごで朝食も済ませて元気になると、4人は船内を探検した。盗品の山もあった。「呪われた宝物」と書かれたコーナーもある。アジャックス船長には「キャベツに気をつけろ」と言われていたが、何のことかやっと分かった。人食いキャベツが襲いかかってきたのだ。4人は人食いキャベツを箱に閉じこめ、さらに北を目指して出発した。
 極寒の中心をコンパスで目指して行くと、真っ白に輝く城が現れた。ほかの探検隊員は見当たらず、4人が一番乗りのようだ。記念写真を撮り、城の探検に向かうが、イーサンは邪悪な魔法の気配がするからやめたほうがいいと言う。雪の女王の城かもしれなかった。ステラが扉をあけると、なにかが起きた。部屋のなかが輝き出し、ステラの頭にティアラが現れた。
 ステラは雪の女王の娘、氷の姫だったのだ。むかし雪の女王が魔女に殺されたとき、氷の姫は行方不明となった。同時に城は眠りにつき、いま目覚めたのだ。鏡の中に現れた女性や、トロールの石像がそう説明して歓迎するが、ステラが城主になることを拒むと、ステラたちを城に閉じこめた。どうにか秘密の通路から逃げだすと、コンパスを「家」に設定して城を離れた。
 船は昨日来ているはずで、出発までぎりぎり間に合うかどうか、というところだった。必死にソリを走らせ、巨大なイエティから逃げきり、ついに集合場所にたどりつく。子どもたちを探しに行くかで口論していた探検隊員たちは、大喜びで迎えた。

 2週間後、盛大な帰国祝賀会が開かれた。子ども隊員たちの活躍は素晴らしかった。持ち帰ったティアラや人食いキャベツ、魔法のアヒルなどはどれも探検隊の貴重な財産となった。今回の探検を通じてかけがえのないきずなを築いた4人の子どもたちは、またいつか一緒に探検しようと約束するのだった。

 おとなと一緒に探検に行ったはずの4人の子どもたちが、思いがけず自分たちだけで探検することになるファンタジーだ。主人公の4人は決してリーダータイプではない。むしろ、頼りない個人個人が集まり、4人でぶつかりあい、知恵を出し合いながら、同じ目的に向かって進んでいく。ファンタジーの世界を舞台にした冒険物語だが、冒険そのものだけではなく、子どもたちの成長、次第に心を開いていく様子が印象的だ。仲良くなった4人がこの先どんな冒険をしていくのか、非常に楽しみである。
 ステラの育ての父は妖精学者で、ともだちのビーニーにはエルフの血が流れている。シェイはオオカミの言葉を話し、イーサンは魔法使い。そしてステラは雪の女王の娘として、大きな力をもつ存在であることが明らかになっる。ビーニーは自閉傾向があるように描かれており、絶えず尊大な態度をとるイーサンも、実は自分の身代わりに兄を亡くし、親の期待にこたえられないことで心の傷を抱え、自分にも他人にも厳しい。ファンタジーの世界ではあるものの、身近な問題を抱えた子どもたちの姿は、現代の子どもたちの等身大の姿だろう。葛藤を抱えているのは子どもだけではない。北の果てで人知れず暮らす元探検家たちも、心の傷を負っている。
 スケールの大きい作品だが、4人の会話が非常に生き生きとし、情景描写も豊かでイメージしやすく、一緒に氷点下の世界を冒険している気分を味わえる。〈探検コンパス〉や〈口ひげスプーン〉などの小道具もユニークで楽しい。なお、〈口ひげスプーン〉は探検家クラブで一番重宝がられたなど、男性社会を風刺する描写もところどころ見られる。
 また、10枚ほどの見開きの挿絵があるが、佐竹美保さんのイラストを彷彿とさせるようなテイストで、物語の世界を広げている。冒険好きな子どもたち、男女問わず楽しんでいただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?