THE NAME OF THIS BOOK IS SECRET

ある日、キャスのおじいちゃんの古道具屋に、〈香りのシンフォニー〉という箱が持ち込まれた。亡くなったマジシャンのもので、香料のようなものが入った小瓶が並んでいる。軽い気持ちで箱の謎を調べはじめたキャスとマックス=アーネストは、永遠の命を手に入れようとする怪しい組織ミッドナイト・サンに追われる。

作者:Pseudonymous Bosch(スードニムス・ボス)
出版社:Little, Brown and Company(アメリカ/ニューヨーク)
出版年:2007年
ページ数:362ページ(日本語版は~400ページ程度の見込み)
シリーズ:全5巻+続シリーズ全3巻
ジャンル・キーワード:ファンタジー、ミステリー


おもな文学賞

・MWA賞(エドガー賞)児童図書部門ノミネート (2008)
・E・B・ホワイトリードアラウド賞児童書部門ノミネート
・ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー
・USA Todayベストセラー
その他受賞・ノミネート多数

作者について

本シリーズの匿名作家。チョコレートとチーズをこよなく愛し、マヨネーズをこよなく憎んでいるほかは、ほとんど情報がないという設定。シリーズの途中で、おとなになったマックス=アーネスト(主人公のひとり)であることが匂わされている。本シリーズは大ベストセラーとなり、約20か国語に翻訳された。本シリーズのほかに『The Unbelievable Oliver』シリーズ、本名ラファエル・サイモンとして『Anti-Book』がある。カリフォルニアでゲイのパートナーとふたりの娘とともに暮らしている。

おもな登場人物

● マックス=アーネスト:コメディアンを目指す11歳の男の子。クラスメートひとりひとりになぞなぞやジョークを言って回るが、ぜんぜん相手にしてもらえない。理屈っぽく、話し出すと止まらない。
● カサンドラ(キャス):マックス=アーネストのクラスメートの女の子。常に危機意識を持ち、サバイバルセットを持ち歩いているが、先生にも友達にも理解してもらえない。毎週水曜日の放課後はラリーおじいちゃんとウェインおじいちゃんの古道具屋で店番をしている。
● ベンジャミン・ブレイク:同じくクラスメートで、共感覚をもつ男の子。抽象画を描き、コンクールで優勝した。
● ドクターL:髪は白髪だが肌はつやつやして若々しい男の人。白い手袋をはめている。
● ミス・モヴェ:ゴールドのアクセサリーに身を包んだ美女。白い手袋をはめている。
● ラリーおじいちゃん/ウェインおじいちゃん:元消防署の建物に住み、1階を古道具屋にしている。キャスはおじいちゃんと呼んでいるが、血のつながりはない。
● ピエトロ・ベルガモ:謎のノートをのこして死んだマジシャン。共感覚をもつ。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 とある水曜日、不動産屋のグローリア・フォーチュンがラリーおじいちゃんとウェインおじいちゃんの古道具屋に段ボール箱を持ち込んだ。最近亡くなったマジシャンの荷物だという。その中に〈香りのシンフォニー〉と書かれた木箱があった。たくさんの小瓶が並び、ラベンダーやシトラスなどさまざまな香料が入っている。使い道はわからない。香水づくりキットかもしれないし、探偵の鼻を訓練するものかもしれなかった。

 校庭で死んだねずみを見つけたキャスは、校庭が汚染されていると校長先生に訴えるが、相手にしてもらえない。ひとりで校庭のすみで地面を掘っていると、同じクラスのマックス=アーネストに話しかけられた。いままで話したことはないが、クラスメートひとりひとりになぞなぞを出して回っていて、疎ましがられているのは知っている。意外にもマックス=アーネストが土壌汚染の危険性を知っていたので、親近感がわく。
 キャスはマジシャンのことを話し、〈香りのシンフォニー〉を見せた。よく調べると二重底になっていて、中からレシピのような紙が出てきた。曲や楽器の名前と香料のリストが書いてある。レシピの順に小瓶のにおいをかいでみるが、なにも起きない。ところが香料の名前を並べると、頭文字が「HELP」となった。マジシャンからのメッセージかもしれなかった。

 キャスとマックス=アーネストはマジシャンの家を調べに行った。外見は普通の家だが、玄関をあけるとエレベーターしかなかい。地下におりると、リビングやベッドルームがあった。ここまでは変わったことはなかったが、トイレの水を流すと隠し部屋があらわれた。いかにもマジシャンぽい、秘密が隠されていそうな部屋だ。エレベーターの音がして、キャスとマックス=アーネストは隠れた。グローリアと内覧希望者がきたのだ。ドクターLという白髪の男性とミス・モヴェという美女で、ふたりともひじまである白い手袋をしている。マジシャンのノートを探しているようだった。ほこりのアレルギーでマックス=アーネストが咳きこみ、隠れているのがバレた。キャスは「ノートはこの部屋にあると思う!」と叫んで飛び出し、ドクターLとミス・モヴェは隠し部屋に、キャスとマックス=アーネストはノートを抱えてエレベーターに飛び乗った。
 ノートは1ページ目以外は白紙だった。1ページ目は暗号文になっていて、アナグラムを解読すると「この下見よ」となった。さらにノート自体を調べてみると、各ページが袋とじのようになっていて、背のリングを外すとアコーディオンのように広がった。内側には、文字がびっしり書かれている。マジシャンの手記だった。
 マジシャンの名はピエトロ・ベルガモといい、ルチアーノという一卵性双生児の弟がいた。ふたりは子どもの頃にイタリアからアメリカに亡命し、サーカスに入ってマジックを披露するようになった。ふたりとも共感覚があり、その能力を活かしたトリックは大人気だった。ある日、〈香りのシンフォニー〉という箱が届き、ふたりは夢中になった。共感覚がある人には、におい以外にも感じるものがあったのだ。後日、箱の送り主だという女性があらわれた。ひじまである白い手袋をはめ、金のアクセサリーを身につけている。ルチアーノはこの女性に気に入られて買い取られ、ベルガモはサーカスから逃げ出した。70年後、共感覚を持つヴァイオリニストが金髪の女性に誘拐される事件があった――というところで手記は終わっていた。手記のなかの金髪女性がミス・モヴェと同一人物かは分からない。マックス=アーネストはこれ以上関わるべきではないと言うが、すでに顔がばれている以上、後戻りはできなかった。

 その頃学校では、生徒のベンジャミン・ブレイクが行方不明になり、騒ぎになっていた。ベンジャミンは最近、絵のコンクールで優勝した。廊下に飾られているベンジャミンの絵はよくわからない抽象画で、タイトルは音にまつわるものばかりだ。キャスは、もしかしたらベンジャミンも共感覚保持者なのかもしれないと考える。
 ベンジャミンが最後に目撃されたのは、「ミッドナイト・サン・センソリウム&スパ」と書かれたリムジンに乗り込んだところだった。永遠の若さを手に入れられるという、セレブ向けのエステだ。キャスはティーンのカリスマタレント、スケールトン・シスターズの妹を名乗って予約をとった。そして待ち合わせ場所に迎えに来た車に乗り、ひとりでミッドナイト・サンに向かった。
 ミッドナイト・サンの敷地全体はエジプト神トートの神殿をまねてつくられていて、中央にはピラミッドがそびえていた。キャスを出迎えたのはドクターLだが、キャスだと気づいていないようだった。スケールトン・シスターズが常連客であることや、携帯電話を預けなくてはならないことを知り、キャスは不安を募らせた。
 執事のオウエンが張りついていてキャスはなかなかひとりになれなかったが、部屋にもどるふりをしてどうにか別行動をとった。施設内を調べ、一風変わった扉を開けると、ミス・モヴェがいた。初対面を装うミス・モヴェは、キャスのとがった耳に整形をすすめる。そして、ディナーにはサプライズゲストが来ると言った。
 サプライズゲストは、マックス=アーネストだった。キャスは会えて心強かったが、ここにいる理由を考えるとパニックに襲われた。「驚いたかしら、ミス・スケールトン。それともカサンドラとお呼びしたほうがいいかしら」ミス・モヴェの問いかけにキャスはとぼけるが、ミス・モヴェはだまされない。マックス=アーネストは催眠術にかかったように、ひたすらミス・モヴェとミスターLをほめたたえていた。
 ミス・モヴェはマジシャンのノートを取り上げるが、1ページ目以外なにも書かれていないと知ると激怒し、キャスとマックス=アーネストを部屋に閉じ込める。ドクターLが来て、古代から伝わる秘密について語った。キャスはドクターLの首に三日月型のあざを見つけた。ピエトロの手記に書かれていた、ピエトロの弟の特徴だ。そう、ドクターLはルチアーノ・ベルガモだったのだ。

 その晩、ミッドナイト・サンには続々と客が訪れ、ピラミッドの扉が開かれた。オウエンはキャスとマックス=アーネストを逃がし、ふたりはミス・モヴェのオフィスを調べに行った。オフィスには、行方不明になっていた〈香りのシンフォニー〉とベルガモ・ブラザーズに関するファイルがあり、隣の図書室には錬金術についての本がたくさんあった。
 ピラミッドの中央には高い祭壇があり、大勢の客が周囲を囲んでいた。ミス・モヴェが97歳の女性と489歳の男性の誕生日を祝福し、長寿の秘薬が年々改良されていると発表した。続いてドクターLが、赤ん坊のように感覚が混在したまま成長する子どももいると話し、ベンジャミンを紹介した。ベンジャミンは電気椅子のような装置にしばりつけられていた。永遠の命の源を手に入れるために、ベンジャミンの鼻から脊髄穿刺をおこなうというのだ。
 キャスとマックス=アーネストはピラミッドにのぼり、頂上の穴から〈香りのシンフォニー〉の小瓶を落とした。紫や緑の炎があがり、ピエトロの仕業だと考えたドクターLはイタリア語で怒鳴りながら祭壇から走り去った。キャスとマックス=アーネストは、そのままロープを伝っておりようとしたが、ロープに火がつき、火はピラミッド内部に広がった。ドクターLがピラミッドの外壁をのぼってきたので、キャスとマックス=アーネストは反対側から逃げ、ピラミッド内へ駆け込んだ。ベンジャミンを助け出して外に出ると、オウエンがリムジンを回してきた。キャスとマックスアーネストは間一髪で飛び乗り、ミッドナイト・サンのある山を下った。途中、道をふさぐようにトラックが止まっていた。キャスを探しに来た、ラリーおじいちゃんとウェインおじいちゃんのトラックだった。

 しばらく経った水曜日、キャスとマックス=アーネストに荷物が届いた。キャス宛ての包みは最新のサバイバルグッズがつまったバックパックで、マックス=アーネスト宛ての包みはタブレット型の暗号解読兼翻訳機だった。ふと見上げると、窓に指で書いたようなメッセージがあった。暗号で書かれていたので早速解読すると、P.B.という人からの、秘密組織トッレクーシ・ソサエティへの誘いだった。そしてオウエンも、この組織のメンバーだったのだ。


 変わり者で友達のいない者同士のキャスとマックス=アーネストが、ひょんなことから一緒に不思議な箱〈香りのシンフォニー〉の謎を追う。持ち主だったマジシャンの家に行くと、隠し部屋があったり、怪しい二人組に追われるはめになったり、持ち出したノートにはしかけがあったり、思いがけない展開に巻きこまれる。そして、ベンジャミンを助けに行った先は、永遠の若さを求める錬金術師の巣窟だった。
 小学校高学年以上向きで、読者も主人公と一緒に謎解きをしながら秘密に迫る。脱出ゲームや地下謎がブームの今にふさわしい作品である。MWA賞ジュブナイル部門にノミネートされただけあり、しっかり組み立てられたミステリーは読みごたえがあり、ぜひ日本の子どもたちにも紹介したい。また、作者スード二ムス・ボスも登場人物のひとりとして絶え間なく口を出し、読者の好奇心を刺激している。
 謎解きのみでなく、母子家庭のキャスと母親の関係、両親は離婚しているのに奇妙な同居を続けているマックス=アーネストの複雑な家庭事情(それゆえマックス=アーネストも精神的に不安定)といった、現代らしい設定も盛り込まれている。また、付録として簡単な暗号の解読方法や、トランプマジックなども紹介されており、読後の楽しみも満載だ。
 5冊シリーズで、「五感」がテーマとなっている。各巻ごとにひとつの感覚がフォーカスされており、第1巻では“嗅覚”と、感覚が混線する“共感覚”がキーワードとなっている。マックス=アーネストの弟が主人公として活躍する続編の「バッド・ブックス」シリーズでは、『穴HOLES』のような矯正キャンプが舞台だが、じつはトッレクーシ・ソサエティの拠点であり、ドラゴンも出てきて、ミッドナイト・サンとのあらたな攻防が繰り広げられる。
シリーズ累計200万部を超える大人気シリーズ。ぜひ日本の子どもたちにも楽しんでいただきたい。

シリーズ紹介(「シークレット」シリーズ)

第2巻 IF YOU'RE READING THIS, IT'S TOO LATE
キャスとマックス=アーネストは、海辺での郊外学習中、ミッドナイト・サンの船に捕まってしまう。味方には日本からの転校生YO-YOJIが加わり、古代の謎をめぐる攻防がふたたび繰り広げられる!500年以上前に造られた謎の生命体の正体は?!ファラオ王の失われたサウンド・プリズムがカギとなる。テーマは“聴覚”。

第3巻 THIS BOOK IS NOT GOOD FOR YOU
キャスのママがチョコラティエのセニョール・ユーゴにさらわれた。ママを助けるべく、キャスとマックス=アーネストとYO-YOJIは、ミッドナイト・サンが経営するカカオ農園に潜入する。手遅れになる前に、3人はチョコの秘密をつきとめることができるのか?!テーマは“味覚”。

第4巻 THIS ISN'T WHAT IT LOOKS LIKE
キャスのピンチ!魔法のチョコレートを食べてしまったキャスは、過去の世界に迷い込む。そこではキャスの姿は人の目に映らない。マックス=アーネストとYO-YOJIはキャスを現実世界に引き戻せるのか?!そしてキャスがジプシーのおばあさんからもらった片眼鏡が映すものは――。テーマは“視覚”。

第5巻 YOU HAVE TO STOP THIS
自然科学博物館への遠足は、危険で命がけのものとなった。キャスは貴重なミイラの指を折ってしまい、罰としてマックス=アーネストとYO-YOJIとともにミイラ展の手伝いをする。やがて巨大なピラミッドや埃まみれの墓に迷い込み――ここはエジプト?!そしてついに、トーレシック・ソサエティが守ってきた秘密が明かされる。テーマは“触覚”。

シリーズ紹介(「バッド・ブックス」シリーズ)

マックス=アーネストの弟、ポール=クレイ(通称クレイ)が主人公の全3巻シリーズ。クレイは「シークレット」シリーズ第4巻『THIS ISN'T WHAT IT LOOKS LIKE』の頃に生まれ、現在小学6年生。兄のマックス=アーネストは2年前に家を出て、ほとんど音沙汰がない。

第1巻 Bad Magic
文化祭でシェイクスピアの「テンペスト」をやることになったクレイ。先生からあずかったノートに「マジックサイアク!」と落書きしたら、翌日、教室の壁にもでかでかと「マジックサイアク!」という落書きがあった。しかも「クレイ」というサインまでついている。身に覚えはないが犯人に仕立てられ、火山島にある矯正キャンプに送られる。キャンプの仲間は変わった連中ばかりなのだが、実は全員、トーレシック・ソサエティのメンバーだった。

第2巻 Bad Luck
火山への実習演習の途中、クレイは海辺で倒れている男子を見つけた。ブレットという名前で、父親の豪華客船から落ちたという。火山の中ではドラゴンのアリエルが目覚める。クレイは図書館で見つけたドラゴン使いの本を読んで、アリエルと交流をはかる。アリエルを連れて船にブレットを送り届けにいくが、ブレッドの父親に取り入っていたのはミス・モヴェだった。そしてアリエルは囚われの身となる。

第3巻 Bad News
本物のドラゴンがいるテーマパークができた、という情報が入った。ミッドナイト・サンと関わりがある可能性があり、キャスが調査に向かったが足取りが途絶えた。クレイはオウエンと親子に扮し、観光客をよそおってキャスの救出に向かう。アリエルもここにいるに違いないのだが、クレイが目にするのは1匹だけではなく、何頭ものドラゴンだった!

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