MY BROTHER IS A SUPERHERO

11歳のルークはスーパーヒーローが大好きだ。おこづかいは全額、マンガ専門店クリスタル・コミックスにつぎこんでいる。ところがある日、宇宙人がやってきてルークではなくおにいちゃんのザックをスーパーヒーローにした。ザックはスーパーヒーローのことなんてなんにも知らないのに!
ルークは大ショックを受けながらも、ザックを支え、ともにネメシスに立ち向かう。

作者:David Solomons(デイヴィッド・ソロモンズ)
出版社:Nosy Crow(イギリス)
出版年:2015年
ページ数:320ページ(日本語版は~350ページ程度の見込み)
シリーズ:全5巻(既刊)


おもな文学賞

・ウォーターストーンズ児童文学賞受賞 (2016)
・ブリティッシュ・ブック・インダストリー賞児童書部門受賞(2016)
・ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト (2016)
・ウェストサセックス児童文学賞ノミネート (2016)

作者について

スコットランドのグラスゴー生まれの作家・脚本家。映画「ジム・ヘンソンの不思議の国の物語」(原作『砂の妖精』)の脚本を手がけた。児童書は本書がデビュー作だが非常に高い評価を受け、20か国語以上に翻訳されている。

おもな登場人物

●ルーク・パーカー:主人公の少年。11歳。スーパーヒーロー大好き。足がすこし不自由で、靴に特殊なインソールを入れている。
●ザック・パーカー:ルークの兄。14歳。成績優秀。スーパーヒーロー“スターラッド”になる。
●ララ・リー:ルークのクラスメート。ルークを巻き込み、スターラッドの正体を暴こうとする。
●カラ・リー:ララの姉で、ザックの同級生。ザックはカラに片思いしているが、相手にされない。
●サージ:ルークの親友で、スーパーヒーローやヴィランに詳しい。スターラッドにもすぐに夢中になり、ウェブフォーラムを開設する。
●クリストファー・タルボット:マンガ専門店クリスタル・コミックスのオーナーで大富豪。
●ゾードン議長:別宇宙の最高評議会代表であり、異次元間トラベラー。ザックをスーパーヒーローに任命する。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 ルークはママとパパと兄ザックの4人家族で、ロンドンに住んでいる。ある晩、いつものようにツリーハウスでザックは勉強し、ルークはマンガを読んでいたときのことだ。ルークがトイレに行ってもどってくると、ザックの様子がおかしい。なんと、ルークのいない間に異次元の宇宙船があらわれ、ゾードン議長という宇宙人がザックをスーパーヒーローにしたというのだ。ザックの胸には3つ星のタトゥーがあらわれ、6つのスーパーパワーが与えられた。パワーの全容はまだわからないが、テレキネシスを使えることは分かった。ルークが持っていた懐中電灯を、触らずに引きよせたからだ。ザックは"スターラッド"を名乗ることにしたが、スーパーヒーロー好きのルークは自分が選ばれなかったことにショックを隠しきれなかった。
 スターラッドには「ネメシスを撃退せよ」という指令が与えられていた。ネメシスが何だか分からないが、とりあえずルークはスーパーヒーローについて何ひとつ知らないザックにレクチャーする。正体を明かしてはいけないので、マントやマスクが必需品だと力説したが、ザックは却下し、「S・L」のロゴのブローチだけ採用する。一緒にクリスタル・コミックスにいった帰り、ザックは暴走してきた二階建てバスを素手で止めるという離れ業をなしとげる。マスクはなかったが、パーカーをすっぽりかぶり、紐を引き絞って顔を隠した。公共の場での活躍は、目撃者がインターネットにアップした動画であっという間に広がり、スターラッドは一躍有名になる。学校はスターラッドの話でもちきりで、スターラッドを主人公にしたコミックスも発売された。ザックもすっかりその気になり、脳内レーダーで困っている人を見つけては助けに行った。でも、スターラッドが有名になればなるほど、ルークは秘密を抱えるのが苦しくなる。しかも、クラスメートのララに、スターラッドの正体をあばくのを手伝ってほしいと言われる。ララはバス事件のときにスターラッドが空からではなく歩行者のなかから登場したことに着目し、近くのクリスタル・コミックスにいたのではと推理していた。ララとルークはクリスタル・コミックスの管理人室にしのびこみ、監視カメラの映像を確認する。ところが、なぜかルークとザックがいた午後2時から午後3時までがカットされていた。
 クリスタル・コミックスのオーナー、タルボットがなにか知っているかもしれないので、ルークとララは学校新聞のためのインタビューと称してタルボットの自宅を訪ねる。タルボットの家には、コートを脱がす装置や機械の執事など、さまざまな自作のロボットがあった。スーパーヒーローの話でタルボットとルークは意気投合し、来月開店する7階建てのフラッグシップストアのオープニングイベントに招待してもらえることになる。話をさりげなく店のセキュリティにもっていくと、監視カメラの映像は経営責任者のウォルター・エドモンド・ゴーに任せているという。ルークとララは招待状の送付先として住所を書き残して帰った。
 家に帰ると、ザックの様子がおかしかった。スーパーパワーが効かなくなってきているという。胸の星印も薄くなっていた。しかもスーパーヒーローの任務にかかりっきりで成績も落ちていて、人生で初めて弱気になっていた。さらに、ザックはまだガールフレンドがいないのに、ルークはララと付き合っているらしいということにも(表向きはそういうことにして、一緒に行動しやすくしていた)、打ちのめされていた。ザックはララの姉カラを好きだったが、相手にされていなかった。その晩、ルークとララはツリーハウスで待ち合わせ、ララはウォルター・エドモンド・ゴーは実在しないかもと報告する。本社に連絡しても休暇中だと言われたうえに、グーグル検索でも引っかからなかったのだ。家で物音がしたので見にいくと、パワースーツを着た男がザックを連れ去ろうとしていた。必死に追いかけたが、ナンバープレートを外した車で逃げられる。そのとき、ルークの頭のなかにザックの声が響いた。緊急時に発動するテレパシーらしい。ザックは火山が見えると言い残し、それきり通信は途絶えた。ルークはスターラッドの正体をララに打ち明けるが、ララはそれほど驚かなかった。以前、カラが排水溝に落としたスマホをザックがテレキネシスで拾ったとき、普通の人にはできないはずだと怪しんでいたのだ。
 翌朝、ザックがいないことに気づいた両親は警察を呼んだ。ルークは学校でサージを仲間にひきこむ。スーパーヒーローとヴィランについて詳しく、一緒にスーパーヒーロー・キャンプにも行った仲だ。スターラッドの正体を聞かされたサージは仰天するが、もし敵がスターラッドを殺すつもりなら世間に大々的にアピールするはずだと言い、命は大丈夫だと保証する。ルークは、ウォルター・ゴーはタルボット自身ではないかと考えた。放課後、3人で尾行しようとしたが、ルークはパパが校門まで迎えに来たため抜けられず、ララとサージに任せる。ルークの家には、おじいちゃんおばあちゃんが4人とも集まっていた。おじいちゃんが見ていたiPadに、首相からの臨時ニュースが流れた。1週間後に小惑星が地球に衝突し、壊滅的な被害をもたらすという。この小惑星こそ、ネメシスだったのだ。そしてニュースは、「スターラッドの力を求めている。ぜひ連絡してほしい」と締めくくられた。もちろん、スターラッドはあらわれない。タルボットの尾行もうまくいかなかったが、ひとつだけ大きな手がかりをみつける。フラッグシップストアの招待状が、火山の形をしていたのだ。やはりタルボットがあやしく、監視カメラに映ったザックとルークに最初から目をつけていて、ルークが残した住所をたよりにザックを誘拐したのだと思われた。フラッグシップストアを偵察にいくと、建物自体が火山の形をしていた。ザックはここに閉じこめられているに違いなかったが、どこからも入れない。ルークたちはオープニングパーティのときに救出作戦を決行することにした。小惑星衝突の前日だ。
 パーティ当日、フラッグシップストアには続々とゲストが到着した。ドレスコードは「ヴィランに扮すること」で、ララはキャットウーマン、サージはロキ、ルークはサンドマンに扮した。タルボットが壁のスクリーンに映し出され、最新ニュースを伝えた。小惑星が射程距離に入ったら、地球各地から同時にミサイルが発射されるという。その瞬間まであと2時間。スクリーンはデジタル時計に切り替わり、カウントダウンが始まった。
 噴火口にあたる最上階の7階に行くと、タルボットはスーパーヒーローの格好をし、電極のついたヘルメットを通してザックのスーパーパワーを吸い取っていた。タルボットは自分自身がスーパーヒーローになるために、さまざまな実験や研究をしていて、小惑星も自分で撃退しようとしていた。ルークは、スターラッドに任せるほうがスーパーヒーローらしい行動だと言って説得しようとしたが、タルボットは聞き入れない。タルボットは巨大なパワースーツを着こみ、天窓から飛び出した。ルークはザックをかかえてタルボットにしがみつき、一緒に浮かびあがる。町じゅうで火の手があがり空は一面の煙だったが、煙の雲を抜けると星空が広がった。星の光を受け、スターラッドのスーパーパワーが回復する。スターラッドはルークを抱えてフラッグシップにもどり、ルークを安全な場所に避難させると、ふたたび飛びあがってネメシスの前に立ちはだかった。ミサイル発射まであと4分。スターラッドがフォースフィールドを築くと、ネメシスはコースを変えながら空を切った。空の避け目から、もうひとつの宇宙が見えた。スターラッドはゾードン議長の宇宙と銀河系の両方の力を受け、ネメシスをはじき返す。こうして平和が訪れた。
 夏のあいだ、ザックとルークとララはよくツリーハウスで過ごした。9月から中学に上がるのは気が重いが、どうにかなる気もしてきた。スーパーヒーローにはなりたいけれど、スーパーヒーローの弟も悪くないなと思いはじめていた矢先、ふたたびショッキングなできごとが起きる。ザックがトイレに行っている間にゾードン議長が来て、今度はララにスーパーパワーを与えていったのだ!


 スーパーヒーローが大好きなルークと、勉強ばかりで成績優秀なザックは対照的な兄弟だ。しかも思春期にさしかかったザックはルークを子ども扱いしている。そんなとき、広がる一方だったふたりの距離をぐぐっと縮める事件が起きた。ザックがスーパーヒーローになったのだ!
 はじめのうちは、自分がスーパーヒーローになれなかったことに納得いかないルークだが、スーパーヒーローに関する知識を総動員して兄をサポートするようになる。ザックのほうもだんだんその気になっていくのがほほえましい。また、いままで挫折を知らなかったザックが困難を経験することで成長し、人の痛みをわかるようになる姿も描かれている。
 スーパーマンをはじめ、スーパーヒーローやヴィランの名前が多数登場する。いちどしか登場しないものがほとんどだが、50以上のキャラクター名がちりばめられ、ルークのマニアっぷりがうかがえる。キャラクターのみならず、スタン・リーやスティーヴ・ディッコの名前も出てくる。アメコミファンはもちろんルークと一緒に盛り上がれるが、知らなくてもじゅうぶん楽しめる。コミックスや映画に手を伸ばすきっかけにもなるだろう。また、ルークの父はスター・ウォーズファンで、ルークの名前も当然ルーク・スカイウォーカーからきている。
 最初から最後までユーモアたっぷりで、楽しい作品だ。そして、めでたしめでたしで終わるかと思いきや、またもやルークはトイレに行っている間にスーパーヒーローになりそびれる。間が悪くてかわいそうだが、最後までしっかり笑わせてくれ、次巻を期待させてくれる。第1巻の版権は約20か国が取得済みだ。暗い話題ばかりの時代に、夢と希望と笑いを与えてくれる物語を届けたい。

シリーズ紹介

第2巻 My Gym Teacher Is an Alien Overlord
ルークは怒りに燃えていた。エイリアンが体育の先生に化けていて、地球を攻撃しようとしているのがわかっているのに、だれも信じてくれないのだ。ザックもララもスーパーヒーローの仕事で忙しいし・・・。
ついにルークは、自分の手で世界を救おうと立ち上がる。

第3巻 My Evil Twin Is a Supervillain
ルークは異次元からきたというステラと対面する。ルークとふたごだというが、どうも怪しい。はるばる時間と空間を旅してきたのに、無計画だというのだ。きっと、悪いことをたくらんでいるにちがいない――ルークはステラの正体と目的にせまる。

第4巻 My Arch-Enemy Is a Brain In a Jar
ルークとザックの体が入れ替わった! ザックはルークの不自由な足で、ルークはザックのスーパーパワーで、地球の危機を守らなくてはならない。 家族ででかけたレジャーパークに宿敵があらわれ、ふたりの力が試される。

第5巻 My Cousin Is a Time Traveller
ルークのパパはヘンな機械ばかり集めているが、どれもうまく動かない。まさか、機械の反乱!? もしかして、未来の機械がスターラッドのデートを邪魔しにきたのかも――やるべきことはわかっている。ルークは仲間とともに立ち向かう。

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