DRONE RACER

ドローンチーム“カーソネーターズ”の3人は、レースでドローンを壊され、部品を探しにスクラップ置き場にしのびこむ。そこで見つけたのは、最新AI搭載の超高性能ドローン、バンタ。カーソネーターズはバンタの活躍でレースを勝ち進む一方、何者かに狙われる。つかまるのが先か、レースの勝利が先か――手に汗にぎる攻防が繰り広げられる。

作者:Andy Briggs(アンディ・ブリッグス)
出版社:Scholastic Ltd.(イギリス)
出版年:2018年
ページ数:312ページ(日本語版は~350ページ程度の見込み)


作者について

1972年イギリス生まれの作家・脚本家。スーパーヒーローの力を身につけた少年たちが主人公のHero.comシリーズ、世界征服をたくらむ少年たちが主人公のVillain.netシリーズなど、約20冊の著書がある。邦訳に『スパイ学』(こどもくらぶ翻訳・編集 今人舎 2006年)がある。

おもな登場人物

●カーソン:全員12歳の最年少ドローンチーム“カーソネーターズ”のパイロット。1年前に母を亡くし、父とふたり暮らし。最近は父とのすれ違いが多く、ぎこちなさを感じている。
●トリックス:カーソネーターズのエンジニア。家が裕福なため、部品などの購入資金を調達しやすい。
●エディ:カーソネーターズのリーダー。渉外担当。18歳の姉ケイとは犬猿の仲だが、親に内緒で何かをするときは味方になってもらう。
●AG-421バンタ・ホーク(バンタ):最新AI搭載のドローン。超高性能で、自分の意思で行動したり話したりできる。女性の声で話す。また、人間のバイタルを感知して感情も推測する。空を飛ぶことが大好き。
●ジラ・ズシ博士:インド人の技術者。バンタの開発者で、バンタはズシ博士を「お父さん」と呼ぶ。

おもなライバルチーム
●ローガン46:地元の強豪チーム。コンストラクター・リーグの全英大会は2位通過。世界大会では優勝候補にあがる。卑劣な技を使うことで有名。
●エアブリッツ:地元の強豪チーム。カーソネーターズのドローンがぶつかって自分たちのドローンが壊されたことを根に持っている。コンストラクター・リーグの全英大会は1位通過。
●シクスタス:地元の強豪チーム。電子レンジ並みの大型ドローンを使う。
●スレッジハンマー:ロシアの最強チーム。攻撃力の高さで有名。世界大会の優勝候補。
●シュリケン:日本の最強チーム。世界大会では準優勝に輝く。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 カーソネーターズはメンバー全員12歳の最年少ドローンチームだ。パイロットのカーソンはVRのゴーグルをかけ、コントローラーを操作する。エンジニアのトリックスはiPadで同じ画面をモニターし、指示を出す。チームマネージャーのエディは、レース中は応援とおやつの消費に徹するが、レースに申し込んだり、インタビューに答えたりする時にチームの代表として立つ。
 ドローンレースは最新のモータースポーツだが、カーソンの父は理解してくれない。ただのくだらない、金がかかる遊びだと思っている。しかも、母が死んで以来、仕事を掛け持ちしてまで夜遅くまで働いていた。カーソンは、父さんは自分と家にいたくないから仕事ばかりしてるんだと思っていた。

***

 地元のレースでローガン46の策略にはまり、ドローンを壊されたカーソネーターズの3人は、すっかり落ち込んでいた。ドローンにはお金がかかる。3人はおこづかいをつぎこみ、比較的裕福なトリックスの両親に時々援助してもらってはいたが、修理のために部品を買うのも、ましてや新しいドローンを買うのも無理だった。
 カーソンの思いつきで、3人はスクラップ置き場にしのびこむ。なにか使える部品があるかもしれないからだ。しかし、カーソンは番犬に追いかけられ、2人とはぐれた上にスクラップのすき間に落ちてしまう。途方にくれたカーソンは、思いがけないものに助けられた。近くにあった物体が浮かび上がり、車ほどの大きさになると、ロープのようなものを垂らしてカーソンを釣り上げたのだ。そのまま、カーソンは家まで運ばれた。
 これが、バンタとの出会いだった。バンタは最新鋭のドローンで、スピードも細かい動きもトップクラスだ。特殊な素材で作られ、大きさも形も自由自在に変えられる。最新AI搭載のため、自分の意思で自由に飛ぶことができたが、周波数を指定すればその周波数のコントローラーで操作することもできた。しかし何より素晴らしいのは、会話ができることだ。ひとりで家にいても、カーソンはさみしさを感じることが減った。でも、こんなに高性能のドローンがなぜスクラップ置き場にあったのか、バンタにきいても教えてくれなかった。
 バンタの本当の持ち主はわからないままだったが、カーソネーターズはドローンレースに申し込む。念のため、偽名での応募だ。優勝できたら1000ポンドの賞金で新しいドローンを買う予定だ。

 記念すべき第1回コンストラクター・リーグの地方大会は、なんでもありのレースだった。ライバルへの攻撃もゆるされている。前回のレースで一緒だったローガン46とエアブリッツも敵意をむきだしにしていた。
 性能では負けるわけがないバンタだが、レースに出るときはフェアプレーでいきたいのでコントローラーで操作することにしていた。数々の障害物やライバルとの攻防でカーソネーターズは3位に終わり、賞金がないのでがっかりする。ところが思いがけない展開が待っていた。1位から5位までのチームは、ロンドンで開かれる全英大会に出られるというのだ。その先には世界大会が待っている。気合いを入れ直して盛り上がるものの、大問題があった。12歳の3人だけではロンドンに行けない。そこで、エディは18歳の姉ケイに付き添いを頼む。エディとケイは犬猿の仲だが、こういうときは味方になってくれる。優勝したら賞金を渡す、という条件で話がついた。
 全英大会には25チームが集まり、地方大会よりも凝ったコースが組まれていた。障害物もクリアが難しく、敗退ルールも厳しい。積極的なライバルへの攻撃も認められていた。主催者側が用意した攻撃用ドローンもある。バンタには武器も装備されていたが、カーソネーターズはなるべく攻撃は避ける方向でいくことにした。
 レースの途中、エディは怪しい黒服のふたりを見かけた。しばらく前、カーソネーターズの3人の家にだれかが侵入したのだが、もしかしたらそのことに関係しているかもしれなかった。エディはこっそりとふたりの後をつけた。
 エディは黒服に捕まり、バンタ優勝の瞬間を見逃す。エディが盗み聞きしたところによると、黒服のふたり、ベバンとアンダースは全出場メンバーの家に忍び込んでいたらしい。ねらいはバンタだとしか思えなかった。おそらく、もとの持ち主が探しているのだろう。その日の帰り、カーソネーターズを乗せた車は、バベンとアンダースが乗った車に追いかけられた。運転手がスタンガンに撃たれて気絶したが、バンタが車を自動操縦モードに切り替え、どうにか逃げ切った。

 世界大会の開催地は地球の裏側、韓国だ。トリックスとエディは行く気満々だが、カーソンは迷っていた。バンタは手放したくないが、そのせいで身に危険が迫るなんて思ってもみなかったからだ。しかし、バンタに空を飛ぶのは大好きだと言われて意を決する。これを最後に、とカーソネーターズは韓国に行くことにした。ふたたびケイに付き添ってもらい、バンタが航空会社のシステムにアクセスして用意した航空券で韓国に向かった。
 3万人収容のスタジアムは満員だった。世界じゅうのテレビカメラも入っている。追っ手も韓国を目指して飛んでくるだろう。無名だったカーソネーターズは全英大会優勝を機に注目を集めていた。パイロットの居場所に規定はないので、カーソンは客席の屋根の上からコントローラーを操作した。そしてついに、追っ手があらわれる。会場に到着したベバンはケイを人質にしてレースをやめさせようとし、アンダースは屋根の端までカーソンを追い詰めた。
 最終ラウンド、もう少しでゴールというところでカーソンは屋根から落ちた。同時にゴールを切ったバンタは一瞬でカーソンのもとに駆けつけ、救い上げるとスタジアムの駐車場に降ろした。駐車場には、軍のヘリコプターが来ていた。降りてきたのはカーソンの父とインド人の男性――バンタを開発したズシ博士だった。バンタはズシ博士に返された。平和利用のために開発されたバンタだったが、その性能に着目した空軍に軍事利用されそうになったため、逃げ出したのだ。カーソンは父にあたたかく迎えられて驚く。父は、カーソンを嫌っていたわけではなかった。大事にしているからこそ、母の医療費で減った蓄えの埋め合わせをするために仕事を掛け持ちしていたのだ。父は、冒険好きだったという母の思い出話を聞かせてくれた。

 夏休みが終わり、学校が始まった。優勝賞金が入ったこともあり、カーソンの父は仕事を減らし、息子と過ごす時間を増やした。カーソンの机には新しいドローンが置いてあるが、カーソンはなにか物足りなさを感じていた。ある日、ズシ博士から小包が届いた。中にはガラスのボールが入っている。バンタの部品だったボールにそっくりだった。ボールは触手のようなものを伸ばすとドローンにくっついた。そして、懐かしい声がした。
「こんにちは、カーソン。さみしかった?」

 モータースポーツの最先端、ドローンレースを題材にしたSF作品。現実を超越した技術も出てくるが、ドローンも手軽に入手できるようになったいま、近未来の子どもたちの姿がそのまま描かれた作品と言えよう。日本だけでなく世界じゅうの子どもたちに夢を与える作品だ。舞台は夏休みで、夏の読書にオススメの1冊だ。
 レースシーンはどれもスピード感満載で、手に汗にぎる展開が続く。独自の趣向を凝らしたドローンの数々も見どころだ。怪しい黒服との攻防もスリリングで、カーソンたちがとっさの機転や協力体制で切り抜けるのも痛快だ。また、どちらかというとおとなしい3人が地球の裏側まで飛び出す設定は大胆でスケールが大きい。
 そして、近未来を舞台としながらも、物語の核となるのはいつの世も変わらない家族の愛や友情だ。大切な人を失い、溝が広がっていく父と息子の姿がもどかしいが、痛みを抱えながらも支え合っていける未来が予感でき、心があたたまる。また、友達は人間とは限らない。バンタは最新鋭のAIでありながら、カーソンの友達であり姉であり母親だった。最後に再会したバンタの言葉が心にしみる。
 また、科学技術の進歩は平和のためだけなのか、という問題に触れていることも見逃せない。事実、科学技術の発展は、人々の生活を豊かにしただけではなく、爆弾やミサイルの発展にもつながった。未来を担う子どもたちが、どんな世界を作りたいかを考えるきっかけにもなるだろう。
 アンディ・ブリッグスは近未来を舞台にした児童書シリーズをいくつか発表しており、ほかの作品も気になるところである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?