最先端のデジタル技術で、世界のものづくりをリードしていく|株式会社AIS北海道 【会員インタビュー】
ものづくりというと、ベテラン職人たちの技術と経験、それに基づく勘によって支えられていると想像しがち。しかし、製造業におけるオートメーション化の歴史は古く、近年ではAIやIoTなどの技術を活用したスマート工場への転換が図られています。製造工程の効率化のためだけではなく、製品開発そのものにも最先端のデジタル技術が活用されてきました。
その技術力を鍛え、日本のものづくりを支え続けているのが、「株式会社AIS北海道」です。取締役常務であり、博士(情報科学)の学位をもつエンジニアでもある髙嶋英厳さんに、デジタルエンジニアリングの最前線についてお話を伺いました。
製造業のためのデジタル技術を開発する
-主な事業についてお聞かせください。
株式会社AIS北海道の事業は、CADとCAEを活用したデジタルエンジニアリングサービスです。技術面から、主に製造業のものづくりを支援させていただいています。
例えば、自動車。基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」は言うまでもなく、安全性や耐久性、快適性などの性能が、定められた基準を満たさなければいけません。工場で量産されるまでの道のりは長く、「設計」をもとに「試作」して、厳しい「実験」を重ねていくため、開発には膨大な時間とコストがかかります。
そこで、まずはコンピュータの中で「設計」「試作」「実験」を行うようになりました。このとき、設計に使用するツールがCAD(Computer Aided Design)、設計した製品を、さまざまな条件下で仮想実験するツールがCAE(Computer Aided Engineering)です。このようなデジタルツールを駆使して、より良いものづくりを支える技術を「デジタルエンジニアリング」といいます。
バーチャル空間であっても、自動車の性能を確認するには、まず、試作車をつくらなければいけません。それは、ほかの製品でも同じ。CAEのシミュレーションは、試作品の「モデル」がないと始められないのです。しかし、モデルの作成は作業量が膨大で、かなりの時間がとられます。ここは自動化して、負担軽減と時間短縮を図りたいところです。そこに用いられる技術の一つが、弊社と北海道大学との共同研究成果をベースにしている「AIによる三次元形状認識技術」。これは、画像認識の3Dバージョンです。AIが人間の目の代わりとなり、部品形状を認識し、モデル作成を効率化してくれます。
このように、ものづくりにはいろいろな技術が使われています。そのなかでも、弊社が最も得意としているのは、CAEであり「物理シミュレーション」。これは、自動車の衝突実験のように、モノに荷重を加えたときの状態を分析する「構造解析」のほか、液体や気体の流れを予測する「流体解析」などがあります。これらの技術を磨き、また、新しい技術を開発して、製造業の課題解決を図っているのです。
北海道を愛する、デジタルエンジニアリングの頭脳集団
-AIS北海道は、ひとことで説明すると、どんな会社ですか。
AIS北海道は、エンジニア集団です。従業員70名のほとんどが技術職であり、専任の営業職はおりません。それは、会社設立の理由とも大きく関わっています。
じつは、創業社長であり、親会社の株式会社アルゴグラフィックスの会長でもある藤澤義麿が、出身地である北海道に強い思いがあり、「エンジニアが活躍できる場を北海道に創出したい」と考え、2005年、株式会社アルゴグラフィックスのグループ会社として、札幌市に株式会社アルゴシステムサポートを立ち上げ、CAD関連の技術支援サービスを開始しました。2011年、同じく札幌市でCAE関連の技術支援サービスを手がけていた株式会社ISID北海道がグループ会社の一つになり、社名を株式会社ISS北海道としました。2014年、両社を統合することで、総合的なデジタルエンジニアリングサービスを提供する現在のAIS北海道になりました。社名や組織体制は変わりましたが、エンジニアが技術に集中できる環境は変わらず、年々進化し続けています。
-社名のAISとは?
AISは、Advanced Information Systemsの頭文字です。正式な読み方は「エイアイエス」ですが、ローマ字では「あいす」とも読めます。それを漢字に置き換えると「愛す北海道」。北海道への愛が込められた社名なのです。それが伝わるのか、社内には北海道出身者と北海道にゆかりのある人が多いですね。
社是にも「故郷を愛す」という文言が入っています。この故郷には二つの意味があって、一つが、弊社の原点である「北海道」です。
もう一つが、「地球」。科学と技術に国境はないので、技術者としての故郷は地球全体だという考えです。科学と技術の進歩は、産業を発展させ、人の生活を快適にする一方で、地球環境の悪化を招きました。それに歯止めをかけ、改善していくのもまた科学と技術です。故郷である北海道、そして地球を大切に想う気持ちをもち、技術としっかり向き合いましょうというわけなのです。
-社員のみなさんは理工系学部を卒業されているのですか。
募集要項では「学部・学科不問」としていますが、結果的には理工系人材ばかりです。ただ、私たちの扱っている技術や領域はちょっと特殊なので、入社してから学んでもらうことになります。新卒者向けには、3カ月間の教育プログラムを用意して、デジタルエンジニアリングの考え方と、CADやCAEなどツールの使い方をしっかりと教え込みます。そのあとは、配属された部署で先輩に教わりながら、知識と技術を習得していく仕組みです。
また、四半期ごとに「AIS講座」を開催していて、そこでは技術をより深く学べるようにしています。その講座を社外向けにアレンジして「CAEマスター講座」をつくりました。「CAEの使い方ではなく、考え方を教えてほしい」という、ものづくりの現場からのご要望が少なくないからです。
考え方といっても難しい数式などは使わず、仕事に生かせるように、「シミュレーションとは何か」「モデルと現物の間には必ず差が生じる、そのときにどう考えればよいのか」など、技術の本質を伝える内容にしています。
医療や宇宙、カーリングの研究から技術が生まれる
-デジタルエンジニアリング事業だけではなく、研究開発にも取り組まれていますね。
私たちが提供している技術というのは、形がありません。目には見えませんから、技術力の維持・向上はかなり大変です。そのため、研究を通して新しい技術の創出や高度な技術の習得に努めてきました。
研究分野は幅広く、製造業に関連する工学はもちろん、情報科学、スポーツ科学、医療科学など多岐にわたります。
-いまは、どのような研究を?
一例として、医療分野では、北海道大学、旭川医科大学と共同で「流体-構造連成解析を基にした大動脈解離シミュレーションモデルの構築」の研究に取り組んでいます。
どんな研究かというと——。心臓から送り出される血液が流れている「大動脈」。この内部の壁が剥がれて、血液の流れが二つになる病気が「大動脈解離」、瘤(こぶ)のようなものができる病気が「大動脈瘤」です。どちらも大動脈が破裂するリスクがあるため、通常は、ステントグラフトと呼ばれる人工血管を埋め込む手術を行います。その際、大動脈の形状も、病気が発生する場所も、人それぞれに異なるため、現状では、CTなどの検査の結果と医師の専門的な知見・経験に基づき、ステントグラフトの最適な位置を決めているようです。
そこで、医師の専門的な知見・経験が必要となる手前の部分をシミュレーションによって効率化できれば、病気の診断や治療に役立つ可能性があるのではないか。そう考えて、シミュレーションを用いてステントグラフトの最適な位置を割り出すための技術開発に取り組み始めたのです。じつは、人体のように一人ひとり異なるものに対してのシミュレーション——私たちは「パーソナライズされたシミュレーション」と呼んでいますが、これは、けっこう難しい。でも、この技術を追究すれば、工業製品を対象としたシミュレーションやデジタルエンジニアリングの可能性がまた広がります。
そのほかの分野では、宇宙関係で室蘭工業大学とともにロケットのエンジンのシミュレーション、精密工学関係で東京大学とともにウォータガイドレーザという加工機のシミュレーションに取り組んでいます。これらの研究から生まれる新しい技術を、私たちのメインのフィールドであるものづくりに還元していくわけです。
-北海道ならではの研究はありますか。
北海道との縁から始まったのが、カーリングの研究です。
2020年10月、北見市に「アルゴグラフィックス北見カーリングホール」がオープンしました。同年11月、北見工業大学・はこだて未来大学・電気通信大学・株式会社アイエンターと弊社で「カーリング研究に関する包括連携協定」を締結し、それぞれの強みを生かしながら、研究を進めています。
この施設の特徴は、競技力向上支援を目的として、最先端のテクノロジーを備えていること。さらに、3つあるシート(整備された氷のレーン)のうち1つが研究用で、カーリングストーンの軌跡を追跡したり、氷面の温度を計測したりと、詳細なデータが取れるように設計されています。
私たちもいろいろな実験をしていて、例えば、空調からの空気の流れが、氷面の状態をどのように変化させて、ストーンの動きにどのような影響を与えるのかを調べて、そのデータを解析しています。
ところで、カーリングストーンが曲がる仕組みは、完全には解明されていません。あの曲がり方というのは、理論上ではあり得ないのです。その謎の物理現象を、北見工業大学の研究チームがずっと探求しています。その知見と、ストーンの観測データをもとにして、私たちは、シミュレーションを行い、その現象を引き起こす要因を追究しているところです。物理現象が解明されたら、「カーリングシミュレータ」をつくり、試合の戦術やトレーニングに役立てたいと考えています。
-AIS北海道は、カーリングチーム「ロコ・ソラーレ」のスポンサーでしたね!
弊社の社長が北見市出身という縁があり、2010年にチームが発足したときからアルゴグラフィックスを中心としてグループ全体で応援してきました。そのため、私たちが培ってきた技術を使ってチームをサポートできないかと考え、北見工業大学との共同研究を立ち上げました。
唯一無二の技術で「世界のAIS北海道」に!
-これからの展望をお聞かせください。
技術の追究に終わりはないので、今後も愚直に技術を追究し続け、その技術で製造業を支援し続けたいと考えています。特に、これまでの常識では困難な大規模かつ高度なシミュレーションを、簡単に取りまわせる技術をもち、あらゆる課題を解決することを目指します。これらの技術群の獲得が、今後将来にわたって私たちのコアビジネスを支えると考えています。
また、違う側面からのお客さまの支援を考えており、今年度、AIを使ったチャットボット「AISボット」のリリースを予定しています。これは、組織内のコミュニケーションロスを解決するツールです。組織は大きくなればなるほど、社員が共通認識をもつのはなかなか難しく、また、部署ごとの業務に関するルールや暗黙知などは周知されづらいもの。それは、コミュニケーションを阻害し、コア業務を滞らせる要因ともなり得ます。そこで、社内のルールや知識をひとまとめにして、誰もが必要なときに使える仕組みを考えた結果、「AISボット」のアイデアが生まれました。
研究の幅を広げる意味では、中長期的に、北海道の農業や水産業に適用できるシミュレーション技術を開発できるといいなとは思っています。ただ、この分野は、私たちの技術でできることが、いまのところはほとんどありません。医療の「パーソナライズされたシミュレーション」の技術が進めば、応用できる可能性があると考えています。
将来ビジョンとしては、私たちの技術をどんどん広げていって、「北海道にAIS北海道あり」と、世界に認められる存在になりたいと考えています。AIS北海道にしかない技術を求めて、世界中から弊社を訪れる人が絶えない——そんな技術を生み出し続けられるエンジニア集団でありたいです。
取材のなかで印象的だったのは、株式会社AIS北海道が、最先端のデジタル技術を扱いながら、社是や社訓に掲げているとおり、人と人との関わりを大事にしていることと、現場主義を貫いていること。数々のメーカーの「頭脳」の一端であり、ものづくりの「職人」なのだと感じました。社名の「AIS」は「Advanced Information Systems」の頭文字で、「愛す」の意味も重ねているといいますから、まさに名は体を表しています。
企業理念は、「北の大地に立ち、日本の、そして世界のものづくりをリードする」。それを胸に「世界のAIS北海道」を目指し、エンジニア集団は日々、真摯に技術とものづくりに向き合い続けています。
(取材日2024年5月31日/北海道IT推進協会 広報委員会、ライター 一條 亜紀枝)
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