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北海道生まれのGLEXAと教育DXで、北海道の教育を支えていく|チエルコミュニケーションブリッジ株式会社 札幌ラボ 【会員インタビュー】

近年、さまざまな分野で進められていたオンライン化は、新型コロナウイルス感染症の大流行をきっかけに加速化しています。教育も例外ではありません。2019年に文部科学省が打ち出した「GIGA(ギガ)スクール構想」、つまり、ICT(情報通信技術)の活用による個別最適化された学習環境の整備が、急ピッチで進められています。
創業以来、教育関連のシステム開発を手がけ、ICT教育を支えてきたのが、「チエルコミュニケーションブリッジ株式会社 札幌ラボ」。2007年にeラーニングシステム「GLEXA(グレクサ)」を開発したICTソリューション企業です。取締役の品田淳智さんが、教育・学習の現在と未来についてお話しくださいました。


より良い「学び」を創造するシステム開発ラボ

-主な事業についてお聞かせください。

チエルコミュニケーションブリッジ株式会社は、二つの事業を主軸としています。一つが、進路支援事業。高校生を対象とする学校内進路ガイダンスや会場相談会をメインに、その他キャンパス見学会、進路講演など、各種イベントの企画や運営を行っています。
もう一つが、「札幌ラボ」が担当しているICTソリューション事業。当社が開発した学習管理システム「GLEXA(グレクサ)」のカスタム開発・運用をはじめ、オープンソースのLearning Management System「Moodle(ムードル)」のプラグイン開発や大学の先生とのWEBシステムの受託開発などを手がけています。

目指しているのは、「学びと人財の架け橋となり、未来のヒトづくりに貢献し続ける」こと。アナログとデジタルの両面から、「学びとの出会い」と「学びの場」をつくっています。

▲チエルコミュニケーションブリッジ取締役の品田淳智さん

北海道大学との共同研究から生まれたGLEXA

-自社開発製品「GLEXA」では何ができるのですか。

GLEXAは、eラーニングの学習管理システム(LMS)です。テキストのほか、画像や動画、音声を用いた教材の作成ができるだけではなく、オンデマンドでのオンライン講義配信、シラバスや時間割の作成、出欠確認、成績管理、ポートフォリオ(学習記録)の作成など、さまざまな機能を搭載しています。

大学・高専・専門学校向けの「アカデミック版」は、各学校の基幹システムや教務システムと連携させて、先生と学生をつなぐプラットフォームとしてご利用いただけます。企業向けの「エンタープライズ版」は、社員研修など最適な教育体制をつくり、スペシャリストを育てます。医療機関向けの「メディカル版」は、医療安全管理のための研修や資格認定講習など、医療従事者の学びをサポートするものです。

▲チエルコミュニケーションブリッジの主力製品GLEXA(公式サイトより)

-GLEXA開発のきっかけは?

札幌ラボの前身企業であるVERSION2(バージョンツー)が、当時、北海道大学の准教授だった河合剛先生と共同で擬似電話システム(Goh’s Phone)を開発し、2007年にはテキサス州立大学で開催されたCALICO学会で発表しました。
その後、音声掲示板(Board)と一緒にWebブラウザで利用するために、授業でよく使われる機能を核としてプラットフォームを開発します。これが、GLEXAです。2008年以降も、動画機能(Motion)やクイズ機能(Quiz)、フォーラム(Forum/掲示板)、成績管理(Grader)といった基本機能を追加し、現在も開発を続けており、日々進化しています。

-北海道大学から、ほかの大学や企業へと広まっていった経緯は?

GLEXAの最大の特徴ともいえる「柔軟なカスタマイズ性」と、教育現場の意見や助言を反映させた「使い勝手のよさ」が高く評価されて、しだいに全国の大学へと取引先が増えていきました。

GLEXAは、英語学習のために開発されたので、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能が鍛えられる機能がついています。これは、開発当時、かなり画期的なeラーニングシステムだったのです。
しかも、教育現場の「あったらいいな」が詰まっていました。なにしろ、「この講義をオンライン化したい」「こんな教材があれば、もっと英語に興味をもってもらえるだろう」といった、河合教授の着想を具現化したので当然かもしれません。そのなかには、教材ビデオを視聴している学生が集中力を切らさないようにと、途中でランダムに問題を出すといった機能も。英語教育の専門家でもあり、GLEXAのユーザともなる河合教授とタッグを組んでつくり上げたものですから、とにかく実用的で、操作も簡単で使いやすいと評判になりました。

また、GLEXAは、最終的に多機能型LMSとして完成したので、英語学習のみならず、幅広く使えます。そのうえ、大学に合わせてカスタマイズできると、そこもまた高く評価されたのです。

現場の先生方に認められたことが後押しとなり、まず、道内外の大学での導入が進み、それらの実績が教育委員会にも評価され、さらに自治体へも普及していきました。そこで、これは企業の社員教育にも使えるかもしれないと考え、機能を追加して、「エンタープライズ版」「メディカル版」を出したのです。

人と人とのリアルのつながりがあってこそのICT

-チエルコミュニケーションブリッジは、ひとことで説明すると、どんな会社ですか。

いまは、二つの文化が少しずつ融合しているところです。

チエルコミュニケーションブリッジは、昨年7月、株式会社昭栄広報と株式会社VERSION2というチエルグループの二つの会社が合併してできました。それぞれの事業をそのまま引き継ぎ、昭栄広報は進路支援事業を、VERSION2は「札幌ラボ」としてICTソリューション事業を担っています。というわけで、チエルコミュニケーションブリッジの企業風土は、これから醸成されていくと思うのです。

-品田さんは旧VERSION2に在籍していたのですか。

はい、2013年に入社して、合併時は代表取締役を務めていました。
VERSION2は、2007年5月、システム開発会社として設立されました。当時はエンジニアだけの会社で、GLEXAの開発・運用が軌道に乗り始めたころから、販路拡大を図り、営業職を採用するようになります。私は営業担当として、日本全国の大学からお声がけいただき、ご要望をお聞きしながら、GLEXAやMoodleを納入してきました。

-合併による変化は?

ひとつは、ターゲット市場の拡大です。もともとVERSION2は大学や企業、昭栄広報は高校や専門学校を対象として事業を展開していました。合併により、専門学校からのGLEXAに関する問い合わせが増えています。興味深いのは、大学とはニーズがまったく異なること。専門学校では、講義の補助ツールというよりも、資格試験対策や公務員試験対策のeラーニングツールとして活用いただくことが多いのです。やはり新たな気づきがあるので、GLEXAはさらに進化していくかもしれません。

もうひとつの変化が、進路支援事業のICT化です。各種ガイダンスや進学相談会は、基本はリアル会場で開催するため、コミュニケーションをはじめアナログな要素を色濃く残しています。とはいえ、サービス向上のためにはICT化したほうがいいことも。そこで、イベント運営をサポートするためのシステムを開発して、より良い進路支援を目指しているところです。

VERSION2と昭栄広報がそれぞれに築いてきた信頼関係や培ってきた技術やノウハウを生かして、チエルコミュニケーションブリッジは、学びのプラットフォーマーとして、最良の学びを提供しつづけたいと考えています。

-札幌ラボの考える「最良の学びの場」とは?

私たちは、学びの場においては「対面」が大事だと考えています。先生による対面授業があり、補助ツールとしてGLEXAがある——、それを理想としています。まずリアルなコミュニケーションがあってこそ、ICTを生かせると思うのです。この考えは、VERSION2創業時から一貫して変わりません。

むしろ、コロナ禍を経て、ますます強く意識するようになりました。オンラインによるコミュニケーションの欠点や限界がわかったからです。画面上で顔を合わせていたとしても、対面とはやはり違って、その場の空気感みたいなものは絶対に伝わりませんから。ウェブの世界だけで完結させるのではなく、リアルな人と人とのつながりを大事にしたいです。

教育の地域差をつくらないための教育DXを!

-札幌ラボのこれからの展望をお聞かせください。

いま、主力製品GLEXAやMoodleに蓄積されたデータを活用した事業を構想しています。近年はeポートフォリオ(デジタル化した学びの記録)を導入している大学が多く、学生たちは講義ノートやレポート、論文などの成果物をまとめて、データ保存しています。
例えば、それとAIを組み合わせれば、「こんな勉強をしてきたあなたには、◯◯の仕事が向いています!」と、学生たちの進路の選択をサポートできるかもしれません。あるいは、「この分野をしっかりと学んできたこの学生がおすすめです」と、企業の採用活動をサポートできるかもしれない。LMSには否応なしに学生の学習履歴が蓄積されていくわけですから、それを本人のために役立てたいですよね。

-北海道の教育に関する取り組みは?

北海道の教育DX(デジタルトランスフォーメーション)に貢献したいと考えています。文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」——児童・生徒1人1台のPC端末と高速大容量の通信ネットワークを整備して、個別最適化した学びの場を実現しようという計画により、小学校と中学校ではICT環境が整ってきました。ところが、そこから先の特に専門学校では、まだまだ手つかずのところが多いのです。なので、進路支援と合わせて、ICT教育をご提案していこうと思っています。

正直なところ、ここ数年は、北海道にあまり目を向けられていませんでした。北海道大学と二人三脚で共同開発に励んできたにもかかわらず、関心は北海道の外にあったのです。しかし、合併して本社が東京となり、仙台・名古屋・大阪・福岡に拠点ができたら、逆に、北海道を強く意識するようになりました。

そうすると、いわゆる「教育格差」がますます気がかりに……。地方創生がうたわれてはいるものの、人口の札幌一極集中は相変わらず。これから、地方の学校がさらに統廃合されていくと、広大な北海道では、平等には教育を受けられなくなるのではないでしょうか。どこに住んでいても、誰もが等しく、質の高い教育を受けられるように手を打たなければなりません。その鍵を握るのが、ICT教育だと思うのです。これまでに培ってきた技術とノウハウ、合併によって生まれた縁を生かして、北海道全域の小学校・中学校・高校・専門学校・短期大学・大学における「最良の学びの場」を支えていきます。


インタビューのなかで印象的だったのは、「対面あってのICT」「オンラインでは100%のコミュニケーションがとれない」という品田さんの言葉です。ICTの重要性も必要性も熟知しながら、オンラインでは抜け落ちてしまうものがあるから、対面での人と人とのつながりが大事なのだと言い切ります。
その信念の源には、教育現場の最前線にいる先生たちと手を携えてLMSを開発してきた経験があるのかもしれません。品田さん曰く、「先生が講義をするなかで見えた課題やアイデアがなければ、現場を知らない頭でっかちな私たちがどれだけ考え抜いてもGLEXAは生まれなかった」はずだから。サイバー空間にはないリアル空間での体験やコミュニケーションに価値を見出す札幌ラボは、ICTを過信しない教育DXを展開していきます。

(取材日2024年5月31日/北海道IT推進協会 広報委員会、ライター 一條 亜紀枝)

[企業プロフィール]
チエルコミュニケーションブリッジ株式会社 札幌ラボ
ICTを活用した教育支援を展開するチエルグループの一員として、札幌ラボでは、自社製品GLAXAのカスタム開発・運用など、教育に特化したシステム開発を手がけている。
・代表者/代表取締役社長 関 浩二朗
・設立年月/1967年7月
・事業内容/ICTソリューション事業、進路支援事業
・所在地/〒060-0062 札幌市中央区南2条西9丁目1-2 サンケン札幌ビル6階
・URL/https://chieru-cb.co.jp
・北海道IT推進協会入会日/2023年7月19日

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