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福祉担当の変な業務③:ひとり親家庭に対するJR通勤定期券特別割引制度

今回はかなりマニアックな制度ですが、これまで過去2回御紹介した制度と同じく、「なんで行政がわざわざ証明しないといけないの?」という制度です。

すでに私の言いたい結論はこれに尽きるのですが「その人がひとり親である証明はすでに発行しているのに、なんでわざわざ屋上屋を重ねるように違う証明書を発行しなければならないの?」ということです。これまで同様、制度の概要からお伝えしたいと思います。

制度の概要

離婚等の理由でこどもをひとりで育てなければならなくなった方のために、毎月一定の金額を支払う手当のことを児童扶養手当といいます。児童扶養手当が認定されると、それに伴って就学援助を受けられたり、税金では寡婦控除を受けられたり、市町村によっては駐輪場の割引なんかも受けられたりします。

今回取り上げたいテーマが、そういった優遇措置の中のひとつであるひとり親家庭に対するJR通勤定期券特別割引制度です。児童扶養手当を受給している方やその家族が通勤定期を購入する際、通常よりも高い割引率で購入することができるという、ひとり親家庭にとって優しい制度ではあるのですが、その定期券を購入できるようになるには役所でわざわざ資格証明書購入証明書とを発行してもらわないといけないようになっています。

ちなみに資格証明書には写真の貼付が必要ですが、有効期限は1年。児童扶養手当の金額が前年の所得によって変動するため、所得によっては手当が支給されなくなることを受けてそういった有効期間になっていると思いますが、もうそれなら児童扶養手当証書があるからそれでいいじゃん、って思いたくなります。それなのにわざわざ写真を用意して、役所に来させて、役所の職員が証明書を発行して、と実に手間のかかるものになっています。

さらにこの制度、「購入証明書」がないと割引が受けられないという縛りがかかっています。そもそも児童扶養手当を受給している方には役所が「児童扶養手当証書」を発行していますが、そこに写真付きの「資格証明書」に加え、「購入証明書」まで必要になるという具合に、JRの窓口で定期券を購入するためには、役所で発行する3種類の証明書が必要になるという、まるで「大きなかぶ」みたいな仕様になっています。

いつから始まった?

この制度っていつから始まったのか調べてみました。参考までに「母子・父子家庭のJR定期乗車券割引制度 法令」というワードでググってみました。すると厚生労働省のHPが出てきましたのでそれを読んでみると、

昭和四三年四月一日より日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の通勤定期乗車券の料金改定が実施されることとなつたが、生活保護法による被保護世帯又は、母子福祉年金、準母子福祉年金若しくは児童扶養手当の支給を受けている世帯に属する者に対して、その負担の軽減を図る(以下略)

「特定者に対する日本国有鉄道の通勤定期乗車券の特別割引制度について」(厚労省HP)

という厚生省(当時)の担当局長からの通知文が発端でした。率直な感想が「ここでもか!」でした。障害のある方のためのNHKの減免も、高速道路の料金割引も、どちらも管轄している省庁の局長からの通達が根拠になっていて、きれいに横並びになっているのには驚きました。

ちなみに昭和43年の当時ですが、国鉄の経営状態が良くなかったことから、国鉄はこの年の4月に平均改定率37.8%の是正(値上げ)を実施することとなり、それによって経済的に弱い立場に置かれている人たちが困窮することのないように割引措置を決めたようです。で、その際の割引方法として特定定期券発売規則に沿って手続きをしなさいよ、という具合に書かれていました。

特定定期券発売規則?

そこで次にこの規則を見てみたのですが、やっぱり変なんです。何が変なのかというと、自治体が発行する資格証明書(写真を貼るもの)についてJR側が規則を定めているんです。

資格証明書の発行者は(中略)資格証明書の発行年月日及び番号を記入し、資格証明書交付申請書に対して契印を押して、特定者に交付するものとする。

東日本旅客鉄道株式会社 特定者用定期乗車券発売規則(JR東日本HP)

自治体が発行する証明書なのに、その記載方法やご丁寧に契印を押すといったことまで記載して、いち民間会社が規則を定めているんです。なんとも不思議な世界ですよね。昔は国鉄=国だったので、国に提出させる資料について、各自治体に対して様式を定めたのなら理解できるのですが、今となっては何が何やらよく分からない状態のまま放置されているようにしか見えません。

結論

さて結論ですが「やっぱり変」につきると思います。民間企業としてJRが今後も同様のサービスを提供するのなら、それは各社の判断になりますが、もっと簡素化してスムーズに割引証を発行できるようになればいいなと思っています。

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