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2020年マザーズIPO企業 - PSRの傾向や評価額変遷

明けましておめでとうございます。

VC1年目にして完全リモート生活というユニークな2020年が(あっという間に)明けたので、この1年間でマザーズにIPOした企業の簡単な分析をしてみました。分析対象は、マザーズにIPOした63社のうち、VC/CVCから資金調達をしている42社(*)です。
*INITIALが定義している「IPO区分」で「VC対象外」となっている企業を外しました

ここ5年間のマザーズ上場企業数は、2016年54社、2017年49社、2018年90社、2019年86社と来ており、直近2年に比べたら社数は減っていますが、それでも2020年は63社が上場、現時点で時価総額1,000億円を超える企業も2社出ています(プレイド、ウェルスナビ)。

大変な1年でしたが、この中で無事上場を遂げ、大きな資金調達を実現されたスタートアップには、心から"Congratulations!"をお送りしたいです。

(注)以下の分析は目論見書等の目視で入力した数字を基にしていますが、ぼろぼろ間違いが出てきそうで怖いのでもし気付きましたらこっそりご指摘ください…汗。そしてまだまだ勉強中なので、それはちょっと違うよとかこんな見方もあるよとかございましたら是非教えてくださいmm

PSR(株価売上倍率)の傾向

まずは、分析対象企業を、直近決算期売上に対する公募価格ベースのPSR(株価売上倍率)順で並べてみました(SaaSなどビジネスモデルごとに水準も異なると思うので、どこまで意味あるかというのはありますが、便宜上)。
バリュエーション順には、次の項目で並べます。

本当は一社一社きちんと深掘りすれば(ビジネスモデルごとのKPI、コスト構造の変遷、海外投資家への売出し比率、etc)、もう少しインサイトあると思いますが、一旦は簡易的に概要をまとめました。

PSRハイライト

※「ユニコーン企業」は非上場企業を指しますが、現時点で時価総額が1,000億円を超える企業をハイライトするために便宜的に🦄をつけています

まず分析対象42社について、直近決算期売上に対する公募価格ベースのPSR平均は10倍、中央値は6倍でした。
ちなみに、公募価格⇒初値の上昇率は、PSRの中央値でみても2倍以上になっており(6.3倍⇒13.4倍)、マザーズのIPO銘柄は20年も引き続き高騰傾向であったと見られます。

では、この中でPSRの倍率が平均以上だった15社(表の緑ハイライト部分)について、以下にもう少し記述したいと思います。

1) 赤字企業が多いが、売上成長率(YoY)が高い

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まずこの15社の傾向として、赤字企業が多いですが(PSRが平均未満だった残り27社のうち、赤字企業は3社のみ)、対前年比売上成長率が高い傾向が強く出ています。

直近の対前年比売上成長率については、
15社の平均が146%に対して、残り27社の平均が24%、全体平均でも69%
中央値で見ても15社は67%の一方、残り27社の中央値が16%、全体中央値が24%
と、売上成長の高い企業がPSR上位に寄っていることがわかります。
(創薬系のモダリス、ファンベップ、及びまだ設立2年のニューラルポケットを除いても、平均は75%、中央値は64%になります)

2) SaaS事業で、売上が前年比2倍近くを超えるとPSR15倍以上

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15社の半分近くがSaaS事業の企業(7社)で占められていますが、その中でもやはり直近の対前年比売上成長率の高い企業が、15~30倍ものPSRがついています(ココペリ、ヤプリ、スタメン、プレイド)。

SaaS事業への評価は、比較的安定した収益を見込めることに加えて、コロナで企業のデジタル化などがより後押しされているといったトレンドの認識も関係しているかもしれません。

3) SaaS事業以外も、コロナで後押しされた領域などが目立つ

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クリーマは、創業11年目のハンドメイドマーケットプレイスですが、直近3年間も堅調に売上を伸ばしています。特に今年は、ステイホームの影響で流通総額(GMV)が大きく伸び、2020年3~8月期のGMVは前年同期比86%増となり、月間GMVは13億円を超えているそうです。
(ちなみに、USのハンドメイドマーケットプレイスのEtsyは2015年に約1,800億円で上場し、初日は約2倍の3,500億円でクローズ、現在は時価総額約2.2兆円(PSR15倍)になっています)

Kaizen Platformは、2020年のキーワード「DX」をテーマに掲げており、注目度も高まったかもしれません。企業webサイトのUI/UX改善を行ってきた会社ですが、チラシ等アナログマーケティングの「動画化」を行う事業が、オンラインのマーケ/営業が増えたことで直近大きく伸びたようです。

ビザスクは、弊社投資先でもありますが、利益率の高いモデルで売上も堅調に伸ばしてきており、3月にPSR12倍で上場しました。そして、現在の時価総額が公募価格ベースから3倍も伸びています!スポットコンサル事業を提供していますが、コロナで働き方の柔軟性が高まったことが、登録者の増加などにも影響しているようです。

4) その他

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ウェルスナビは、現時点での時価総額が1,000億円を超えています。日本のロボアド市場自体が成長している中で(2020年時点で110万口座、あと3年で2倍と予測)、高いシェアを維持し続けており、預かり資産は過去3年で約1,000億⇒2,000億⇒3,000億円と推移しています。

ニューラルポケットや、サイバーセキュリティクラウドアイキューブドシステムズは、初値の上がり方を見ても、公開株率の低さが需給のバランスにある程度影響しているかもしれません。また、AIといったテーマへの注目度や、利益・成長率(特にサイバーセキュリティクラウド)なども影響があるでしょう。

評価額の変遷(資金調達ヒストリー)

次に、各社の資金調達時における評価額の変遷をまとめてみました。

こちらも本当は一社一社深掘りするともう少しインサイト出ると思いますが(調達時の売上・KPIと評価額の相関、VC各社のリターン、ファウンダーの持ち株比率やSO比率の推移、etc)、一旦今回は評価額の変遷に絞った簡単な一覧です。

変遷1

変遷2

(優先株式の発行あり・なしで表を分けています)

優先株式発行ありの企業のPost評価額については、
・平均が、シード3.3億⇒A12.2億⇒B35.4億⇒C81.1億⇒D148.7億円
・中央値が、シード0.8億⇒A9.5億⇒B29.6億⇒C50.8億⇒D89.7億円
となっていました。
各社調達時の売上規模やKPIを見てみないと正しい意味合いは出しにくいですが、各ラウンドの規模感の目安としては参考になるかもしれません。

また、公募価格ベースで評価額が500億を超え、現在時価総額1,000億円を超えるプレイドとウェルスナビを見てみると、
ウェルスナビは、シリーズAからずっと高い評価額で推移しています。Post評価額は、シリーズAが23億、シリーズBが65億、シリーズCで165億と、平均の2倍近くのサイズ感になっています。
逆に、プレイドが平均と比較して高くなり始めたのは、シリーズCからとなっています。シリーズA、BのPost評価額は、8億、29億と平均より低いですが、シリーズCでは平均の2倍以上の199億になっています。

※有価証券報告書を基に、ラウンドは種類株式ごと、Post評価額は(調達時の株式発行価格×発行済み株式総数)で算出しています

2020年USテック企業のIPO代表例と、終わりに

ちなみに、USのテック企業における2020年のIPOで代表的なものを見ると、下記のような感じです。

AirBnB(民泊サービス)
- IPO valuation: $47 billion(約4.7兆円)
- Last private valuation: $18 billion(約1.8兆円), down from $31 billion(約3.1兆円) pre-COVID.
- Founded: 2008
DoorDash(フードデリバリーアプリ)
- IPO valuation: $39 billion(約3.9兆円)
- Last private valuation: $16 billion(約1.6兆円)
- Founded: 2013
Snowflake(クラウド型データウェアハウス)
- IPO valuation: $33.2 billion(約3.3兆円)
- Last private valuation: $12.4 billion(約1.2兆円)
- Founded: 2012
Palantir(データ解析プラットフォーム)
- IPO valuation: $22 billion(約2.2兆円)
- Last private valuation: $10.5 billion(約1兆円)
- Founded: 2003
Wish(越境ECアプリ)
- IPO valuation: $14.1B billion(約1.4兆円)
- Last private valuation: $11.2 billion(約1.1兆円)
- Founed: 2010
Unity(ゲームエンジン)
- IPO valuation: $13.7 billion(約1.4兆円)
- Last private valuation: More than $6 billion(約0.6兆円以上)
- Founded: 2004

改めて、これだけの兆円規模企業を出すって、すごい。。。
そして、どこも創業から10-15年近く経っているんだなというのも、感慨深いものがあります。

世の中に「良いインパクト」を与え続けるのに充分な「大きい事業」を作れるスタートアップが、日本からもっともっと輩出されるよう、今年もVCとして、視座の高い投資そして株主とは何かを学び、考え続けながら、まだまだ未熟ですが日々修行を積んでいきたいと思います。

そしてまた年明けから、たくさんの起業家の方達とどんどんお話ししていきたいので、もしこちら読んでいただいている起業家の方で(あまりいらっしゃらなさそうですが...)、壁打ちや資金調達のご相談など機会がありましたら、ご連絡いただけたら嬉しいです!起業前準備中や、シードの方も大歓迎です!
毎月Office Hourも開催
していますので、こちらのリンクよりお気軽にご応募ください:)

それでは本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

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