おかしな人たち

ジャズのサックス吹きにはいわゆる「ヴィンテージ信仰」というのがあり、セルマー社のMarkⅥやSBAといった往年のモデルが高値で取引されている。しかもラッカーが当時のものか、彫刻のデザインはどっちを向いているかなど、そのこだわりはとどまるところを知らない。
これはドラマーにおいても同様で、やれシンバルがどうした、ペダルは何だ、果てはシンバルスタンドはこれに限ると、これもなかなかのもの。
流石に自分の楽器を持ち歩かないピアニストはこのようなことを言わずにそこにある楽器を黙って弾いている。その姿勢は実に尊敬に値するものであり、総じてピアニストのレベルが他の楽器に比して高いのは、そういうことに時間と労力を費やさないからではないか、とさえ思ってしまう。

いや、必ずしもそうではないようだ。
オルガニストを見てみ給え。

このデジタルテクノロジー全盛の現代にあって、やれ真空管がどうした、コンデンサーの状態が、などとサックス吹きと何ら変わりはない。往年の名器ハモンドB3をオルガンの最高峰とするあたりも同じ、ちょっとおかしいんじゃないかと思う人たちだ。
ハモンドオルガンの熱烈なファンはB3による演奏というだけで歓喜し、またその日のオルガンがB3でないと判明すれば、演奏を聴かずに帰ってしまうことさえある。
門外漢からすれば「B3というけど、それならB2やB1、あるいはB4はどうなんだ?」という疑問を抱くが、これはサックス奏者に「MarkⅥがあるのならMarkⅤもあるのか?」と聞くようなものかもしれない。
クルマに疎い僕でもカーレースの最高峰がF1と呼ばれることは知ってるが、ではF3000というのはF1, F2, F3,....とまぁ、気の遠くなるような最下層のレースではないかと思っていたのだが…

それはさておき、このハモンドB3、問題はその持ち運び。
もともと持ち運びを想定していない、高級家具調の風格を備えるキーボードと足鍵盤、そして中でゆらゆらと羽根の廻る巨大なスピーカーボックス。
まさに「演奏より運送」と言われる所以である。
すなわち世のジャズ・オルガニスト及びオルガンファンにとってのパラダイスは「ハモンドB3を常設しているクラブ」に他ならない。
そこではオルガニストは「運送」から解放され、心置きなく真空管の調整、いや、「演奏」に集中し、なんなら演奏後に一杯飲んで帰ることもできる。まさにパラダイス。
沼袋『オルガンジャズクラブ』
03-3388-2040
http://organjazzclub.dcthp.com
は、その名の通り「オルガンジャズ」を聴かせる店であり、そういう人にとってのオルガンが「ハモンドB3」であるのは言わずもがな。
そこで西川直人(org) 海野俊輔(ds)のトリオでよく演奏している。
オルガン、ドラム、そしてサックスと、何かと問題の多い楽器のプレーヤーが、極めてまともな音楽を演奏すると信じております。
皆さま是非お越しくださいませ。

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