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脳波をエンタメ利用するための課題と限界

脳波を用いれば「考えただけで物が動く」、「相手の考えている事が読み取れる」

脳波やニューロサイエンスとはそういった夢のある技術です。

しかしながら、我々が未だに脳波を用いたデバイスを手にしていないのは、そこに限界があるからです。

ただし、少なからず脳波を用いた製品やイベントでの利用例があり、我々を少しだけワクワクさせてくれる事例は存在しています。

今回の記事では、こういった脳波をエンターテイメントに利用する際の課題と限界について解説したいと思います。

脳波のエンターテイメント利用

脳波を用いたガジェットで最も有名なのはこのデバイスと言っても過言ではないかもしれません。

脳波で動くnecomimiです。

脳波からは集中やリラックスといった脳の状態を推定することかでき、それをモーターで動くカチューシャ型の猫耳の動きに変換したデバイスです。

また、脳波で動くクレーンゲームなんていうのも一時期話題になりました。

これも同じような仕組みで、「EXCITE(興奮)」「RELAX(冷静)」「LIKE(好き)」「HATE(嫌い)」の4つの感情を推定して、平常心を保てたら商品が貰えるという体験だったようです。

このように脳波から感情を推定してエンターテイメントへ応用する事例がいくつか出てきています。

脳波を身近に感じられる事例としてはとても面白い試みですし、実際に体感してみると、脳波から推定された感情に納得感を感じることもあります。

精度の課題

上記で触れたようなデバイスは体験として面白い一方で1発屋のような出方をして、その後に続かないプロダクトとなるケースが多いです。

理由は脳波解析の精度にあります。

一般的に脳波による感情や意思の推定精度は良くて70%と言われています。

これは10回やれば7回くらいは当たるけど、3回くらいは外れるということを意味します。

また個人差も課題であり、ある人は凄く操作できるけど、ある人は全く操作ができない、ということも起こり得ます。

そうなると、買ってはみたけれど全然使えないというプロダクトになってしまって、所謂「おもちゃ」を越えることができません。

脳波を使ったプロダクトを開発する際にはまずは何より「精度」が重用になります。

アカデミックの論文で表記されているような90%以上の精度を持つ技術は統制された環境と念入りに確認された脳波測定が必要です。

デバイスの課題

脳波計の形状や装着場所も課題となります。

最近は簡易型でポータブルな脳波計が多く登場してきました。

以下のリンクにあるようなヘッドバンド型の脳波計なんかは導電性ジェルも要らず、額にハチマキのように巻くだけで脳波が測定可能です。

しかしながら、こういったデバイスでは脳の前頭葉の働きしか捉えることができません。

読者の方がご想像の通り、脳はかなり複雑な構造をしていて、前頭葉、頭頂葉、後頭葉と全体的な領野が相互に情報をやり取りして、我々の意思や感情を司っています。

それらを正確に読み解くには脳の全体的な働きを読み取らなくてはなりません。

そうなるとやはり以下のようなジェルが必要で頭部の全体を読み取れる水泳キャップのようなデバイスの方が精度が高くなります。

脳波計の簡易さと精度がトレードオフにあること。

これが脳波の社会的な応用可能性に限界を設けています。

もしも精度を落とさずに簡単に付けられる脳波計が登場すればイノベーションとなるでしょう。

使用環境の課題

上記の精度でも触れましたが綺麗な脳波を測定するためには、ノイズを少なくすることが求められます。

筆者も大きな展示会場で脳波推定のデモンストレーションを行ったことがありますが、研究室とは異なる環境にかなり苦労しました。

まずは無線の混線。

脳波計を着けているユーザの負担を減らすために、最近では無線タイプの脳波計が増えてきました。

しかしこういったタイプの無線の規格は、スマホやPCに使われる通常の無線LANやWifiの規格と同様になります。

すると、やはり影響はゼロではなく、脳波の伝送速度の遅延、データ落ちが発生します。

また、電子機器が周囲にあると、それによる電磁ノイズの影響を脳波が受けてしまいます。

脳波計が測定したデータが頭部から発生しているのか、それとも周りの電子機器から発生しているのか、見分けがつかなくなります。

電子機器からのノイズには様々な種類がありますが、代表的なのは電源の交流ノイズで、これは関東だと50Hz, 関西だと60Hzの周波数を持っています。

このような環境が、「研究室では上手くいったのに、実際にやってみると上手くいかない」

というトラブルを生んでしまいます。

まとめ

脳波をエンターテイメント利用する課題と限界について、3つの視点、精度、デバイス、環境から解説しました。

これらの課題をクリアすることができれば、1発屋のではなく、本当に面白い脳波アプリケーションが開発できると思います。

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