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ショートショート⑥A面とB面(2020/08/23)

「私のなかの人間2人住んでるからさ」
とか言って本気なのかそうじゃないのか図かねる顔をこちらに向けてくる。
今日は小さい頃からの腐れ縁のゆきと人気のカフェに来た。

「それにしてもここのカフェさ、写真で見たらすごく広いけど、中に入ってみると意外と狭いね。鏡でこんなに広く見せてるのか〜。まあいいや、それでさ、みきも知ってる通り、私って純粋でキュルキュルした人間じゃん?」

さも当然かのように言ってしまえるゆきがとても憎たらしくて愛らしい。まあ確かにゆきはとてもきゅるきゅるしていてすごく可愛らしい。顔も可愛いけれど、行動というか雰囲気が可愛い。

「でも、こうしてみきと話してる時はものすごく大人じゃない?実際自分の性格理解して分析してるし、自分がどうすれば可愛いかを知ってる。だからたまにどっちが本当の自分かわかんなくなるんだよね。可愛くみせてる私をA面とするなら、本来の私ってB面の人間なんだよ。表裏使い分けることで罪悪感を感じる歳でもないけど、たまにA面は暴走してB面を食い殺そうとするの。こうやってA面とB面二つを分けて考えるからこんなことになったのかな〜」

そんな風に言いながら、持ち前の考えるポーズを女の私相手でも決めてくる。悔しいけどやはりとても可愛い。

「なんか最近はさ、私のA面だけを知って好きになってくれた人とかにB面を見せるのが申し訳なくて、もういっそこのままA面のままでいようかなって思ったりしてるんだ。みきはどう思う?みきにはそんなことない?」

ふと目線を上げると鏡越しに自分と目が合った。
私の向かいには誰もいない。

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