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【不定期更新・パンクロック小説】リンダクレイジー(仮)

キャラクターが騒ぎ出した時にだけ不定期に更新する、パンクでラブな物語。

2 スタジオオーナー・ミキティという女

リンダが眠った夜以来、俺は枕カバーを洗っていない。たった数日。片手で勘定できちゃうぐらいの日数しか経ってない。

それなのに、いくら顔を押し付けて匂いを嗅いだところで、俺の男前な匂いしかしやしねぇ。

愛するリンダの、あの甘い香りは一体、どこへ行ってしまったんだ!!

リンダ、カムバック!カムバック・マイスイートハート!


これは涙なんかじゃない。さっきポットからお湯を出した時に、ピッて飛んできた雫のひと粒さ。

俺は今日も、切なさを胸に秘めて、カップラーメンを食う。武士は食わねど高楊枝とか、昔のお偉い人が言ったっぽいけど、俺、武士じゃねーし。かっちょいいギタリストだし。ジーンズにダメージくらってるし、髪の毛ツンツンだし。

だからカップラーメンを食うんだ、俺は。しかも、3分と待たずに食い始める。ちょっぴり固めに食う。これこそが、パンクだ。


俺は腹が減っている。ハートは野獣。あいつの服をひっぺがすみたいに、カップ麺の蓋をビリっとやってやった。

と、その時だった。

俺は気づいてしまった。そして、この気づきが、俺を興奮のるつぼへと……っていうか、るつぼって何だっけ。るつぼへと……這い上がる?よじのぼる?突き落とされる?えーとえーと……。


とにかく俺は興奮した!


どうして俺は、今まで気が付かなかったのか!自分で自分を殴りたい!でも顔はダメだぜ、ボディボディ……。それはさておき!


今の俺は、気づいてしまった。このお気に入りのカップラーメンから立ち上る、ほのかに芳ばしい香りは……、あの日の俺が夢中になった匂いと、マジそっくりだって。ふんふん、くんくん。イエス!フィーバー!


間違いない……!これは……!俺が夢想してやまない、愛するリンダのアソコの匂いだ!


俺はその足で近所のディスカウントショップに行き、棚にあったカップラーメンを全て買って帰ってきた。俺の足取りはルンルンに軽かった。


これで、俺は毎日リンダに会えるんだ。リンダと愛し合える。そう思うと、俺の胸はときめいてしょうがなかった。中学の修学旅行で女風呂を覗きに行く作戦を練っていたときのような、あんな感じのトキメキだった。


そんなトキメキまっしぐらのまま、次の日の俺はバンドの練習のために、いつものスタジオに入った。

ひとりでルンルンとカップラーメンを食っていると、
「また、それ食ってんの?あんたってさ、舌がバカになってんじゃない?」と、リンダが言った。

俺はほくそ笑むと言ってやった。

「いいこと教えてやるよ」
「は?」
「これさ、お前のアソコと同じ匂いがす……」

瞬間、俺は左手にスパァン!という衝撃を食らった。

残像……の向こうに、チラリとリンダのパンツが見えた。と、思ったら……。

バッシャアン!と、かぶった。熱い液体と、無数の長細い物体や、その他のいろいろな物体を。


脳みそに伝達されるまでの、一瞬のタイムラグ。それから……、

「ぅあっちぃ!熱っ!あっつ!」


前髪から、したたる雫はラーメンスープ。しょっぱくて芳ばしい青春の味……?んな訳あるかー!

「おい!何してくれてんだよ!リンダよぉ!」立ち上がってキレる俺。

うそうそ、びっくりしたけど、ほんとうはキレてないよ。だって僕ちゃん、リンダのことだぁい好きなんだもん♪しかし、俺はかっちょいいギタリストなもんだから、マジギレした感じにリンダをにらむ。胸がチュクチュクするけど我慢。


したたるラーメンスープの奥から見るリンダは……はすに構えて、今にも中指を立てそうな目つき。そんな顔も俺は好き。リンダ・マイ・ラブ。……とか思ってたら、リンダが口元を大いにゆがめて、

「この、変態!」と、吐き捨てた。まるで、噛み終わったガムを地面に吐き捨てるみたいに。

「あぁ!?」俺は言い返す。

内心では、リンダに変態呼ばわりされて、ちょっと傷ついている。正直、「はぁん……」ってなった。「そんなこと言わないでよぉん」って。「愛するリンダちゅわん」って。泣いちゃう泣いちゃう、しくしくって。


でも、悟られてはいけない。俺はかっちょいいギタリストなのだ。


「どうしてくれんだよ!お気に入りのTシャツがラーメンびたしじゃねーか!おぉ!?」とか、言ってみる。


実際、お気に入りのTシャツなのだった。


リンダは答えない。ふん!と鼻を鳴らしただけで、ぷいっ!おもむろに鏡を出して、メイクを直しだした。


無視ですか、シカトですか。しかと、シカト仕り候だ!こんにゃろ!でも好き。好きー。すーきやこんこ♪あられやこんこ♪降っても降ってもまだ降りやまぬ♪だ、こんにゃろ!びびったか!

一方のリンダは、俺のことをガッツリとシカトして、まつ毛の具合をチェックしている。


俺は仕方なしに、トイレに行くことにした。せめて、頭だけでも洗っとこうと思って。ご自慢のツンツンヘアがぺしゃんこになるけど、いたしかたあるまい。

スタジオには狭いロビーみたいなのがついてて、小さいカウンターがあって、そこに年齢不詳の女がひとり座っている。俺より年下ってことはないにしても、いくつぐらい上なのか全く見当もつかない。女の年齢ってマジ不詳。

彼女の名前は、三木本みき。どういうセンスだ、三木本みきの両親!苗字が「みきもと」だったら、「みき」以外の名前をつけるものじゃないのか。山本山みたいになるだろ。


俺たちは彼女に敬意を払って「ミキティ」と呼んでいる。年齢不詳のミキティ。気が付くと髪の毛の色が変わっている。今はグリーンだ。


「あらぁ、そういうプレイ?うち、ラブホじゃないんだけど」と、ミキティが言った。「セックスはよそでやってね」

「ちげぇよ!」俺はすぐさま言い返す。「リンダが俺のラーメン蹴っ飛ばしたの!」

「おっふ」ミキティが肩をすくめた。「それで?頭からかぶっちゃったんだ。受ける!」そして笑い。「ダッサ!どんくさ!ウケる!」と、言いたい放題だ。

かと思ったら、急に笑うのをやめて言った。

「とりあえずさ、脱ぎなよ」と、わりと真顔で。


「は?」俺、きょっとーん。


ミキティはカウンターから出てくると、グリーンのナイロン繊維みたいな髪の奥から、妖艶に笑って言った。

「脱げって。ほら、早くぅ」妙なシナをつける。

「は?」僕ちゃん、きょっとーん。


その間にも、ミキティがどんどん迫ってくる。その髪から、思ってもみなかった、ほんのりと甘くスパイシーな香りがたちのぼった。え?え?ミキティってそうなの?でも、俺は動揺なんかしない。カッコいいから。


ミキティがほほ笑んで言う。

「何?あんた、女に脱がされるの待ってるタイプなの?あらそう、じゃ、脱がしてあげるわよ。ほぉら、ばんざーい」

「うわっ!」

無理やりに万歳脱ぎさせられた俺。Tシャツの中は何にも着てない細マッチョ。タトゥーが心なしか縮まっている。ナニコレやだ恥ずかしい。と思っても顔には出さない。だってパンクなギタリストだから。


「ちょ、待てよ」と、一昔前のキムタク……を真似する物まね芸人みたいになっている俺。そんなことにはお構いなしで、ミキティの魔性の手が俺のベルトをつかんだ。

なんだか頭がぼーっとしてきた。起きてるのに、寝ているみたいな感じがする。

と、そのとき、ミキティが言った。


「お前のトレモロアーム、どうなってんのよ」


「え?」我に返る俺。「え?え?違っ……」くっそう。何が嬉しくて俺のアームは、こんなことになっちゃってんだよ!いや、待てよ、ふざけんな!俺のはトレモロアームってほど細くない……!


と、その時だった。


「あっ!」と、声がした。ミキティの背後からだ。


見ると、俺のバンドのベース担当が突っ立っていた。なんでか知らないけど、顔を真っ赤にして、わかりやすく目を泳がせている。それから、何かしゃべろうとして、言葉を飲み込んだ。分かりやすいゼスチャーだった。やつは、それを2回か3回ぐらい繰り返して、それから深呼吸をした。変なやつだ。

そんなやつも、俺たちが見ていることに気が付くと、
「お、さ、先に入ってるぞ……」と言って、便所の方へ歩いて行った。そのあと、へたくそな作り笑いを浮かべながら戻ってきて、スタジオのほうへ逃げるように走ってった。


つくづく、変なやつだ。


「はぁ~もう面倒くせえやつだな」と、急に、ミキティが言った。口調が変わっている。「洗ってやるから脱げよ。ほら、全部!」

「は?」

「あたしんち、この上にあんの。だからその服、洗って乾かしてきてやるっつってんだよ。うちの最新式の洗濯乾燥機でな」


え?……いつ、そんなこと言いましたっけ?何年何月何日何時何分何秒地球が何回まわった日!?


「その間、俺はなにを着てたらいいんすか」不貞腐れて俺が聞く。


「いいじゃん。マッパで。別に恥ずかしがるような相手、いねえだろ?しかも、あんたギタリストじゃん。隠れる隠れる。だ~いじょ~うぶ♬」


「はぁ!?ふざけんなよ!なに言っ……」


「うるせぇんだよ!」ミキティが詰め寄る。近っ!顔、近っ!うばわれる!俺様のセクシーな唇がミキティに奪われる!ダメ、そんなのダメ!でも、どうして?俺のハートがチュクチュクしちゃう……。こうなったら、もう、目、つぶっちゃお……。


と思ったけど何も起こらず。薄目を開けてみると、ミキティがシラケた目で俺を見ている。


恥ず!


「しょうがねぇな。とりあえず、洗濯機セットしたら、適当な服、持ってきてやるからさぁ。その間カウンターん中に隠しとけ!」


それから15分ぐらいの間だろうか。裸に腕時計のみという、ある意味パンクな恰好で俺は待たされた。あ、パンツは穿いてますよ。安心してください、穿いてますよ。

ようやく戻ってきたミキティが持ってきたダサい服を、俺は着て、バンドメンバーが待つスタジオに向かった。

そん時、俺はミキティに言ってやった。


「俺のトレモロアームは惚れたオンナにしか握らせねぇんだよ」
決まった……!やっぱり僕ちゃんカッコいい♬

そのサポートが励みになります!これからも頑張りますので、よろしくお願いします!