見出し画像

現場レポート:トップが何を語るかで1on1の社員の本気度が変わる!

1on1を導入してから3年ほどたった企業のある部署のトップの方から、人材開発部門経由でこんな相談がありました。
「1on1をやり始めて3年たつが、まだまだ定着していない。この部署全体のコミュニケーションを活性化したい。ついてはもう一度、1on1の研修をやってほしい。」

ということで、今日は、その研修を実施するまでの取り組みを通じて、改めて、

  • 1on1を浸透させるには「目的=Why」が大事だよ

  • その目的は「コミュニケーションを活発にする」ではかなり弱いよ

  • 目的を語るとき、トップの語る言葉とリーダーシップはめちゃめちゃ大事だよ(社長もだけど、部門・部署のトップも同様)

と思ったことについて、現場からの情報をお伝えします!


最初はどこか「他人ごと」にも見えた部門長

最初の打ち合わせで、部門責任者のA氏からこのように言われました。

「数年ぶりにこの部署に戻ってきたら、なんだか前より雰囲気が暗い。若者の離職も続いている。1on1を活用して、なんとか、良い部署にしたい。」

そして、

「人材部門からはもっと、1on1がコミュニケーションをよくするツールなんだということがわかるように、全社にしっかり発信してほしい。」「1on1は楽しいんだと、やってみようと全員が思えるような研修内容にしてほしい。」

という要望が語られました。

やや厳しめの口調で、真剣な表情で言われましたので、そのご苦労と本気度を感じ、私もできることはやりたい、と思ったことを記憶しています。

・・・と同時に、私の中で、違和感や疑問が湧き上がってくるのも感じていました。

A氏の言葉の主語が「自分」ではなく「他人」というか、「人材開発部門が〜」とか「研修は〜」とか、自分以外のものに矢印が向いているような、そして、「自分自身の影響力の大きさに気づいていない」ような気がしたのですね。

人材開発部門の発信も大事だけど、本気で推進したいと思うのであれば、部門トップが自分から発信することも大事ではないかなあ、と。

それに1on1の目的が「コミュニケーション活性化」って弱いよな。本気で進めるなら、目的の伝え方から考えないとうまくいかないんじゃないのかな。

そんなふうに思ったのでした。

大事なのは「コミュニケーション活性化」の「先」にある1on1の目的

次の打ち合わせの時、そのモヤモヤした思いを思い切ってA氏にお伝えしてみました。どう受け取られるのか不安はありましたが、この取り組みを成功させたいという私の思いから、必要だと判断しました。

「あのー、1on1の目的について、気になっていることがあるのでお伝えさせていただいてよいでしょうか?」

そして以下のようなことをお話しました。


今の職場の状況と、Aさんの思いはよくわかりました。私もぜひ一生懸命考えていきたいと思っています。

その上で、まず、「コミュニケーションの活性化」のために1on1を浸透させたい、とのことでしたが、

確かに、1on1をちゃんとやれば、結果的に、職場のコミュニケーションの活性化につながると思います。ただ、マネジャーのみなさんに本気で1on1をやろう、という気持ちになってもらうためには、「コミュニケーションの活性化のためにやろう」だけでは、正直、弱いのも事実です。

なぜなら、現場には1on1をやらない理由がたくさん溢れているからです。その最大の理由が「部下とは日頃コミュニケーションが取れているからやらない」です。実際には、そうおっしゃる方こそ、部下とコミュニケーションがうまく取れていないことが多いです。でも「コミュニケーションできている」と言われてしまったら、その方に1on1をやってもらうことは不可能になってしまいます。

それから、やらない理由には「忙しい」というのもあります。忙しくても、自分のマネジメントに必要なんだ、と納得すれば、優先順位をあげて実施するはず。

1on1には、いろんな効果があります。部下の成長支援、モチベーション向上、業務能力向上、離職防止、メンタル不調の防止などなどです。だからこそ、納得感を持ってやってもらうためには、「万能薬」かのように語ったり、「コミュニケーション活性化のため」と漠然と伝えるのではなく、”なぜこの部署で1on1をやるのか”を、組織の戦略やありたい姿と紐づけて、部門トップの方が、部門トップの言葉で語っていただくことが大事なんです。

それを、やっていただけないでしょうか?研修の冒頭で、5分くらい、みなさんに語っていただけませんか?


A氏は、ちょっと考えてから、ご自身の考える組織の未来をご自身の言葉で話してくださり、「研修の冒頭に話すことは考えておくよ。」とおっしゃって打ち合わせは終わりました。

冒頭のトップが何を語るかで研修の成否は○割決まる?!

その後も何度か打ち合わせを重ね、研修の設計を行いました。現場のマネジャーのみなさんが「1on1は楽しい」「やってみよう」という気持ちになるよう、その部署での1on1実施状況のデータや、マネジャー・メンバーのインタビュー結果も踏まえて決めていったのです。

私は私なりに、研修の設計について考え抜きましたが、「部門長が冒頭に何をどのように語るかで、この取り組みの成否は8割決まる」と思いました。

研修当日。
忙しい月末の土曜日開催、かつ、事務所が他県にもまたがっていて遠くから参加する方もいらっしゃる中、欠席者・遅刻者なく始まりました。

A氏が立ち上がり、開会のあいさつをされました(どきどき!)。マイクを握ったA氏は、まず、こんな感謝とねぎらいの言葉から話しはじめました。

「多忙な月末の土曜日にわざわざ集まってくれてありがとう!今、こんな状況でいろいろ大変だよね。」

それからこの部署に数年ぶりに戻ってきて感じられた率直な印象と、「こんな会話の起こる、こんな部署にしたい」という思いが語られました。

  • まずは1on1により、上司・部下のコミュニケーションを良くして明るい部署にしたい。

  • コミュニケーション活性化にとどまらず、長期的に数字も上げ続けられる、明るくて強い組織にしたい。

  • そのために1on1をマネジメントに必須なツールとして活用していく。

  • この1年で、全国の中でも1on1を一番うまく活用して成功事例を出す、モデル事業所になろう!

  • 今日は1日、一緒に、真剣に学ぼう!

力強い言葉でした。思いがこもっていました。受講者のみなさんは、全員が背筋を伸ばして、A氏の方をしっかりと見ていました。「8割成功!あとは私次第だな・・・!」と思い、みんなの視線がA氏から私に一斉にうつるのを感じながら、前に立ちました。

この日の研修は、過去イチといってもいいくらい、受講者みなさんの集中力が切れず、活気のあるものとなりました。研修が終わったところで、これから、という段階ではあるものの、部署のトップの言葉が、こんなにも大きな意味を持つのか、身をもって確信したできごとでした。

忘れてはならない現場の方々の存在

1on1を導入してからの3年の間、A氏が新たに着任するまで、さまざまな思いでこの取り組みに関わってくれた方々の力があることも、最後にお伝えしておきます!

まずなにより

  • この部署の1on1推進担当者であるNさん。
    3年の間、周囲から理解されない時にもあきらめずに、時々くじけながらも、トップに、マネジャーに、メンバーに、働きかけていました。

  • そのNさんを、いつもしっかりサポートしてくれる人材開発部門のトップと担当者のみなさん。
    しつこくしつこく、1on1の必要性と、各部署の実施状況についてデータを取りながら、訴えつづけてきました。

そして

  • 実際に1on1を現場で実践し、応援してくれたマネジャーのみなさん!

前向きに実践していた若手のマネジャーの数名が、1on1で感じた部下の成長や、実践におけるご自身の工夫などを話してくれました。
ベテランマネジャーの中には、しぶしぶ1on1をやり始めたら「楽しい」と思うようになったと、以前とはまるで別人の表情で話す人もいました。

そうそう、今回の研修で、唯一、イライラしたような様子で黙って座っていた、「現場たたき上げの大ベテラン」の方がいらっしゃいました。ぱっと見、ちょっとこわい印象(ごめんなさい!)、でも心を許せば優しい、そんな方でした。気になってグループワーク中にテーブルをまわりながら声をかけると、私を見上げて「時代だよな・・・。」とぽつんと一言。「時代ですねえ・・・。私たちはこんなことやってもらってないですもんね!」と返すとうなづいて、「1on1、少しやってるよ。」と語り始め、徐々に笑顔を見せてみんなに溶け込み始める、というシーンもありました。

いろいろな方の熱意や思いがあり、1on1を取り巻くマネジャー・メンバーの方の発言や様子が少しずつ変化し、それがお互いに影響をしあって、そうやってここまで進んでこられていたのだなと思いました。それが新任のトップの方の心にも響いたのでしょう。

加えて、トップの言葉で強力に推進することができるように、改めて、トップの存在の大きさもまた感じたのでした。

今日は

  • 1on1を浸透させるには「目的=Why」が大事だよ

  • その目的は「コミュニケーションを活発にする」ではかなり弱いよ

  • 目的を語るとき、トップの語る言葉とリーダーシップはめちゃめちゃ大事だよ

ということについて、現場からのレポートをお伝えしました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?