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「bye bye」ってなに?

土曜日の昨日は終日、映像翻訳に集中。これは字幕ではなくて、映像の編集点を決めるために発話者の発言をすべて日本語で起こす作業です。

金曜日の夜遅くに大急ぎでイギリスのドキュメンタリーの一部の翻訳を頼まれたのですが、今回もアジア人が話す英語でした(どうしたわけか、今月初めからアジア人の英語の聞き取りが多い)。彼らの母国語は英語ではないので、それぞれのお国訛りが色濃く反映されていました。

アジアというのは国によって独特のテンポ、発音、音の強弱があります。人の口と舌の筋肉は母国語の発音に最適な仕様で発達します。日本人が英語を話す場合によくある特徴が軟弱な破裂音。大して口を開かずに発音できる言語のせいか、破裂音も曖昧になる傾向があり、通訳中に破裂音の入った人名がカタカナ音で出てくると確実に嫌な汗をかきます(苦笑)。

それはさておき、表題の「bye bye」。とある国の政府の高官が声明文を読み上げる場面での英語に登場したので、「待てよ、これは絶対に違う」とすぐに気付きました。しかし、文脈的に意味を推測できてもバイバイに近い音の単語が思い浮かばず、日本語から逆引きしても出てこない……。

そうやって探ること小一時間。ふと「もしかしてこの動画がYouTubeにあるかも」と探したら、見事にありました! 迷わず英語の字幕をオンにして見たところ、何度か「bye bye」と出てくるこの“バイバイ”が、最後の最後で「abide by」と表示され、YouTubeの英語字幕の優秀さに感動しました。

「abide by」は「(規則など)に従う、順守する」という意味。この発話者の「a」と「de」が弱すぎで聞こえなかったわけです。彼の母国語は単語末の「d」「k」「t」などが日本語で言うところの「っ」と飲み込む音になる傾向があるので、そのクセが英語の発音にも反映されたみたいです。

さらに、声明文を読むという行為、つまり目の前の紙に印刷してある文字を視覚的に捉えて口から音として出すという行為が、不明瞭な発音を助長した可能性があります。

発話者は視覚から文字情報を取り込んでいるので、頭の中では全文がつながっており、意味も通じています。それゆえに、自分が発している音がすべて相手に通じていると思い込んでしまうのです。だって、自分は全部分かっているのですから。

こうなると自分の発音に注意が向きません。確実に発音を間違った場合のみ気付いて訂正しますが、小さなミスには気付かなくなります。人間が感知する情報の80% を占めるのが視覚ゆえ、致し方ないと言えばそれまでですが……。

自分の頭の中の考えを言葉で表現する場合、視覚情報が皆無で、脳と口が直結しているため、自分の意見を伝えるための発音を相手が十分に理解できているかに意識が向きます。ほんと、伝えたいという思いはすごいのです。

ただ、自分の発音というのは普段あまり意識しないもので、英会話を学んでいる人でも自分の発音のクセを知らない人がけっこういるようです。かつての私は録音したインタビューを翻訳原稿に起こすときに自分の英語を聞くことが多く、そこで気付いた発音の弱点を次の取材通訳で意識するようにしていました。

今はスマホで簡単に録音できるので、自分の発音を録音してチェックしてみることをお勧めします。これ、けっこう赤面ものですが、確実にタメになります。「ネイティヴに近づける」みたいに意識しすぎるのはお勧めしませんが、聞きやすい発音・テンポ・速度を意識すると、発音がぐ〜んと良くなります。

※写真はよく作っていたアメリカ南部風ブレッドプティング。今回の話題とはあまり関係ありません(笑)。


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