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Re-posting No. 031 英語・挫折の歴史(4)朝日カルチャーセンター・初級英会話初日の屈辱?

Re-posting No. 031 英語・挫折の歴史(4)朝日カルチャーセンター・初級英会話初日の屈辱?

(昨年4月6日投稿したNo.031を大幅に書き直しました。Re-posting No.029の続きです)

康司おじさんに刺激されたり(No.029)初めての海外ハワイへの旅での経験や(No.020)、他のいくつかの挫折があったりして、英会話を何処かで習いたい気持ちが高じてきていた。社会人対象で「学校」の匂いの少ないところと考え、最終的に選んだのが「朝日カルチャーセンター・初級英会話」だった。「カルチャーセンター」都会的なオシャレな言葉の響きに誘惑された部分もあった気がする。

酒屋商売の定休日、水曜日の午後2時、新宿駅構内、西口の高層ビル群に向かう人の数は多い。朝のラッシュアワー時間帯に比べれば少ないのだろうな、池袋から新宿までの山手線内でも、同じようなことを思った。板橋の片隅で自営業をしている僕にとって、通勤通学時の公共交通機関の混雑は無縁のものだった。

高層ビルの一つ、住友ビルが右手に見えた。朝日カルチャーセンター「初級英会話」初めての授業がまもなく始まる。大学浪人二年間在籍で4日しか受講しなかった代々木ゼミナール以来の授業だった。

結構な数の人が、様々な企業の入る住友ビル内に入ってゆく。このうちのいかほどの人が、朝日カルチャーセンターで教養を身につけようとしているのかは分からなかったが、講座申し込み初日の混雑ぶりを振り返ってみると、かなりの人が向かうような気もした。

満杯になったエレベーターが教室のある30階で止まる。教室はここか。部屋番号を確認して、教室内を見回す。カタカナの「ロ」の字型に長机が並べられていて、席は10席ほどか、思ったより小ぶりな教室だった。正面にホワイトボードがあり、その前が教師の席であろう。空いている席は2つしかなく、教師席から見て左手、一番遠い席に腰を下ろした。

これから共に学ぶ同級生たちの顔を見る落ち着きが少し出た。見ると、全員が女性で、身なりのよい方達「奥様」の言葉が思い浮かんだ。自分より少し年上かなと思える方が2.3人いらしたが、他の方々はもう少しお年を召していると思われた。自分の右隣に座っていらして、その後長いお付き合いとなる山下さんもそのお一人だった。

程なく、背の高い白人男性が、脇に本を抱え部屋に入ってきた。ホワイトボードの前に立ち、Hello. と挨拶し、教室内を見回した。男性の青い目からの視線が僕に向けられた。昼間のこの時間の男性受講者は珍しいと判断されたのだろうか。

続けて、 I am Macmicking. 名前を書く。マックミッキング、変わった名前なのだろうか?そして、クラスの説明をしているのだろう、ホワイトボードに英語を書きながらだったので、なんとか分かった。No Japanese. 日本語はダメです、か。 Make mistakes. 間違いは大いにしなさい、だろうな。この短い二つの文は今でも目に浮かぶ。

マックミッキング先生、右隣の女性を見て、Ms.Katoなんたらかんたら、と英語(多分・当たり前か)で尋ねた。自己紹介をしてくださいと言ったのだろう。確信が持てない。僕の英語の、リスニングのレベルは、この時、こんなだった。

Ms.Katoの英語の美しいこと。聞き惚れた。次の「奥様」もスムーズに自己紹介をする。次々に、英語での自己紹介が気持ちよく流れていく。このクラスは「初級英会話」だったよな。とても信じられず、レベルの選択を間違ったと思い「初級」より下のクラスってあったのかなと、心ここに在らず状態に陥ってしまった。

Mr. Ono, please なんたらかんたら…。自分の番になった。My name is Shinya Ono. あと一つ何か付け加えたのだが、覚えていない。教室内が妙な静けさに包まれた。僕の英語の拙さが教室内のみんなに晒された挙句の、同情からの沈黙なのか。皆、こちらに視線を向けなかったのは、憐れみからの大人のたしなみだったと思う。

今まで、ただ頷(うなづ)いて、皆の自己紹介を聞いていただけだったマックミッキング先生が、助け舟を出してくれた。Are you a student? 助け舟にならなかった。聞き取れなかった。うん?何も言えず、怪訝(けげん)な表情を浮かべた。

マックミッキング先生、単語一語一語ゆっくりと、Are—you—a—student—Mr.Ono? と繰り返してくれた。あなたは生徒ですか Mr. Ono? このとき24歳、結婚もしていたが、若く見られたのだろう。いいえ、違います、を言えばいいのだな。あ〜、No,..あれ、I do n`t,,,I am…Noの後が続かなかった。

be動詞と一般動詞の違いまでもあやふやになっていた。自己紹介を兼ねた生徒のレベルチェックだったのだろう。はい、この人、全然出来ない人ですね〜、のラベルを貼られたのは間違いなかった。Okay, 次の人、ミズ・ヤマシタ…。山下さんの綺麗な英語が耳に残る。

大学浪人時代の、代々木ゼミナールの通学4日の記録を更新して、中学入学前の英語塾通塾1日の記録と並ぶのか。いや、以前と決定的に違うことがあった。今回は親のスネをかじっていない。酒屋商売、バリバリの肉体労働で自分が稼いで出したお金だ。大学浪人時は親の懐(ふところ)の痛みなど全く感じなかった。現金なものだ、今回は取り返さないと勿体ないと思えた。

授業料三ヶ月分は払った。屈辱を乗り越えようとする気持ちが湧いてきていた。今の自分はこんなものだ、できないんだ、これまでやっていないものな。しゃ〜ない、しゃ〜ない、ともかくは続けよう。少しでも何かは得ないと損する。連れ合いの由理くんの影響か、関西人の発想が、自分の中に入ってきていた。

帰宅途中の山手線内で思った。クラスの女性たち、みな上手だったなあ、何処でどうやって英語を身に付けたのだろう?皆にも自分の「英会話」の酷さを知ってもらえた。これ以上悪くはならないだろう。みんなに、少しずつでも追いつくように頑張ろう。大いに恥をかいていこう。「刺激」をもらうのだ、あの「奥様たち」から。

・・・続く

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