No.035 スコットランド・ハイランドへの旅・口語編

スコットランド・ハイランドへの旅・口語編

ボブ・ディランの話をよくしているよね。ディランの歌の一つに「ハイランド」という曲があるんだ。16分を超える長さの曲なんだ。みんなが聞くと、盛り上がりが無い歌だなあ、長〜って思うかもしれないな。ボブ・ディランの声って変わっているとか、変な声とか言われるんだけど、僕は大好きなんだ。みんなには伝わらないかも、だけど、ディランの声を聴くと「ザラっとしてる」って感じがして、つい聞き入っちゃうんだ。

ハイランドと言うのは地名です。イギリスは四つの国が合わさって出来ている国で、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドがその四つです。地図で確かめておくといいね。スコットランドの北の方の地域でハイランドと呼ばれている所があります。そこ、そうハイランドに行って、ボブ・ディランの「ハイランド」を聴くのが、僕の夢の一つだったんだ。

ハイランドには、８月下旬にレンタカーで行ったんだ。かなり北にあるから、日本に比べるとずっと涼しく、夜にはセーターが欲しいくらいだったよ。

レンタカーを走らせて、北へ北へと向かったんだ。道は舗装されていないから、ガタゴトとスピードは出せなかったな。道の突き当たりのようなところに、小さな村があって、そこで車を降りたんだ。

ちょっと歩くと、海岸に出て、砂浜ではなく岩場、岩がゴロゴロと転がっていて、その上を海に落ちないように気をつけて歩いたんだ。立ち止まって、前方を見ると、海が広がっていて、足元の岩場に低い波が絶え間なく当たり、ザバッザバッって音をたてているんだ。誰もいなくてね。ひとっこ一人。海を独り占め。海からの風が強くて、顔にビュービューと吹き付けてくるんだ。寒かったけど、気持ちが良かったなあ。

ポケットから、ipodとイヤホンを出して、ボブ・ディランの「ハイランド」を聴き始めたんだ。風の音と波の音がずっと続くように、ディランもずっと「ハイランド」を歌って、終わりが無いような気になってきたんだ。ディランは、きっとここでこの曲を作ったんだ。そう思えたんだ。そのくらい目の前の風景と、ディランの曲の雰囲気が一致していたんだ。

ハイランドを聴いているうち、自然と不思議な問いかけが、自分の中に起こってきたんだ。「自分の場所はどこだ？」って。自然の風と波の音に囲まれ聴く「ハイランド」と、家の中で窓を閉めクーラーをかけて聴く「ハイランド」って、凄く違って感じるんだけど、同じものなんだよね。ディランの「ハイランド」は、ディランの「ハイランド」なんだよね。

好きな曲が出来て興味が湧いたら、その歌にゆかりのあるところに行って聴いてみると、何か感じるものがあるんじゃないかな。うん、きっとある。