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No.188 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(16)コッツウォルズへのドライブ

No.188 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(16)コッツウォルズへのドライブ

No.186の続きです)

海外をレンタカーで走るのは5回目だった。若かりし頃に訪ねたハワイで2度、暫くの時をあけて3度目1995年、「アウトバーン(ドイツ・オーストリア・スイスの高速道路)」が制限速度なしを良いことに、時速160kmをマックスに、ドイツフランクフルトからスイスチューリッヒまで「走り屋」を楽しんだ。4度目が1996年、連れ合いの由理くんとの最後の海外への旅となってしまった時の、スペイン・バルセロナからフランス・プロヴァンス地方巡りでのドライブだ。

海外レンタカー5度目の今回は「人は右、車は左」日本と同様のイギリスを走る。海外では初めての右ハンドル・左車線走行だった。それまでに経験した左ハンドル・右車線走行もそれほどの戸惑いは感じなかったが、東京での日常生活で慣れている分、右ハンドル・左車線走行は楽ではあった。

同じ右ハンドルでも一つ大きな違いがある。それは、ウィンカー(方向指示器)とワイパー(雨を払う機器)の取り付けられている位置が、ハンドルを挟み逆である点だ。日本車はハンドル右にウィンカーの、左にワイパーのレバーがある。イギリスなどの外国車は右ハンドルでも、右にワイパー左にウィンカーである。これはドイツ車などの左ハンドルでも同様である。

調べてみると、国際的な規格ISO(国際標準化機構)で「ハンドル位置に関わらず、ウインカーは左側、ワイパーは右側」と規定されているからで、日本車はJIS(日本工業規格)「ウインカーは右側」との規定に基づいているからだと分かった。この点においては、日本車は携帯電話などと同じく「ガラパゴス状態」ということか。

ワイパーに比べてウィンカーはずっと沢山使用する。左ハンドル運転の時のウィンカーにはすぐに慣れたが、右ハンドルでの左ウィンカーにはなかなか慣れなかった。この旅での運転中、何度も目の前にワイパーが急に現れ左右に動いた。

それはあたかも人差し指を左右に動かす「チッ、チッ、違いますよ」の仕草にそっくりで、車内の狭い空間の中で苦笑いせざるをえず、しまいには「またかいな。すまんワイパーくん。こんな晴天の日に」と旅は道連れの相棒に笑いながら謝ったものだ。

そう、イギリスでも僕の「晴れ男」は健在で、5日間滞在のイギリスでも快晴の日が続いて、ワイパーくんの本来の仕事「雨を払う」役割は無く、彼の退屈しのぎにも僕の不慣れは良かったか。

ヒースロー空港からのドライブで、市街地中心部はほとんど走らずにすぐに郊外地に入った。半分開けた左右の窓を通り抜ける風の中にイギリス特有の香りを嗅ぎ取ろうとしてみる。運転席から見える景色は、東京都心を抜けて地方に向かう様相と大きな違いは感じられず、両側二車線ずつの道路を走る車の数も少なくはない。

20分も走っただろうか、前方に信号のない交差点にさしかかった。ヨーロッパの道路を走っていると実感できた。2012年のこの時、日本にはまだ存在しなかった「ラウンドアバウト(roundabout)」だった。

「環状交差点」と訳される交差点である。欧米では普通に見られ、日本では2013年最初の「ラウンドアバウト」が長野県飯田市に設置されて以来、地方を中心に徐々に増えている交差点の一種である。上からみるとドーナツ状になっていると言えば想像しやすいであろう。

交差点の中心に「島」と呼ばれる円形の部分があり、その周囲に環状に道路が作られ、車は一方向に周回しなければならない。左車線のイギリスであれば、ラウンドアバウトに入る車は必ず左に周回することになる。右方向から車が来ていなければ一時停止せずにラウンドアバウトに入ることができる。

左折するには90度分だけ、直進するには180度分を、右折するにはぐるりと270度分を周りラウンドアバウトを抜けることになる。信号機もなく実に合理的な作りで、僕自身はドイツで初めて遭遇した。

信号がいらないところからメリットが大きいとの指摘もあるが、交通量の多いところには向かないなどデメリットもあるようだ。個人的には、都会を離れるほどメリットが大きいと感じるし、無意味な信号待ちの時間がなく、日本でも大いに増えて欲しく思っている。

何度目かのラウンドアバウトを楽しんだ後に、車はいつの間にか田園地帯を走っていて行き交う車の数も減っていた。左右の草地には、沢山の干し草が綺麗に円筒状に丸められて転がっている。あれはなんと名付けられ、どうやって作られるのだろう。

おそらくコンバインのような特別な農機具で作るのだろうなと想いを巡らしていると、右方向から大きな音が徐々に近づいてきた。音の方向に視線を移すと、草地の上をゆっくりと走るトラックが見えた。音が近づいてきたと思ったのは錯覚で、こちらのレンタカーが音源に近づいているのだった。

レンタカーを路肩に停めて、暑いくらいの陽光の元に出てみた。右手を額にあて日陰を作り、グーングーンと音を立てるトラックを見ると、小さな前輪と大きな後輪のずんぐりとした車体の後ろに付いていた羽のない扇風機のような形態の器具が二つ動き、地上に降りた。

羽のない扇風機が回り、トラックが前方に進むとトラックの後ろに干し草が直線上に積み上げられていく。地元の人には日常のなんでもない景色だろうが、僕には第一級のスペクタクルである。

「扇風機付きトラック」から少し離れた後ろに、同じようなずんぐりとしたトラックが続いて走行する。こちらのトラックの後ろには「ゴミ収集車」のような器具が付いている。刈り取られた干し草は見る間に「ゴミ収集のような器具」の中に収まっていき、少しすると器具の後ろから、巨大な干し草のロールケーキがゴロリと産み落とされていく。

その様は、人の排便のようで滑稽でもあり、等間隔に並びゆくロール状干し草は、意思を持った機械の職人技を見るようでもあり、しばらくの間ワクワクしながら見入ってしまった。

そうか、こんなふうに草地の風景は作られゆくのか。
「旅」はまた一つ僕の中に意味を付け加えてくれた。

・・・続く


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