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No.195 僕の映画ノート(5)高校時代・広がる世界

No.195 僕の映画ノート(5)高校時代・広がる世界

No.194の続きです)

家から徒歩で5分ほど、開店前の街の小さな商店街を少しばかり過ぎて左に入ると僕が通っていた小名浜第一小学校があった。そこから10分ほど、民家がぽつりぽつりと建ち、なんとか川と言える水の流れと小さな諏訪神社が視界に入り、緩やかに続く坂を上がった街外れに母校小名浜第二中学校がある。

1960年代当時、この小さな街の中に映画館が5つもあったのだ。帰郷する度に、中学校までの自分の世界の、生活範囲の狭さを思い、それでもなお現在の僕の感性の一部は間違いなくここで育まれ広がっていったのだと感傷的になったりもする。

磐城高校の所在地いわき市平(たいら)は実家のある小名浜の街から約14kmほど、バスで40分ほどの所にある。海岸沿いの街小名浜は海風が吹き、夏でも比較的涼しい。小名浜の街からバスで10分ほど行くとなだらかな上り坂となりすぐに下り坂に入る。地元で御代坂と呼ばれているこの小さな坂を超える辺りから風の様相は変わり始め、小名浜の街よりも大きな商店街で賑わう平の街に吹く風は明らかに淀み、実際、気温差も3°Cくらいはある。

平の街も小名浜と同じように映画館が多く、その中で「聚楽館」「ひかり座」の二館が洋画を中心にして、小名浜「銀星座」よりも上映が早かった。おそらく平での上映の後に小名浜の映画館にフィルムが回されていたのであろう。当然上映本数も平の方が多く、僕の映画鑑賞の中心は「聚楽館」と「ひかり座」に移っていった。

卓球に夢中になっていた高校1・2年生の時は、土日の練習の後に映画館に足を運び、クラブが終了した3年時には平日の放課後に、時には悪友と共に授業をサボって暗い館の中に身を潜ませた。ピーター・フォンダ監督・主演「さすらいのカウボーイ The Hired Hand」に強い印象が残っているのは、好みの映画であったばかりでなく、授業を共にサボった連れがタカユキ(Re-Posting No.047 )で、19歳で夭逝した彼と一緒に観た唯一の映画だからかもしれない。

「キネマ旬報・世界映画作品大辞典」を手に入れ(No.194)それまで鑑賞した映画の題名を調べることができるようになり、居眠りしている時以外の授業中に「映画メモ」を作り始めた。このメモを元に大学浪人1年目に「映画ノート」洋画編2冊と邦画編を作り、色褪せた紙が愛おしい樣(さま)で今も手許に残る。鑑賞日時・映画邦題名・オリジナル原題・制作国と会社・公開年に続き、監督・キャストを記し、映画によって原作・脚本・音楽・キャスト・感想・参考などを補足している。

洋画編ノートの最後ページに「『一冊まとめて』の反省」を書いていて、1973年5月24日の日付となっている。このノートには、東京に住み始めてから「京橋フィルムセンター」「池袋文芸座」「飯田橋佳作座」「銀座並木座」などで観た映画も含まれている。

先日、一生懸命に丁寧な文字で、気に入った作品に書いた「感想」や「『一冊まとめて』の反省」をひとり苦笑いをしながら読み「若き日の自分」の姿を、あの頃の思考や志向や嗜好を振り返ってみた。

「…数学・物理・化学・古文の授業中、そう30時間以上はつぶしそれまで観た映画を書き出していった」まあ、国語の勉強に変えていたと解釈するか。「…合計で298本の洋画を観ている。邦画は150本くらいだろうか」20歳までに観ている映画本数としては多い方だろう。

「最初に感銘を受けたのは『俺たちに明日はない』(No.192)だった。新鮮だった。『西部戦線異状なし』この映画が1930年に制作された事実は驚愕だ。芸術的に見れば『ベニスに死す』『野いちご』は素晴らしかった。『わが青春のフロレンス』も好みの一本だ。文句なく楽しめたのは『ダーティハリー』『ifもしも』『Z』などだ。TVで観た『シベールの日曜日』『イタリア式離婚狂想曲』『テキサスの五人の仲間』も印象に残る。『質屋』はこのノートの最後を飾るのに文句なしだ」

なかなかに生意気な文言を連ねている「『一冊まとめて』の反省」で、最後の最後に次のような、なにか現在(いま)の自分がいかにも書きそうな文体に、変わらない自分が嬉しいような、進歩していないようで残念なような、人とは本質的に変わらないものと思い知らされたような、いずれにせよ書き記しておいて良かったと肯定しておこう。

「いけない、これでは『一冊まとめての反省』ではなくなってしまう。では反省しよう。批評家がいいと言った作品ばかり感想を書いている。つまり作品に『格付け』をしている。これからは自分にとって好作品と言える映画を、なぜそうなのか追求していきたい。このノートでも『おもいでの夏』『地獄の天使』『ヘルプ』などに感想を書いていないのが悔やまれる」

・・・続く

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