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No.200 僕の本棚より(3)「海中顔面博覧会」中村征夫 / 愛嬌たっぷり海の生きものたち

No.200 僕の本棚より(3)「海中顔面博覧会」中村征夫 / 愛嬌たっぷり海の生きものたち

特に「写真」とか「写真集」に興味を持っていたわけでもない。絵画や彫刻などの展覧会には足を運ぶが「写真展」を訪れたことは数回ある程度だった。自分が使ってきたカメラも一眼レフなどではなく「写るんです」やデジタルカメラだったり、今はi-phoneに頼っている。名前を知っている写真家をあげてみると「篠山紀信、立木義浩、土門拳、藤原新也、アラーキー、ロバート・キャパ・・・」後が続かない。

今から30数年前、おそらく西武デパート内書店「リブロ」だったような気がする。横長の変形版の本が平積みになっていて、奇妙な魚のイラストに取り囲まれた明朝体の漢字数文字が僕の目にとびこんできた。「海中顔面博覧会」装丁と題名から魚の写真集と判断できて、手に取りページを開いてみた。

小さな穴の中にいる「エビ?」が海中の水の流れに揺蕩(たゆた)う姿がユーモラスで愛らしい。下に「指揮者」の文字、写真のタイトルだ。さらに説明がある。「プランクトンをおびきよせるためか、長いヒゲを左右に振り回していた」ーカンザシヤドカリーとあった。

凄い!面白い!カンザシヤドカリがまさに「指揮者」に見えてきて、周りの海藻らしきものが聴衆の盛り上がりか、音符たちの踊りにも見えてくる。

隣のページに目を移す。同じくカンザシヤドカリ数匹が穴の中にいて顔を覗かせている。タイトルは「飾り窓」。その写真へのカメラマンの言葉は、海の中の小さな生きものたちへも思いを馳せることのできる優しき心に溢れていて心動かされた。「みんな大きいものにしか目がいかないせいか、ダイバーに見つけられることもなく、なんとなく淋しそうだったので撮った」

大きなクラゲが泳ぐさまにつけられたタイトルが「老いた宇宙船」。体長わずか1、2センチ、黄色に黒の斑点模様の派手な色の魚につけたあだ名が「マドンナ」。一匹のオスの魚がメスに近づいている「唐突な告白」。大きな目に口角が下がった魚が「いじわる!」と言っている。みな同じ顔に見える小魚の群れのアップ写真に「男子校の朝礼」と名付けられている。その群れに当たる光の加減か、何匹かの顔が明るく見えるものには「共学校の朝礼」と、センス溢れるユーモラスなネーミングの数々に魅了された。

「海中顔面博覧会」は僕の本棚に収まり、この本のカメラマン「中村征夫(いくお)」の名前はしっかりと僕の中に刻み込まれた。この本の購入後「写真本コーナー」はよく訪れる場所となり「写真展」にも行くようになったことを思うと「海中顔面博覧会」は、僕の行動範囲を広げてくれた一冊と言える。

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この記事を書くにあたって「海中顔面博覧会」の奥付を確認した。

1987年9月26日第1刷、僕の持っている版が1987年12月27日発行の第2刷、定価3,300円、情報センター出版発行。3ヶ月後に再販されているのを見ると販売実績は良かったのだろう。購入したのが、今から34年も前のこととは思っていなかった。

本の発行の翌年、カメラマンの中村征夫氏は、この「海中顔面博覧会」と「全・東京湾」2冊の写真集で、「写真界の芥川賞」と言われる木村伊兵衛賞を受賞している。その後、数多くの受賞歴を重ね、今は水中写真家の第一人者として活躍されている。

中村征夫氏の著者は他に「ありがとう海の仲間たち」「カムイの海」「海の中へ」3冊の写真集が本棚に並び、それぞれに違ったコンセプトの水中写真で楽しませてもらっている。

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