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No.120 旅はトラブル / 由理くんよ!これがパリの灯だ(6)パリ2日目&ヴェルサイユ宮殿へは電車で行こう!一番安上がりだ!

No.120 旅はトラブル / 由理くんよ!これがパリの灯だ(6)パリ2日目&ヴェルサイユ宮殿へは電車で行こう!一番安上がりだ!

No.118 旅はトラブル / 由理くんよ!これがパリの灯だ(5)パリで落とした財布の運命の続きです)

ホテルヴェルネフロントの「ホームズくん」とポルトガル人のドライバーさんの助けと、間接的には連れ合いの由理くんの好印象で、僕の不注意による「パリ財布紛失事件」は解決に至った。ホテルヴェルネでの滞在延長も問題なさそうだった。

部屋に戻り鍵をかけるよりも早く、由理くんの声が届いた。「しんくん、フロントからの電話、なんやったん?」僕こそ難題を解決した名探偵だよと言わんばかりに、黒革の財布を顔の所まで上げて、笑顔と一緒に由理くんに示した。「ええ〜!どないしたん?」

由理くんに解決までの道のりを説明すると「しんくん、ポルトガル人ドライバーさんとフロントの人に御礼したん?」フロントの「ホームズくん」には延長のお願いはしたものの、お礼はしていない。由理くんがサラッと言う「宿泊伸びそうやし、ちょっとだけお礼しとこうか、しんくん」翌日に「心付け」を渡すことにした。由理くんは、自然と人の心を掴むのが上手い人だったなあ。

長い長いパリの初日が終わろうとしていた。時計の針は11時を指していた。ホテルヴェルネの宿泊は延長ができれば6泊になる。今もそうだが、この時の旅でも目覚まし時計は持っていなかった。明日は適当な時間に起きて、ヴェルサイユ宮殿にでも行こうか、その後どうしようかなどと話しているうち、睡魔がちゃんと訪れてきてくれた。

目覚めて時計を見ると、10時を回っていた。ホテルヴェルネの朝食は食べ損なってしまったが、まあ明日もあるし、空腹でもなかった。パリ2日目は、ホテルの近辺の散策から始めようとなった。

お洒落なパリに合わせて、由理くんはグレーとブラウンの縞模様のジャケットにマフラーを巻いて黒のパンツ、僕はベージュのセーターにグリーンのパンツ、薄手のイエローのロングコートに着替えてホテルのフロントに行くと「ホームズくん」は、いなかった。「心付け」は直接渡した方がいいと判断し、鍵だけ預けて外に出た。

まず、シャンゼリゼ大通りと逆方向へ向かった。初日はタクシーでホテルに到着、一息ついてすぐにシャンゼリゼ大通りに向かったので気付かなかったのだが、ホテルの近辺はかなり静かだった。他の地域まで足を伸ばしてはいないが、ホテルヴェルネがミシュランで「居心地が良い」獲得の理由の一端をみた思いがした。

街の景観を壊さないようにとの配慮か、あるいは決まりでもあるのか、飲食店とお店の軒先の日除けテントの赤色での統一は、喧騒を拒否する宣言か、大人の落ち着きに満ちている。パリの散策を楽しみながら石畳の道を、由理くんと二人東京では聞くことのない硬質な音を楽しみながら歩く。

大人の雰囲気に満ちてはいるが、これがパリの紳士淑女のたしなみなのか、むやみと犬のふんが落ちている。硬質な音が、一瞬でも柔らかい音になるのは避けねばならぬ。シャンゼリゼでは犬のフンは見かけなかったような気がする。犬を連れて散歩する場所の指定はあるのだろうか?未だ、謎を解決するのを忘れてしまっている。

裏通りを歩いていると、ちょっと先にお洒落なお惣菜屋さんがあるのが目に入った。お店に近づくと、一人の男性がフランスパンを袋に入れずにそのまま小脇に抱えて出てきた。「おお〜、映画のワンシーンそのものではないかー!」「しんくん、入ってみよ」小脇に抱えた長いフランスパン、あれはカッコいい、いずれやってみようと決心していた。

朝11時お昼前だが、お店は結構な人が入っていた。試しにお惣菜と菓子パンを買ってホテルに戻った。おそらく結構有名なお店だったと思う。残念ながら、お店の名前も覚えていないし、住所などを書いたメモも手元にない。大変に美味しいお惣菜で、包装も実に丁寧だった。由理くんと二人「やはり、あるところにはあるんだねえ、いい店は」との結論に達した。これに近い感想をこの後のパリ滞在中に何回か経験する。

ホテルヴェルネに戻る。部屋番号を告げる前だった。僕を見るとすぐに部屋の鍵を渡された。この後の滞在中、フロントの係が誰であれ、こちらが何時に戻ろうとも、何も言わずに預けておいた鍵を間違いなく渡されるのだ。これには驚くと言うより呆れた。何かメモでもしているのであろうか?それとも初日早々財布を落としたアホな日本人ということで、ホテル内で知れ渡ったのであろうか?こちらも未だに謎のままだ。

居心地のいいホテルヴェルネの部屋で、思いがけず素敵なブランチをとることとなった。お腹も満ちた、さあヴェルサイユに行ってみよう。ヴェルサイユ宮殿には、バスのツアーもあるのは知っていたが、電車の方が遥かに安上がりだ。「サン・セザール駅」から1時間弱で最寄り駅に着く。そこから徒歩で15分くらいね。まあ、観光客について行けば、迷うことも無さそうだな。

ホテルを出発したのが1時過ぎ。いつものように慌てずに出発である。パリの地下鉄も綺麗なものだ。モネの描いたサンセザール駅の面影はまるで残っていなかったし、駅に入ってきた電車は2階建ての電車で驚いた。もちろん2階の席に座った。時間が遅めだからであろうか、乗客は多くはなかった。

タクシーの中から見る景色とはまた違ったパリの街の姿が後ろへと走ってゆく。ヴェルサイユ宮殿観光の予習はまるでしていなかった。由理くんも観光地の下調べに関しては僕以上に何もしない。見て楽しめばいい、歴史的な背景は知らんでもよろしいと言う、一部の方々からは非難の対象であろう人種である。

途中停車駅に着くたびに人が降りていき、車内は段々と空いてくる。もうかれこれ1時間近く走っていた。僕は時計も持たずに旅をするのだ。正確な到着時刻も知らずにヴェルサイユに向かっていた。

電車の速度が徐々に落ちてきた。もうすぐ到着のようだ。由理くんに告げた「もうすぐみたいだね。ヴェルサイユに行くのに電車は人気がないようだね、我々だけだものね、この2階席にいるのは」「ホンマやね。静かでよかったわ〜」

電車がゆっくりと止まった。「さあ、行こうか」。1階に降りた。由理くんも僕も小さめの鞄一つだけの荷物だった。うん、ホントに我々だけだな。電車が止まったのにドアが開かない。タクシーのドアが自動で開くのは日本だけだ。電車もそうだったかな?えっ、外には誰もいないよ?ドアも開かないよ。どうなっているの。これ?

待ち始めて1分、2分・・・時間が長く感じ始めた。それでもドアは開かない。誰もいない。ドアの上を見ると、非常用にドアを開けるためのボタンらしきものがある。これ、使ったら大きな音が出そうな・・・。使ってもいいものなのか・・・。さすがに焦ってきた。あまり心配していなさそうな由理くんの声が背後から聞こえた。「待ってても開かんとちゃうの?」

・・・続く


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