パンデミックの抜本予防は可能なのか:2
アメリカの医師マイケル・グレガーによる「パンデミックの予防」日本語訳パート1の続きです。パート1をまず読まれた方がわかりやすいと思いますので、まだの方はこちらからどうぞ。
英語でのオリジナルビデオをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。
以下の和訳はビデオの18:50あたりからです。
本来ならスーパーバグと呼ばれている新しい病原体は自然界では、人から人へと次々に感染するような性質のものではありません。集約型の動物の飼育産業のあり方がこのようなウィルスや病原菌の世界的なパンデミック感染とどのように関係しているのか、もっと広げて見てみましょう。
SARSは何千人もの感染者何百人もの死者を出し、AIDSは数百万人に感染しましたが短期間で世界中に億単位で一気に広がるような感染症はインフルエンザです。インフルエンザは「人類最後の大疫病」と言われています。マラリアのように地球の限られた地域に限定されているものや、AIDSのように体液感染なので直接コンタクトで感染するようなものと比べると、インフルエンザは地球の全人口の50%を数ヶ月で一気に感染させることが出来るほどの感染力を持っています。インフルエンザは4500年、人類が鳥を飼い始めた頃から存在しており感染しやすい疾患でしたが、強い病原性を持ち始めたのはつい最近の事です。2004年、H5N1(鳥インフルエンザ)という強い病原性があるインフルエンザがアジアで出現し、2005年、2006年とみるみるうちに世界に広がり数百人の方々が死亡しました。数百人の死者はそれほど大きな数ではないかも知れませんが、亡くなられた方一人一人、ご家族にとって一人の命失う悲しみは大きいものです。世界中、色々な病気で何百万人もの方々がなくなられておられる今、なぜこの鳥インフルエンザに注意を向ける事が大切なのでしょう? それは以前にも一度同じような事があったからです。人間が鳥からの感染症をもらってしまった事に発端し人類歴史に残る最悪のインフルエンザパンデミックが起こりました。それが1918年のインフルエンザパンデミック(スペイン風邪として知られている)です。それ以前のインフルエンザは健康な若者たちの命を奪うことはありませんでしたが、1918年のインフルエンザは健康で人生謳歌真っ只中の若者たちの命を奪いました。この年にはアメリカ総人口の4分の1がこのインフルエンザにかかりました。このチャートが当時の死亡者の%を記録しています。
アラスカでこのインフルエンザパンデミックで亡くなられお墓で80年間凍っていたご遺体の肺から検出されたウィルスの遺伝子をサイエンティスト達が調べ上げ、医療の歴史での最大の謎解きが始まりした。その結果1918年のパンデミックは鳥インフルエンザによる事がわかりました。1918年、最初のインフルエンザによる死者がアメリカで出た日は皮肉にも9月11日でした。その後たった4週間で爆発的に感染が全米に広がりました。(下の図参照)
蒸気機関車時代の1918年にこのスピードで感染が広がったのです。イギリスやアメリカのサイエンティスト達はこれが飛行機でグローバルに人々が移動している現代ならどのようなペースで感染が広がるのかコンピューターでシュミレーションしてみると数週間で国全体に感染が広がるという計算になりました。1918年には5千万人から1億人の方々が命を落とされました。咳や熱などの初期症状からみるみるうちに目から鼻から出血が始まり、肺でも出血を起こし死に至ったそうです。両親ともに亡くなり孤児になった子供達が行き先もわからず路上にいたり、病院のベッドが足りなくなったこと、次から次へと亡くなられた方々のご遺体を積み上げて一気に焼却された事、自分自身の肺の滲出液で窒息するような最後を迎えた方達、棺桶が足りなくなり、人々が巨大な墓を地面に掘っている様子が当時の新聞などに記録されています。この鳥由来のインフルエンザウィルスは28週間でエイズが28年間かけて出した以上の死者を出しました。戦争、自然災害、歴代のどんな災難よりも最短期間で最大の死者を出したこのインフルエンザの致死率は約2−3%だと計算されました。2−3%と聞くと大したことないと思われそうですが、CDCの現在のパンデミックカテゴリーの中では最も重度の高いカテゴリー5に当たります。(図参照:2.2%がカテゴリー5です)
現代のH5N1はかかった方々の50%を死に至らしめているので驚異的です。ドクターRobert Webster (アメリカのウィルス学の権威)は「1918年の鳥由来インフルエンザのパンデミックでは2.5%の致死率でしたが、今の鳥インフルエンザは50%の致死率。こんなことは初めてだ。」と述べておられます。毎年6千万人のアメリカ人が普通のインフルエンザにかかっています。それが新しい病原性の強いウィルスで起こってしまったらどのような事態になるでしょうか?エボラ出血熱が普通の風邪のような広がり方をしてしまったらこの世の中はどうなるのでしょうか?この強い病原性のあるウィルスはどこから来たのでしょうか?
次に起こりうるパンデミックは自然災害というよりは、私たち人間の活動に原因がある結果としての人工災害と言えるものなのかも知れません。
鶏にとって、鳥インフルエンザ感染はごく稀に起こる疾患でしたが、最近では毎年のように見られる疾患になってきました。21世紀に入ってからのほんの数年間で20世紀全体で起こったよりも多くの鳥インフルエンザ感染が起こっています。このグラフは5年毎に集計していますが、最も最近の2006年に入ってほんの数か月の間にはるかに多くの鳥インフルエンザ感染が起こっています。(下のグラフの右端、この講演は2006年に行われたものです)
これを何羽の鶏がかかっているのか折れ線グラフで追加すると、もっと感染増加の様子がわかりやすくなります。1980年代に大きなジャンプが見られます。鶏の生産革命が起こったのもこの頃です。サイエンスという科学誌に鳥インフルエンザの権威がこの様子を「雪のひとひらだったものが急に多雪崩になったようだ」と表現しました。
鳥の間での鳥インフルエンザの流行は人間への感染伝搬に繋がります。10年前までは(この講演は2006年のものなので1996年からあたりと指しています)人が鳥からインフルエンザに感染するなんて事は稀でしたが、H1N1が1997年に出てきてからその他にも4種類の鳥インフルエンザウィルスが出現し香港からニューヨークまで感染した人々が広がりました。その後イギリスにも感染が広がりました。雑誌サイエンスに発表された政府の調査で、鶏工場で働いているスタッフ達1000人に症状がある感染が見られ、彼らの57%家族や身近な人に感染をうつしていた事が報告されています。人から人への感染は季節のインフルエンザと同じ頻度で起こっています。10年前に鳥からインフルエンザに罹ることなど稀だったのになぜこの10年間でこんなに多くの感染が起こっているのでしょう? 3600万羽の鶏が感染した工場のアウトブレイクがありましたが、そこでは鶏の治療に当たった獣医一名が死亡しました。感染力はあっても致死率はそんなに高くはありませんでした。しかしH5N1は違います。鶏から人への感染力もあり、致死率も高いのです。現地点では人から人への感染能力はまだ低いですが、感染してしまえば致死率は50%です。1918年のインフルエンザパンデミックと並ぶ恐るべきウィルスです。1918年のものは人から人への感染力と致死力ともに強力でしたが、H5N1は人から人への感染力はまだ低いが致死力が桁違いに強い(10倍以上)です。このようなウィルスの革命がこのまま起こり続けていったら私たちは近い将来「人から人への感染力」「致死率」ともに過去最強の感染症との戦いを経験するかも知れません。私たちがこのように急激に猛威を振るうウィルスの異変を食い止めるためには、まず「雪崩を起こしたそもそもの原因」に目を向ける必要があります。この数十年間このような感染症の出現を促してしまっている事は何なのでしょうか?
H5N1の出現はフリーレンジの鶏飼育、野生の渡り鳥などに起源すると言われていますが、人々は昔から裏庭に鶏を飼っていましたし渡り鳥達はいつも存在していました。何が鳥インフルエンザの致死力を高めたのでしょう?その質問に対しインフルエンザの権威であるドクターRobert Websterは「農場における鶏の飼育が大きく変化しました。私はニュージーランドの農場で育ち、裏庭にはチキンやダックがいましたが、隣の家はとても遠くにありあまり問題はなかったのですが、今では何百羽もの鶏を飼育する工場が豚飼育工場の隣にあり、ウィルスはそこで何億回もサイクルを生きることが出来、その間に変異して行くのです。私たちが大きく変えたのは動物の飼育の仕方です。」 そしてそのような動物工場生産の場で病原性を増したウィルスは近隣エリアにいる野生動物達にも感染していくのです。
私たち人間は何億羽という規模で鶏の生活サイクルを変化させてしまい、そのため自然界の鳥インフルエンザウィルスのエコロジーのバランスに変化を起こしてしまっているのです。
世界中で鶏肉の食用としてのニーズが爆発的に増え、その鳥を育てる工業は病原性を増していくインフルエンザウィルスの嵐のような増殖と変異の場になっています。1980年代の初め頃は中国では狭い裏庭に平飼いで鶏を育てていましたが、今は詰め込み式の工場生産に変わりました。
中国には6万3千の鶏生産工場があり、一つ一つの工場に1千万羽の鶏が飼育されています。 WHOはこのような新規感染症の増加の理由の一つとして「動物タンパク質の過剰消費」を挙げています。(下の画像参照)
世界を代表する専門家達によると、動物(特に鶏と豚)の集約工場飼育の場は新ウィルスが育つ地盤として機能しており、動物から動物へ感染しながら病原性を増していくウィルスの培養工場としても機能しています。
このダイアグラムには「肉の需要増加」から「人から人への感染の伝搬」までの相関性が記されています。
国連は全ての国が「ファクトリー・ファーミング(工場での動物飼育)」を禁止するようにと呼びかけています。国連のプレス・リリースによると「各国の政府、ローカルオーソリティー、権力を持っている団体全てが工業生産型の動物生産をやめるように強く働きかけなければならない」と呼びかけています。
ウィルスが「生きた動物マーケット」から発生し、増殖と変異に最適な環境が揃い病原性を増していくプロセスはどのようにして起こったのでしょうか? 鳥インフルエンザウィルスは元々鳥にとっても人間にとっても無害なもので、何百万年も前から存在していた水辺の鳥達(アヒルなど)の腸にあるウィルスでした。ではどのようにしてアヒルの腸にあるウィルスが人間に渡ったのでしょうか?アヒルの腸内のウィルスはアヒルを病気にする事なく、糞などから水中に解き放たれ、それを飲み込む別のアヒルへと伝搬して行っていました。そのウィルスを持ったアヒルが、動物マーケットへと移動させられると、ウィルスはこれまでのような水中で簡単に次へのホストへ移動することができず、そのまま死滅するか変異をして陸上でも次のホストに感染できるようになるのかの選択を迫られます。元々の水辺は自然なウィルス循環が行われていたのに、動物マーケットへ場所を移された事で、ウィルスが均衡をとっていた環境が変わり、新たな環境に適合するためのウィルスの変異が始まります。ウィルスは生き延びるためにこれまでのように腸内だけではなく他の臓器(肺など)に移動したり、水がない乾燥した状態でも感染できるような能力を持っていき、空気中での感染症へと発展して行ったのです。鶏の中には水中で感染するウィルスとして入って行ったのが鶏から出る時には空気中感染するウィルスに変化してしまうのです。鶏が解放された空間にいるのならウィルスが病原性を増して鶏を死に至らしめたのちに、次の宿主までの距離が離れている場合には、ウィルスはホストなしでは長時間生きられないため自然の感染消滅機能が働くのですが、それが狭い工場内ですと数センチ先に隣の鶏がいますので次から次へとウィルスは簡単に感染し続け、無限大に生き続けます。ウィルスの専門家達は、監禁された身動き取れないホストからの感染症の伝搬こそがウィルスが猛威を振るう病原性を持つための変異を可能にする環境だと考えています。健康な者が逃げ出すことが出来ず身動き取れない状態で多くの方達が監禁されている状態の所へ感染ウィルスがやってきた、そんな状況が1918年にも見られます。この年の鳥インフルエンザは第一次世界大戦の塹壕から起こり始めました。四十人の兵士たちと8頭の馬を詰め込んだ電車、窮屈に込み入った電車、逃げ出せない戦争中のストレスいっぱいの生活の中で、これまで人に感染したことがなかった鳥インフルエンザウィルスが変異をし人に感染し始めたのではないかと思われています。
ウィルスにとってみれば、1918年の頃と同じように増殖・変異を繰り返すことができる場所が現代の鶏飼育工業の中に存在しています。養鶏場、養卵場、などすべての集約型の工場のような場所で何億羽もの鶏達が生活を強いられているからです。実際にそのような工場型生産が多い農畜産業の現場でそのような現実にも目を向けられ始めています。
このような(上の写真)状況で動物達は生きるのは自然ではないのは一見して明らかです。「無害なウィルスが猛威を振るうように変異する」この事についてアメリカの養鶏ビジネスのリーダーは「Poultry(食用鶏肉)」という雑誌でこのようにコメントしています。「私はアメリカ人達が鳥インフルエンザで亡くなる事よりも食用の鶏がいなくなってしまう事の方を心配しています」ですと!!!(訳者もびっくり!)
この図には鳥インフルエンザウィルスが人から人へ感染するウィルスに変異のために「家畜化された鶏」が必要なステップになっている事が記されています。豚も大切な役割を担っていますので。このように豚さんにキッスするのはきっと良くないです。(笑い)
H5N1がすごいのは、人間から人間に感染できるように変異しているだけでなく、大元のホスト(宿主)である渡り鳥やダック達をも感染させる力を持つようになっている所です。(下の図)それにより、渡り鳥を介して世界中に広がる可能性を持っています。
そして残念なことに鶏の呼吸器粘膜と人間の呼吸器粘膜には類似性があるため、鶏を死に至らしめる能力をウィルスが強めるにつれて、人を死に至らしめる能力も強くなっていくと思われます。ウィルス変異の権威であるドクターEarl Brownも「集約型の鶏の工業生産の場は鳥インフルエンザウィルスが病原性を持つよう変異するための完璧な環境である」と述べています。それに比べて外で平飼いされている鶏達が病原性の強いインフルエンザの起源になっているという報告はされていません。鶏工場で生まれた病原性のあるウィルスが近くにいた放し飼いのチキンに感染する事はあるかもしれませんが、病原性のあるウィルスは鶏飼育工場の過密し、換気の悪い劣悪な飼育環境のストレス下の元、免疫が弱っている鳥達の間でで生き延び、変異して作られていくのです。ウィルス感染した鶏の尿のアンモニアにより、換気が悪い中、鶏達の呼吸器は炎症を起こしやすく、インフルエンザウィルスを破壊することのできる日光も届かない環境は、ウィルスにとって育ちやすい絶好の環境なのです。30分の日光を浴びるとH5N1は完全に破壊される事が知られていますが、日陰では数日間、湿った糞尿の中では数週間も生き延びられるのです。
このような事を全て考慮すれば、いかに養鶏場が強力な新型のインフルエンザウィルス製造のパーフェクトな場となっている事がわかります。
バイオセキュリティー(感染が広がらないような生物的セキュリティー)はどうなっているのでしょう? タイで百万羽以上の工場の鶏と裏庭にいる鶏とをH5N1の感染のテストした結果、裏庭に生息している鶏は工場内のものよりも著しく感染のリスクが低かったことが報告されました。裏庭はすぐそこなので同じ程度のリスクがあるという予想を裏切る結果が出ました。
工場内の鶏は裏庭のものより4倍もH5N1感染のリスクが高い事という結果が出ました。
そして更に動物の工場生産は病原性を増した感染症を生み出す培養の場となるだけでなく、感染を広める場でもある事も分かってきました。
工場で動物を大量生産することにより大量の糞尿が発生し、ハエなどの虫もわき、ファンで汚染された空気を撹拌することで近隣の空気を汚染してしまいます。そしてエサや水を大量に必要とする事も難点です。工場型の動物生産により工場型の環境汚染が起こります。
ジョンズ・ホプキンズ大学の研究では、このタイの研究結果とネザーランド、ブリティッシュ・コロンビア、イタリア北部などでも同じような結果が見られたとあります。病原ウィルスは標準的なバイオセキュリティーをバイパスしてしまうこともバックヤードの鶏達のリスクは高くない事についても同じ結果が出ました。
人々は4000年以上も裏庭で鶏を育てていました。衛生状態が良いとされている先進国でもなぜ、このような病原ウィルスがバイオセキュリティーをバイパスしてしまうのでしょうか? その疑問ついては「Poultry(食用鶏肉)」という雑誌で「バイオセキュリティーは工場型生産では叶わない願いのようなものだ」と答えられています。
バージニアで2002年に鳥インフルエンザのアウトブレイクがあり、4百万羽の鶏が死にました。200もの鶏飼育工場がそれに関わっていました。
このバージニアでのアウトブレイクから鶏のウィルスの専門家は「鳥インフルエンザの急速な広がり方は多くのファームのバイオセキュリティーが不十分であるという事を示唆している」と報告しました。 メリーランド大学は近隣エリアにある複数の養鶏場は鶏の密度が高く感染症防止のバイオセキュリティーが不十分であることを指摘しました。産業の規則に従い、滅菌された長靴を履き、手を消毒しても不十分だという事です。H5N1はハエによって媒介される事も分かってきており、ハエを防ぐ事はとても困難です。H5N1はバイオセーフティーレベル3の病原ウィルスです。実験室で扱う時には完全防備で扱う事が必要な病原ウィルスです。エアロック、ダブルドア、入室退出の際のシャワー、すべでの電話線などはエアリーク防止のために特別に密閉され、毎日全ての表面を滅菌されなければいけない。このようにして扱う必要がある程のウィルスなのです。そんなウィルスをバイオセキュリティーほぼゼロの状態で培養しているのが密集工場型の養鶏場なのです。
鶏生産の現場では、生産コストをカットするために危険な状態で鶏を育てている状態が続いています。人々が安いチキンを食べる為に、私たち全ての人間の健康を危険にさらさなければならないのでしょうか? H5N1によるパンデミックや将来起こりうる猛威を振るう新ウィルス感染症は私たちの社会全体を脅かし大きな災害を起こしうるものかもしれません。そのような病原性が高い新感染症の出現リスクを減らす必要があります。
専門家達は「鶏の密度を減らし、よりストレスの少ない環境小規模な環境で鶏を育て、鶏のストレスを減らし、感染にかかりにくい鶏を育てる事」を推奨しています。 2007年にJournal of American Public Health Association (アメリカ公衆衛生ジャーナル)のエディトリアルでは「工場生産型の養鶏を控えることよりも人間が動物達への接し方を大きく変えること。例えば食用として肉を食べるのを減らす事などを選択すれば、それ自体が著しく効果的な予防策と言えるでしょう」と記されています。次のパンデミックが起こる前にそのような変化を起こしたいものです。このエディトリアルは「人間が動物達にどのように接するかは将来の地球全体の健康に関わっている」と締めくくっています。
国連は去年の夏、グローバル・ヘルスのリスクの観点から工場型の動物生産についての見直しを呼びかけました。これに対してアメリカの農業ビジネスはFeedstuffsという雑誌でこのように答えました。
「FAO (Food and Agricultural Organization)はサイエンティストと仕事をしているそうだが、そのサイエンティストはパキスタンの洞窟でアメリカを膝まづかせようとしているヒゲの男に似ているのではないかと私は思う」と返答しました。農業インダストリーは「敵か味方か」的な受け止め方をしているようです。
しかし37年の養鶏のキャリアを持っている養鶏家はPoultry Digest という雑誌の中で「私たちはこのまま続けるのか、それとも必要に応じてやり方を変え、鶏達の健康と公衆の健康のバランスをとるのかの分かれ道に立っている」と述べています。
「私たちは今対価を支払い変革しますか?それとも後から代償を払いますか?」
国連の専門家達はチキンの消費を減らし、工場生産型に廃止するように警告しています。それは今もう現実に出来てしまい2大陸へ渡ってしまったH5N1に続き今後出てくる新規の感染ウィルスを防ぐ為です。U.S.Department of Homeland Security の感染症部門のディレクターのドクターMichael Osterholmは将来強い病原性のあるインフルエンザが猛威を振るう様子をアジアで起こった津波の被害の様子と重ねて色々な世界のコミュニティーの至る所でパニックが起こるような事態になり得ると警告しました。
アジアの津波、ハリケーン・カタリーナの様子などを思い出してみてください。そのように多くの死者が町中にあふれるような事態が「安いチキンを食べたい人が多くいるため」に近い将来起こるかもしれません。そんなパンデミックが起こる時にはこれまであった戦争や自然災害のすべてよりもひどい状況に世界全体が陥るかもしれません。今日私がお話したのはパンデミックの根本予防の為でもあり、もしも万が一パンデミックが起こったなら皆さんに準備がちゃんと出来ているようにと呼びかけるためです。CDCにインフルエンザパンデミックのウェブサイトがあります。参考にしてください。万が一感染の危機が去るまで自己隔離が必要になるような場合に数週間分の食料などをご自身とご家族のために蓄えておいてください。
U.S.Department of Homeland Securityは感染症パンデミックの際に90日間くらい自宅にこもりソーシャル・ディスタンスを保つように指示する可能性もあると言っています。
まるで大雪の日に家から出ないようにと言われる時のようにです。違いは雪の日はほんの数日間かもしれませんが、感染症のパンデミックでは数週間数ヶ月単位の自宅待機が必要になる事です。
私の著書「バードフルー(鳥インフルエンザ)」の全ての内容がこのウェブサイトから全て無料で読む事が出来ます。この講演では限られた時間で公衆衛生上の新規感染症リスクについてかなり単純化してお話しましたが、実際のハイパーリンクや参考文献などこのサイトから全て読むことが出来ますので、皆さんにちゃんと準備が出来るようにという気持ちでシェアーします。
より科学的でテクニカルなものを読みたい場合には、私がClinical review in Microbiologyという医学雑誌で発表した文献を読む事をお勧めします。メールをくださればコピーをお送りします。(2006年地点ですので今メールしてお返事が来るかはわかりませんがそのまま訳しました)
以上、です。
翻訳を終えて一言;この講演は2006年に行われたものです。現在新型コロナで彼が10年以上前に心配して来た事が全世界で起こっています。私達の存在している地球環境はデリケートなバランスと調和で成り立っています。特に動物の生態系の破壊や人間のための飼育のやり方、や森林伐採など(コロナではコウモリが原因だと言われています)について世界全体で見直す時期に来ていると思います。今経験している危機を繰り返さないために、一人一人に意識の変革が起こり、個人個人で考え、それぞれが行動を起こし、私たちの健康を支えてくれる地球環境を守っていけるようになると良いなという願いを込めてグレガー先生の講演を日本語に訳しました。
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