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IDEOは地下鉄のホームに置かれた自販機の売上を伸ばしてなんかいない

デザインファームのIDEOが過去に取り組んだプロジェクトの中に「地下鉄の自動販売機の売上を伸ばす」というものがある。と下記の記事でご紹介しましたが、調べてみるとこれはどうやら事実と違うようでした。お詫びして訂正するのは当然として、その調べた経緯について書き記しておこうかと思います。

そもそもこの話はデザイン界隈では非常に有名なストーリーとなっており、2019年1月時点、Googleで「IDEO 地下鉄 自動販売機 時計」などで検索すると、数千件に及ぶページがヒットします。

しかしながら不思議なことに私はこれまで、英語でこの話を見聞きした記憶がないのです。IDEOのプロジェクトでよく紹介されるものとしては、病院のプロジェクトやスーパーマーケットのストーリーがありますが、地下鉄に関するプロジェクトって記憶にないぞ、と。

とはいえ、私がたまたま聞いてないだけとか、忘れているだけという可能性もあるのでGoogleでいろいろ検索してみます。「IDEO metro vending machine clock」や、「IDEO subway beverage clock」など様々なキーワードで検索するものの一向に出てきません。日本語で数千件もヒットするものが英語圏で全然見当たらないなんて不思議です。

そもそもの話として、地下鉄に飲み物の自動販売機があるって時点で違和感を抱くべきなのかもしれません。日本には当たり前のように置いてある飲み物の自動販売機ですが、海外の地下鉄でジュースの自動販売機が置いてある場所ってそんなにありません。

サンフランシスコのBARTで見た記憶はないし、ニューヨークのSUBWAYやロンドンのTUBEでも見た記憶がありません。もちろんコペンハーゲンのメトロでも見たことがないし、ミラノにもない。パリにはあったような気もするがヨーロッパでパリ以外で見た記憶がありません。

いずれにしても、日本以外の多くの都市において、地下鉄のホームに自動販売機はないのです。つまり、このストーリーを日本人以外が読んでも具体的にイメージできるとは限りません。そんなストーリーをわざわざIDEOが紹介するだろうか?

ということでこの話の出典が気になった私、調べてみました。

まず、日本においてこのストーリーが最初に出てきたと思われるのは、下記のサイト。(現在はリンク切れ)

地下鉄の自販機の売り上げをアップさせた、IDEOのユニークな行動観察調査手法 - Feel Like A Fallinstar ( http://www.fallinstar.org/2010/04/ideo.html )

この内容を読んで見たいと思ったのでインターネット・アーカイブで探したところ、下記のような内容でした。

少なくとも日本ではこれより以前に、IDEOが地下鉄で云々という話は出てこないようです。上記ブログでは、下記の本へのリンクが貼られているので、念の為にこの本を参照したけど地下鉄云々という話は載っていません。

もしや日本語版には載ってないのか?と思い、英語版も買って読んでみたけど、やはり地下鉄云々という話は載っていない。

では、このストーリーは、このブログの創作なのだろうか?と思ったところ、Twitterで下記のような情報を教えていただきました。

なるほど、発想する会社ではなく、イノベーションの達人!なのですね。

残念ながら日本語版にはKindleがなかったので、やはり英語版を確認してみました。

そうすると、確かに上記エピソードが掲載されています。手っ取り早く内容だけ確認したいという人は下記のリンクからどうぞ。

ただし、Twitterで教えてくださったisoさんも言及していますが、これには元のブログとはいくつか相違点があります。

- IDEOの事例ではなく、IDEOの手法を参考にした他社の事例
- 地下鉄とは明示されていない
- 自動販売機ではなくおそらく駅の売店

元のブログの方も、「※ちなみに記憶を頼りに書いています。多少事実とずれていても、ご容赦を・・・」と書いていらっしゃるので、別に悪気があったわけではないはずです。が、ちょっとスッキリしました。

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