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鳴り止まない冷蔵庫とものの見方

これだ、と思う対処法が見当違いであることはよくある。

「ピーピーピー……」

冷蔵庫に呼ばれた。

スーパーで買った食材を入れていた。

この日は6月にしては30度近い気温で、14時頃に出かけたら少し汗ばむくらいだった。
今年の梅雨入りは遅れているらしく、先に夏が来たかのようだ。

冷蔵庫の扉を右、左、と閉めてスマートフォンを見る。SNSを惰性で見てしまうのをやめたい。

「ピーピーピー……」

(あれ? また?)

さっき、きちんと閉めたはずの冷蔵庫にまた呼ばれる。半開きになってしまうことはあるけれど、2回も呼ばれることは珍しい。

今度は念入りに右、左とゆっくり閉めた。
これで大丈夫でしょ。

「ピーピーピー……」

(ん? また?……何かがおかしい)

ドアをいったん開ける。開けるときに少し重さはあるし、さっきまで閉まっていた扉の重みが手に伝わる。

(パッキンがだめになっちゃったのかも……)

自宅の冷蔵庫を買ったのはたぶん、7〜8年前だった。引越した当初、家具をそろえる費用を少しでも抑えたくてオークションで買った。かつての美品も細部が劣化してきたのかもしれない。

右の扉を開けると、パッキンが少しピロンと切れていた。これが原因か。
帰ってくるまでは大丈夫だったから、気まぐれで鳴っているだけかもしれない。細部だし、買い替えるほどではなさそうだ。

今度は慎重に閉めた扉を少し押し込んだ。
念のため、ほかに開けた野菜室の扉も押し込んだ。奥に動く気配はない。

さらに、下の冷凍庫に目をやった。

(ん?)

1センチほど前に出ていた。押し込んだ。何かがハマる感触が手に伝わった。

(ここだったのか……盲点だった……)

久しぶりに買ったパルムが冷凍サバに乗っかり、すこし背が高くなってつっかえていたらしい。

音はピタリと止んだ。

普段もし冷蔵庫が鳴ったら、上段が原因だった。今回もそうだとすっかり思い込んでいたのだ。

完全に違うところにスポットが当たっていた。
思い込みというものは恐ろしい。

ずっと違うところにアプローチしていたものだから。

先日「声」に関する講座を受けた。
これから仕事でインタビューをしたいと思い、嫌でも自分の声が録音された音源を聞くようになると思ったからだ。

自分の声を聞くときに、せめて苦痛を感じないようにしたかった。
それに、声がいいときっと相手が安心して話してくれる。そう考えた。
細部だけど、アプローチするに越したことはない。

声の調子がいいときとそうでないときとでは、相手からの反応が異なるのを感じている。
過去の営業経験からも、感じていることだった。

わたしは自分の声があまりよくないと感じている。低いから冷たく思われそうだし、焦ると早口になってしまうから相手も不信感を持ってしまうだろう。

講師から言われた言葉は、意外なものもあった。

「声は低くなくて、中音くらい」

「あと、声を画面に届けようとするといい」

この記事を読んでいる方は後者の発言について「当たり前でしょ」と思っただろうか。

しかし、私は声を画面に届けることを意識していなかった。

声は自分の顔まわりを丸のように取り囲むイメージでいた。
中学校の頃にあった理科の実験で、音叉(おんさ)を使い、音がどう伝わるのかを絵で書いたことがある。そのイメージが強かった。まるで、水面の波紋のような。

だから画面に届けるという意識はなく、その場で声を大きくするという意識でいたのだ。
口元にあるイヤホンマイクに向けて。

声の丸がもともと小さいから、その丸を大きくしなくては、と。

「飛ばす」より「広げる」という感覚のほうが大きかった。
だから講師に「声が自分にくっついている」と言われたのも納得だった。

もっと、息をまっすぐ届けるイメージを持つべきだったのだ。

ずっと蓋をしていたので、気づく機会がなかった。

フィードバックをいただき、お礼をいうと講師に「今、意識して大きくした? その感じ!」と言っていただけた。

そう、私は声が小さい人ではなくて(正確にいうと、これもあるのだけれど)、声の届け方を知らない人なのだ。
声が小さいのは「幼少期からそうだから」「息が浅いから」とあきらめていたところがあった。

けれど、講師によると呼吸はコントロールできるとのこと。
少し希望を持てたような気がした。

「何かができない」と思うとき、自分で「これが原因」と思い込むのはやめようと思う。
もしかしたら、自分は視野が狭くなっているだけなのかもしれない。その意識をどこか頭の片隅に置いておかなければならない。

だから講師や友人など誰かの視点を入れたり、周辺にどのようなものがあるのかを少し立ち止まって考えてみたりする機会を持とうと思った。

世の中には、知らないことがまだまだたくさんある。
自分が見えているもののなかには、勘違いがあとどれくらい含まれているのだろうか。

残りの人生で、どれだけそんな勘違いに出会えるのか。楽しみにしておきたい。

〜後日談〜
Zoomのオーディオ設定でマイクの入力音声が小さめのボリュームで固定されていたことが発覚。自分のことだから、あまり人にこんな声を聞かれたくないと思い、最初に設定したのかもしれない。
「マイクの音量を自動調整する」にチェックでボリュームが正常になりました。いや、本当にアプローチする箇所ってずれますね。

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