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Margo-物語と糸- #6 |『銀河鉄道の夜』を染める 4

Margoの物語をテーマに染めた糸のおはなし、少し空いてしまいましたが、続きを書きます。
今回は『銀河鉄道の夜』シリーズ4色目の「銀河ステーション」という糸と、賢治と鉱物について。

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 するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションという声がしたと思うと、いきなり目の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万のほたるいかの火を一ぺんに化石させて、空じゅうにしずめたというぐあい。またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざととれないふりをして、かくしておいた金剛石を、だれかがいきなりひっくりかえして、ばらまいたという風に、目の前がさあっとあかるくなって、ジョバンニは思わず何べんも目をこすってしまいました。(『銀河鉄道の夜』より)

 ジョバンニが銀河鉄道に乗車するシーンです。ジョバンニも読んでいるわたしたちも、銀河ステーションのこの世のものとも思えない輝きに目を奪われている間に、ジョバンニが寝そべっていた草原から銀河鉄道の車内へ移動しています。
 この輝きの表現には、いつも惚れ惚れします。億万のホタルイカの火が化石になっている様子を見てみたい。ダイヤモンドが眩しいほどばらまかれている様子を見てみたい。きっと深い宇宙の青のなかに、さまざまな光が反射しあって、さまざまな色がチラチラと輝いているだろう。
 そんな思いから、この糸には、藍色をベースにさまざまな色を潜ませました。

めくるめく美しい鉱物の比喩
 『銀河鉄道の夜』を読んでいると、鉱物の比喩が多いことに気づきます。なかでも銀河鉄道の旅が始まってすぐは頻繁に出ててくるので、気になってチェックしてみました。

「月長石ででも刻まれたような、すばらしい紫のりんどうの花」(207ページ)

「金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の川床の上を」(209ページ)

「水晶細工のように見える銀杏の木に囲まれた、小さな広場に出ました」(211ページ)

といった感じで、2ページおきに夢のような鉱物比喩がでてきます。


 さらにうっとりするのは銀河鉄道から降りて天の川の河原に立つシーン。カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ掌にひろげて
「この砂はみんな水晶だ、中で小さな火が燃えている」
と言いますし(中で小さな火が燃えている……! 素敵な表現!!)
その後に続く河原の石もみんな鉱物です。

「河原の磔(こいし)は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉(トパーズ)や、またくしゃくしゃの皺曲(しゅうきょく)をあらわしたのや、また稜(かど)から霧のような青白い光を出す鋼玉(こうぎょく)やらでした」(212ページ)

 鋼玉というのは、酸化アルミニウムを主成分とする鉱物のことだそう。このうち青色透明のものがサファイア、紅色透明のものがルビーなのだそうです。天の川の河原の鋼玉は青白い光を出しているので、サファイアかもしれませんね。

石っこ賢さん 
 宇宙のきらめきを表現するのにこうした宝石や鉱物がぴったりだったのもあるけれど、やっぱり賢治は鉱物が好きだったのではないかな……? と思っていたところ『宮沢賢治の元素図鑑 作品を彩る元素と鉱物』という本を見つけてしまいました。

 この本のはじめに
「宮澤賢治は、小学生のころ石あつめに夢中で、まわりの人から『石っこ賢さん』とよばれるほどでした」
とあります。
 賢治の作品には『銀河鉄道の夜』だけではなく、あらゆる詩や童話に、鉱物(石)や自然科学の知識がちりばめられていて、この本の著者である桜井弘さんも「作品のなかには科学者としての賢治が潜んでいると考えることもの重要なのでは」と綴っておられます。

 岩手県一関市には「石と賢治のミュージアム」という施設がありますが、ここはかつて宮沢賢治が鉱物技師として勤務した、旧東北砕石工場の隣に開設されているそうです。
 いやあ……さすが石っこ賢さん、仕事にまでしてたんだ。ほんとに鉱物が好きだったんですね……! 
 博物館では賢治が実際に勤務していた工場跡も見学できるみたいなので、いつか訪れてみたいです。

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