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Margo-物語と糸- #14 |『モモ』を染める 1

時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語

 Margoでは、物語の色をうつした毛糸を染めています。今回テーマにした物語は、ミヒャエル・エンデの名作『モモ』。
 幼い頃に読んだことがある人も多いと思いますし、オレンジ色が目を引く本の装丁だけは知っている方もおられるでしょう。
 今回、この装丁をテーマにひとかせ染めました。糸の名前は『モモ』といいます。

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 わたしはおそらく中学生ぐらいのとき、はじめてこの本を読みました。灰色の男たちとの息詰まる攻防はスリルがあって面白かったし、モモが時間の真理を目の当たりにするところや時間の花を解放する場面がとても美しくて「なんて素敵な物語なんだろう!」と、感動したのを覚えています。
 そして結婚して家を出るまで、『モモ』の函入り単行本をとっておきの大切な本をしまうガラス戸の本棚に飾っていました。

表紙を眺めて知ったこと
 今回糸を染めるにあたり、改めて本を手に入れて読み直しました。この印象的なオレンジの装丁をテーマに染める糸もあるので、懐かしい表紙もじっくりと眺めました。
 表紙や装画の絵はエンデ自身によるものだそうです。細密な絵からは物語の様子が具体的に伝わってきます。作者本人によって描かれているのですから、これほど物語のイメージを的確に表現するものはないでしょう。エンデのお父さんは画家だったそうですがエンデ本人もなかなかの腕前。文章も絵も一人でできちゃうなんてすごいなあ、と感心します。

 そしてふとタイトルまわりが気になりだしました。『モモ』の上に長々書いてある「時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」という一文です。
「こういう内容説明は帯につけるものだけど、表紙のデザインにいれちゃうって大胆だなぁ……」
 と、しばらくモヤモヤしていたのですが、それは表紙をめくったときに解決しました。見返しの次に出てくる本文の扉部分にもまた、この一文が書かれていたのです。そこでやっと、この長い説明文がモモの副題であることに気づきました。本と函の背を確認すると『モモ』としか記載されていません。わたしは本棚に立てた背表紙だけを長年見ていたので、『モモ』のみがタイトルだとずっと思い込んでいたのでした。

大人も楽しめる童話
 今回『モモ』を染めるとなったとき、「読んだけど、わたしはダメでした」とおっしゃる方に何人かお会いしました。みんな口を揃えて「わからなかった」というのです。
 わたしなりに考えてみたのですが、それは物語の構造のせいかもしれません。73ページから始まる第二部で灰色の男たちが登場してからやっとストーリーが動きだすのですが、それまでの第一部はモモとモモのまわりの人々の人柄や生活、子どもたちの遊び方をていねいに描いているだけなのです。

 しかし大人になって読んでみると、実はこの第一部こそが素敵な部分でした。そもそも孤児であるモモを施設に送ってしまうのは可哀想だといって、地域のみんなで生活に必要なものを提供して世話してあげるというのがいい。子供たちの遊びは想像力に溢れているし、ベッポがそうじについて語る言葉は禅の教えと共通しています。月を眺めながらお話上手な友だちが、自分をお姫様に設定した物語を即興で話して聞かせてくれるなんて、こんなロマンティックで嬉しいことがあるでしょうか。
 そしてこの豊かな日々がじっくり語られているからこそ、灰色の男たちの恐ろしさと時間を奪われた人々の苦しさが際立ってくるのだと思います。

 第一部の面白さは、時間が豊富にある子どもにはまだわからないのかもしれません。毎日時間に追われて汲々としている大人になったわたしだからこそ、第一部で描かれた人々の暮らしに憧憬を抱き、うっとりと読むことができるのでしょう。
 そして「今のわたしは時間どろぼうに時間をとられ過ぎだな、自分だけの時間の花を大事に守っていかなくちゃ」と改めて思うのです。

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