美しきバルール4 不良少年たちと働く
元組長・加藤が代表の造園会社で働くメンバーは、みな個性派揃いだった。
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凛にもすぐわかるくらい、男子の世界はヒエラルキーが明確だ。よくキレる林と同学年の佐藤は一番下っ端=パシリだ。しょっちゅうタバコだジュースだと買いに行かされていた。日によって作業メンバーはいれかわるが、現場へのワゴンで林と佐藤の席は、最後部の椅子が取れかけた席と決まっている。ブレーキがかかるとグラグラする。その前の席は感化院上がりの上川の指定席。上川は寮でも常に取り巻きに囲まれている。寮でも林をけしかけてたびたび問題を起こした。
そんな上川が元ヤクザの加藤以外に唯一「さん」の敬称をつけるのは谷崎だけだ。谷崎はいつも甘い香水の香りを漂わせている。朝、迎えのワゴンから香水の匂いが立ち昇るときは「あ、今日は谷崎さんも一緒なのか」凛はちょっぴり緊張する。13歳の凛からは20歳の谷崎は十分すぎるほど大人の男性に見えた。
「こいつは女を星の数ほど泣かせているからなあ!」加藤だけが谷崎になんでも言えるのだ。谷崎と作業する日は、お調子者の林も、いつも命令口調の上川も無口になった。それどころか「谷崎さん、タバコ買ってきますよ」休憩時間に自分から買い出しに行って凛は驚いた。男子の階級は絶対なのだ。
外の世界で仲間に一目置かれた少年もひとたび寮に入れば、谷崎以下、林以上のどこかに属することになる。寮を飛び出さない限りはその関係はずっと続いて、大抵は上川を超えられずにパシリになった。
造成地を見渡すと、夏の空に雲が広がっていた。殺風景だった団地にすこしずつ緑が増えて季節のうつり変わりを感じた。
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