056. 言葉で表すということ
文藝春秋BOOKSに載っていた角田光代氏の井上荒野氏に対しての表現が好きだ。
角田氏によると、井上荒野の小説の魅力は“言葉で書かれていないこと”だという。“言葉で書かれていないことがある。作中の現実はこう進行している”のに、それとは別に“もっと違うことが背後で大きく立ち上がってきて、立っている人間の上を雲がざあっと移動して、日向だったのが日陰になっていく”感じだ、“現実がどんどん変わっていってしまう”ことが作品には多く、それが“非常に魅力的だ”というのである。
井上氏は、よく人の心理がわかりますねとインタビューされたとき、書いていって分かるようになっていったと答えていた。
言葉で書いていないことも、書いている言葉で表す井上氏。
フィクションなのに登場人物の背景は丁寧に肉付けされていて、ふとしたシーンでため息が漏れる。
書いていかないと分からない。頭の中で考えていたって、まとまらないわけだ。
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