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抱腹絶倒の青春記

歩きながら本を読む。いや、本を読みながら歩く。地下鉄では歩きスマホはおやめくださいとアナウンスがあるが本を読みながら歩くのはおやめくださいとは言わない。歩きながら本を読む人なんていないからだ。知人からは平成の二宮金次郎と言われていた。薪を担ぎながら読書するあの二宮尊徳だ。全国の小学校には二宮尊徳像設置が義務付けられていたそうだが、最近はとんと見ない。けしからん。

先日「ワセダ三畳青春記」を読みながら歩いていたらあまりにも面白くて声を出して笑っていた。はっと、我にかえってみると周りの人から奇異の目で見られていたのに違いないと思わず赤面した、わけではないのだが、高野秀行は本はどれも比類のない面白さ、だと言いたいのだ。

例えば

「野々村荘ではテレビ不拡散条約があるかのようにテレビ保有者が少ない。実家の母親と電話をしているときに、地元商店街の福引きでテレビを当てたという話を聞いて驚き、思わず、それ、カラー?白黒?と訊いてしまったのだ。戦中生まれの母親に、おまえ、何時代に生きてるの?と言われ、ついでに、お願いだから、早くちゃんと卒業して、ちゃんと就職して、もっとまともな生活をしておくれよ、とお決まりの愚痴をこぼされてしまった。」

言っとくけど90年代の話である。

最終章の「遅すぎた初恋」でのちの奥さんになるライターの片野ゆかさんと神田川沿いの公園で二人だけの宴会をするシーン、たまらなくいい。
恋に落ちたときの甘酸っぱく不安な気持ち、そして彼女と新しい生活を始めるために11年間住んだ野々村荘と早稲田の街を出て行くときの青春時代の決別の姿には思わず切なくなる。
この本は外で読まない方がいい。一人でニヤニヤしたり涙ぐんでいたら奇異なやつ、と警戒されること必至だからだ。

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