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名訳と誤訳


村岡花子が「赤毛のアン」の中でbosom friendを「腹心の友」と訳したのは名訳だと思う。bosomは胸のことだから。

昔、ドアーズの対訳を柳瀬尚紀がしていたのには驚いた。彼は邦訳不可能だと言われていたジョイスの「フィネガンズウェイク」を完訳した翻訳家だ。

SF作家で翻訳家で音楽評論家の鏡明、初期は岡田英明名義で仕事をしていた。彼が対訳したテレヴィジョンの「glory」の冒頭、

I was out stumbling in the rain staring at your lips so red.

「よろめき出ると、雨。なんて赤いあなたの唇」

今でも忘れられない名訳。

セックスピストルズは正式なスタジオアルバムは一枚しか出していないのにもかかわらずベストアルバムが出ているという稀有なバンドである。
「pretty vacant」はシングルカットされ、ヒットもした。何人もの人間が訳詞をしている。しかしこの訳詞が揃いも揃って誤訳だらけである。

we are pretty vacant

「俺たち、イキに生きている
スゴく洒落てるぜ
空っぽだからな
俺たち、イキで、空っぽなのさ」M訳

「俺たちは素敵だ
かなりヌケてるけどな」A訳

vacantは形容詞だから、それにかかるprettyは副詞に決まっている。

we are pretty and vacant と歌っているわけではないのだ。

だからこれは

「俺たちは全くの空虚だ」

と歌っていることだと、真面目に英文法を勉強した高校生ならわかるだろう。
それに続く out to lunch も、ある人が「昼飯に行くぞ」と訳していた。確かに昼食で外出中という意味もあるのだが、ここでは「無能な」という意味だ。

Public Image Limitedに「low life」という曲がある。これを「ひどい人生だ」と訳しているが、「堕落した卑劣な人間」のことである。

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