母と甲子園に行った日

ばあちゃんは熱烈な広島ファンだ。地上波の試合がないときはケーブルTVで観戦。翌朝の新聞で結果をチェックする。
そんなに好きなら観に行こうか、と言うと今までの80年間で見たことないような笑顔をした。

近くに京セラドームがあるのでそこに観に行く算段だったのだが、普通はパリーグしかやらないらしい。やはり甲子園か。

現在チケット販売は中止だが、チケジャムというアプリでチケットの個人売買をしている。
阪神広島戦が二人で8000円。
ストーンズかレッチリのコンサートか。
しかしセに原は変えられない。もとい、背に腹はかえられない。

ばあちゃんは生で試合を観るのは初めて。自分も甲子園に行くのは40年振りでナイターは初めて。

ばあちゃんが杖でヨタヨタと観覧席の階段をのぼっているとカープファンのオジサンが「上まで上がるの大変やろう。わしの席に座り」と譲ってくれた。お礼を言って座らせてもらう。

試合は双方ソロホームランの打ち合いのシーソーゲーム。浜風が強くなり、ばあちゃんが寒そうだったので入場ゲートでもらったタイガースユニフォームを着せてやる。すると警備員が来て、「すみませんが、ここはビジター席なのでトラブルになる恐れがありますから脱いでいただけませんか」と恐縮しながら言う。

そうなのか、野球っていろいろと大変やなあ、と思いながら脱がせると、後ろにいたオジサンが「寒いんだろう」と自分の大きな真っ赤なカープのビニールのウインドブレーカーを貸してあげると広げ始めた。すると広げ終わる前に上の席からおねいさんが降りてきて、「寒いんでしょう。これを着てください」とフリースジャケットを渡してくれた。

私は野球は興味ないから観ない。首位がどのチームかもわからない。
しかし何万人ものファンが一つになって応援している場所に身を置くのはいいなあと思う。

それはそうと、なんで自分は野球を観ながら泣いているのだ。
おかしいじゃないか。
傍から見たら完全に変なおじさんだ。
岸田さん、自分も今日からカープファンになります。

5対4の好ゲームで広島が勝った。
ばあちゃんはニコニコしてた。