太鼓の達人とYouTubeとダンス
小三の娘は太鼓の達人にはまっている。週に一度、娘を自転車に乗せて水泳教室に送り迎えをするのだが、帰りはイオンに寄って太鼓の達人をするのが決まりになっている。いや、決まりではないのだが右折するとイオンに行くという交差点の手前にあるかっぱ寿司の駐車場の前で「イオン行く?」と聞くと、必ず「行く」と答える。もう見事に100パー「行く」と答える。一度くらい「今日はやめとく」と言ってもいいとは思うが、それはそれで心配だ。
内視鏡検査後にレントゲン写真を見ていた医者が「これは…」と言って、眉間にシワを寄せて食い入るように凝視するくらい不安だ。
ゲームコーナーに到着すると小中学生の太鼓の達人の達人がスタンばっている。なぜ達人かとわかるかというと、彼らは一様に細長の巾着袋を持参しているのだ。自分の順番が来るとおもむろに袋からマイ撥を取り出すのである。バチのグリップには赤や黒のテーピングがしてあり、先端は異様にとがっている。護身用にも使えそうだ。
マイバチ
それは自らを達人と自覚した者たちのみが帯刀を許される真剣であり、ステータスなものである。
ともかくこのガキども…達人たちのバチサバキはすごい。ドンドコドンドコドンドンドコドンとリズミカルに叩きまわる。とにかく予算委員会で与党を追及する野党のごとく叩いて叩いて息もつかせない。
あるとき、あまりのバチサバキに驚嘆した私はある小学生の男の子に聞いてみた。
「きみ、何年生?」
「…二年です」
「うちでも練習してるの」
「…ここだけです」
「すごいね、週に何回来てるの」
「…一回だけです」
「きみ、将来ドラマーになったらいいよ」
余計なお世話である(「ちびまる子ちゃん」のナレーターの声で読んでね)。
今考えると、完全な不審者だ。防犯メールで
「本日13時頃〇〇区のイオンのゲームコーナーで小学生二年生の男児が50歳代の男性から、わけのわからない声かけをされました。ご注意ください」
と一斉メールされてもおかしくない。
万が一、妻がそのメールを読んで、「〇〇区のイオンってうちの子が太鼓の達人しに行くとこやん!怖いなあ」と言ったら
平静をよそおって、「世の中には変なやつがいてるからなあ」と大人の対応をするしかあるまい。
そういうわけで、先週も娘の太鼓の達人に付き合った。待っているガキ…達人が結構おられるし、100円で3回プレイできるので時間がかかる。終わってほっとし、エスカレーターを降りる途中で「パパ、動画撮った?」
撮ってない、と言うともう一度やる!と戻っていく。
マジ?マジ?
と思わず映画「100円の恋」のコンビニの店員みたいに連呼。
仕方ねえ、とまた長い時間待ってプレイしている動画を撮った。
そのとき娘が難しい連打をクリアした。後ろで見学していた五年生くらいの女子小学生二人が感心したように顔を見合わせた。あとでそのことを娘に言うと、
「わたし、もっと小さく見られたい」
そうなれば称賛が大きくなるからである。
そこかよ!労少なくして称賛されたいのか!
漁夫の利作戦かよ(ちょっと違うか)。
さすがわが娘だ。
動画を撮ることに固執したのはYouTubeにアップするからだった。娘はYouTubeにもハマっているのだった。
小学生三年で動画編集したり、字幕をつけているのを見ると、自分の小学生の時と比較して隔世の感がある。小学生にとってはヒカキンやフィッシャーズは知らない者はいないらしい。
まあ、熱中することがあるのは幸福だわね。
あれから二年、太鼓の達人にもYouTubeにも興味を失った娘は今はダンスに夢中だ。
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