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『マルクスに凭れて六十年 自嘲生涯記 増補改訂新版』

河上肇が詳細な書き込みをした原書の『資本論』のページの写真が、ある本に載っていた。その書き込みもドイツ語だったので衝撃を受け、19歳の時に岩波書店版『資本論』向坂逸郎訳を買った。当時は高価だと思ったが、定価を見ると2900円である。
あまりにも難解であり、第二章「交換過程」で挫折した。

本書では向坂逸郎が翻訳したのは一部であり、大部分は著者が訳したことが書かれている。本書刊行後、岡崎夫妻はマンションを処分し、高輪プリンスホテルで別れの晩餐会を催した。遺書のつもりで本書を配って「これから西のほうへ行く」と告げた。1984年、夫79歳、妻86歳の時である。
二人はタクシーで伊豆、浜松、京都、大阪、倉敷、広島、萩、山陰から大阪に戻り、難波の「ホリデイイン南海」に宿泊した後、その足取りは途絶えた。現在も杳としてその消息はわからない。

日本で最初に『資本論』を翻訳したのは抄訳ではあるが生田長江である。今東光は長江を天才だったと賞賛し、彼に比べると向坂逸郎など曲学阿世の徒だと痛烈に批判していた。
長江は晩年ハンセン病に冒された。鳥取県出身の作家大江賢治が同郷の長江を訪ねて故郷の歌を披露すると長江は机に突っ伏して慟哭したという。

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