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06 訪問リハビリの日常生活【心に火をつける!】

 「もう歳だから。何にもやる気がしないね。。。」それは、桜井さん(90歳:仮名)の口癖でした。徐々に歳をとり、体が思うように動かなくなり、家にこもるようになりました。リハビリに伺っても、「もう歳だから。」と言い、あまり積極的にリハビリを行うことができません。好きなこと、やりたいことを聞いても、「もう歳だし、何もやる気がしないね。」と言うばかりでした。しかし長年リハビリを続けるうちに徐々に動けるようになり、2階の自室に久し振りに登ることができました。すると2階の窓から庭の立派な桜の木を眺め、「この桜の木は、「桜井」と言う名前にちなんで、家を建てた時に、友人が桜の苗木を持ってきてくれたんだよ。私はこの部屋から眺める桜の木が好きでね。」と教えてくれました。そして庭を一通り眺めると、「あそこの椿の剪定をしたいね。椿の剪定は花の咲いている時にやらないといけないんだ。」と言うので、私は迷わず「では、次回一緒にやりましょう!」と返事をしました。

 そして、次の訪問リハビリの時に、一緒に庭で剪定をしました。部屋と違って草木の生い茂った庭を歩くのはやや不安定で介助が必要でした。しっかりと立つことのできない桜井さんは椅子に座りながらの剪定をしていました。そのため、高い枝の剪定は、桜井さんの指示を仰ぎ、私がお手伝いしました。しかし、剪定にも技術がいるようで、指示通りに剪定したつもりでしたが、桜井さんは私の剪定に不満そうにしていました。好きなことをしている時の時間の流れは早く、庭で一緒に作業をしていると、すぐにリハビリ時間が終わってしまいます。そのため「もうリハビリの時間が終わるので家に戻りましょう。また次回やりましょう。」と伝えますが、「分かった。」と言いながら、まだまだ庭仕事がしたい桜井さんはなかなか家に戻りません。何度か伝えると「そうか、時間か。」と残念そうに部屋に戻るのです。

 訪問リハビリで庭に出ることが増えていくと、柔らかい芝の上や、でこぼのこ砂利の上も不安定ながらも一人で歩けるようになり、リハビリがない日も庭に出て剪定をしたり、草むしりをしたり、大好きな庭仕事を行うことができるようになったのです。私は「転ぶと危ないから、リハビリの日だけにしましょうね。」と伝えると、桜井さんは「分かった。」と言いますが、一人で庭に出て庭仕事を行い、「転んじゃったよ。」と笑いながら教えてくれます。高い枝の剪定もなんとか自分でできるようになりました。もう、私が剪定のお手伝いをする必要もなくなりました。

 大好きで大好きで、「だめ。」と言われてもやってしまう、そんなことが1つや2つあるはずです。桜井さんにとって大好きで大好きで仕方のないこと、それは庭仕事だったのです。「本人の好きなことをやる。」、それが1番のリハビリだと思います。利用者様の心に火をつけることのできるセラピストを目指して、今日も頑張ります。

今日の一枚

【一言メモ】
年齢が高くなると、生きがいを感じている人の割合が減っていくようです。では、生きがいを感じるにはどうしたら良いのでしょうか。令和4年度の内閣府の資料に、「生きがいを感じていない」と「生きがいを十分感じている」を比較すると、「生きがいを十分感じている」に貢献するのは、世帯収入が増えること、健康状態が良いこと、親しい友人・仲間の人数が増えること、家族や友人との月の会話頻度が増えること、社会参加していることが挙げられると記載されています。
 この資料を見て、私は「仕事をする」ことが、「生きがいを感じる」ようになる最善の方法だと思いました。仕事をすると、規則正しい生活をし、通勤のために歩いたりするため、健康状態を保つことにつながります。また仕事は、収入を増やし、社会参加にもつながります。仕事仲間も増えますし、そこから会話も生まれます。

年齢階層別にみた生きがい(令和4年度 内閣府資料)

個人情報に配慮し、実際にあった内容をもとに、創作しています。そのため、内容はフィクションで登場人物も架空の人物です。


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