無題2-1

魂(ソウル)な美装で戦って! 2-3


「あーあ」
カスティーはきっと中学生位だろう。子供を落ち込ませるなんて、もなみはもう少しやり方があったんじゃないかと、部屋の中の三人の男達を見る。

「何だよ」
非難を込めた視線に気がついたのか、デガロがふぃと顔を逸らした。

「アイアイ様。実はお願いがあるのです」
タビダロンが小声でそう言って、ツシカのほうを向いた。

「下の弟は美装師に憧れて、我が言い聞かせても聞かなくて、気分を害されたらすまぬ。だが今のうちに、急ぎ、解除をして欲しい。この髪が何とかなるのなら、お願いしたい」
ツシカは、そう言いながら髪を手で押さえる。

言われて気がついたが、確かにツシカの髪はおかしい。
長くて綺麗な黒髪だが、何故か垂直で顔や身体にそわない。
手で払っても顔を動かしたら張りついてしまう。耳にかけることも出来ないようだ。これは相当鬱陶しいだろう。

「わかりました。失礼します」
デガロが自分の髪の事を教えたのだろう。もなみは期待のこもったツシカの瞳に、緊張した。

うまく出来るだろうか?迷いはあるけれど、自分が何を出来るが知りたい。
深呼吸をして近寄ると、そっと髪に触れた。

ツシカの黒髪に触れた途端、指先に痺れがおこる。
それが嫌で指を払うように振り回すと、視界が乱れ頭痛がした。
ついイライラして耳を擦る。両目を瞑って耳を擦っていると、急に視界が開けた。
歪んだ視野がクリアに見える。指をツシカの髪にのせて上から下に撫でるように動かすと、灰色の塵がもなみの指を伝い床に落ちた。

「ふぅ」
ツシカの口から、安堵の息が漏れる。

「呪いの解除。見事です」
タビダロンが身を乗り出して言った。

「実はコレ、随分前に、カスティーが兄貴にやったんだよ」
デガロがホッとした顔をしながら呟いた。

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「あの、何度も聞きますけど、今度のバトルって、試合時間は平均どれくらいでしたっけ?」

もなみが針を動かしながら、木片を持って星空の見える窓際の椅子に座るデガロに聞いた。

「だから、時間はまちまちなんだって、決まってない」

「それは聞きました。だから平均って言ってるでしょ。何度もバトルしたって言ってましたよね。同じ規模の試合の時間を教えて下さい。長いと一度美装を変える事もあるらしいので」
もなみが手元から視線を外さないで指摘する。

「ああそうか、そうだなちょっと待て」
デガロが手元の木片を指でなぞった。

その様子を手を休めたもなみが、複雑な顔で見る。

雰囲気は童話の世界のようだけれど、もなみがいた世界とあまり変わらない。
デガロの持っている木片は小型のダブレットのような物だし、冷蔵庫も洗濯機も、似たような物があった。

見た目は中世ヨーロッパ風だけれど、文明は遅れていない、むしろ進んで魔法も美装もある文化で、便利だと思う。

でも、少しだけ他の世界にロマンを感じていたもなみは、事実を知る度ガッカリした。

ただ、トイレは本当の中世ヨーロッパじゃなくて良かったと、使って思った。
木の葉や藁でお尻は拭きたくない。
憧れと現実とは、そんなものかと、自分で笑った。

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「あー、今計算したら、オマエの世界の時間で、三十五分?っての位だ。一人」
デガロが不安そうに呟いた。
きっと自分の計算があっているが不安なのだろう。

「なるほど、それじゃあ間に着替えとかしないでも良いみたいですね。じゃあ四着ぐらいかな?」

言いながら青い生地を何個も繋げていく。
もなみの作った動物の耳は、鳥や獣はあったけれど、魚はまだ無かった。
服は持ってるものを組み合わせて美装すれば良いけれど、頭部に付ける要の物は、美装師が作り出した物の方が良いらしい。
そう言われて、もなみは魚モチーフの頭飾りを作っている。

どれでも好きなものを使っていいと言われた衣装部屋の、古い帽子の光沢のある生地を小さく切って鱗のように繋ぐ、とても手がかかるけれど、針を進める度に、もなみは手応えを感じていた。

「なあ、もうすぐ寝る時間だけど、明日一日でそれは出来るのか?」

「コレはできます。でも、もう一つ作らないと」
もなみは手を進めながら返事をする。

「もう一つ?」
「ええ、二人とも海がテーマな戦いになったら困るでしょ」
「そうか、でもまあ、そんな事は滅多にないし」
「その滅多があったら負けるじゃないですか、一生に一度の美装試合。あたし、やるからには負けたくないです」
もなみの気迫に、デガロが圧された。

「あたし、自分の作った耳が、どんな効果があるのか、知りたいんです」
言いながら針を動かすもなみは、とても楽しそうだった。

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③に続く