みけまる
2006年にmixiの日記に書いてお友達に公開していたもの。 −あらすじ− 小林カイトは中学一年生、 彼には同じクラスの松井アキラという友人がいる。 アキラとは家が近いが学区が違うという事があって小学校は違った。 夏のある日、カイトの家に遊びにきていたアキラはひょんな事から、 カイトの家に伝わる古い杯の秘密を知る。 稚拙な子供が作ったようなその杯の名は「ミズタマリ」 その杯の向こうには別の世界があると言われていた。 端からそんな話を信じず笑い飛ばすカイトと考え込むアキラ。 秋のはじめ、複雑な家の事情でこの世に絶望していたアキラは、 カイトの隙を見てミズタマリの中に飛び込んでいった。 全てを捨てて…
暇つぶしに読んで頂ければ幸いです。一応全年齢。 某所の異世界マンガ原作コンテストで落選(っていうか選にも触れてない)したお話。少女漫画ベースのを求められてたのに、なんか違う感じ、書いてるうちにキャラが好きになって設定渡すのが嫌になりどんどん離れた内容になりました。しかし、入選したら自分の物にならないのって怖くね?続き書けないやんか~
「そう、これこれ、確かあの子、このゲーム欲しがっていたわね。」 美奈子はそう言いながら、玩具店の店員にそれを指差し、 進吾が何か言う前にさっさと会計を済ませて、 品物を受け取って鞄に入れる。 「二階で服を少し見たいって言ったのに、真っ直ぐここにくるとは、 子供を甘やかせちゃ駄目だと常日頃言っているのは誰でしょうね、奥さん。」 進吾はからかうように美奈子にそう言った。 駅前の大型商店の年末で込み合った店内。 だが、クリスマスが過ぎた事もあり、下の食料品売り場と
「それじゃあカイト、わたし達は買い物に行って来るから、 ゆっくり寝ているのよ。 何かあったら、下におばあちゃんがいるからね。」 出掛けに母がそう心配そうに言って、父と一緒に車で出かけた。 カイトは布団の中で返事をして軽くうなずいたが、 母の顔をまともに見ることは出来なかった。 何故なら、生まれて初めて仮病を使って、母に心配をかけたからだ。 今は、昨日の午後父の生家に来てから一晩経った翌朝の十時。 いくら昨日の夜中々眠れなかったとはいえ、 もう布団にいる時間で
「おい、ついたぞ。」 車の鍵を抜きながら、父の進吾は、そう後ろに声をかけた。 うとうととしていたカイトは、その声に驚いて、ハッと座りなおす。 「あら、寝ていたの、何も上にかけないで寒くなかった?」 助手席から降りようとしていた母の美奈子がカイトを心配してそう言う。 「あ、うん。大丈夫。上着、結構分厚いの着てきたから、」 カイトはそう答えながら、 そっと、自分の横に置いてある大きな鞄の存在を手で確かめる。 普段は使わない大きな布製の鞄。 その中に『ミズ
「そんな馬鹿な事は考えられない。カイト、おまえ香ちゃんが居なくなった事で、相当混乱しているんだ。 もし、香ちゃんが『ミズタマリ』に行ったとしても、 あそこは自分で望まないと行くことは出来ないはずだ。 望んで行った者の痕跡は、向こうに行った途端、その時の杯の水と一緒に消えると聞いた。 わたし達、小林の家の男達の記憶を除いて、全て消えるんだ。 だが、おまえの話では、杯に水が入っていて、しかも皆が、今現在、香ちゃんの事を知っている。 香ちゃんは悲鳴をあげて居なくなった、だ
「ふう…」 疲れきった顔で、カイトの父進吾がネクタイを緩める。 歩き疲れた足を投げ出すようにドサリと座ったソファーから見える時計は、 もう、日付が変わったのを教えている。 「せめて、靴は革靴じゃないのを履いていけばよかった。」 その覇気の無い声の様子から、 捜索が良い結果ではなかったことを感じとった妻は、 そう呟く彼の言葉にただうなずいて、湯気の立つ珈琲を差し出す。 いつもミルクだけで砂糖を入れない進吾が、珈琲に砂糖とミルクを入れる。 それから、冷たく冷
「いったい、何があったんだ? 自分の家に帰るのに、何度も警察官に呼び止められたぞ?」 カイトの父、小林進吾は帰るなり、 コートも脱がずに、居間に座る妻に聞いた。 「それが、あなた、あの、一寸、」 妻の美奈子はソファーの上で頭を抱える息子のカイトを気にして、カウンターで仕切られたような台所に夫を押していく。 「何、それは? それは本当なのか?」 妻から耳打ちされて、進吾の顔色が変わる、 ほんの数軒先の家で、二階にいたカイトの同級生が自宅から、消えた。 他の
「母さん、紙袋ってある?」 クリスマスを二日後に控えた夜の八時半頃、 カイトは家に帰るなり、台所にいる母に聞いた。 「紙袋? どのくらいの大きさのが欲しいの?」 母は、カイトも父も遅くなると言われていたので、 ゆっくりとはじめた夕食の用意の手を休めずに聞く。 「ええと、まあ、これくらいかな。」 カイトは両手で大きさを示す。 「うーんそのくらいのなら、 居間の大きな引き出しの中に何枚かあると思うけど。探してみて、 ところでカイト、紙袋なんて何に使うの?」
「どうしたの? カイト。」 ぼんやりと空を眺めて歩いていたカイトに、香が声をかける。 「ううん、何でもないよ、この頃寒くなったなあって思って。」 カイトは首を寒そうに振りながら微笑んで、返事をした。 アキラが消えてから、 文字通りこの世界から消えてから、約100日が過ぎていた。 カイトは最初に感じた後ろめたさも少しずつ薄れて、 徐々に普通の生活に戻っている。 …いや、それは、普通ではないのかもしれない、 いなくなったアキラの代わりに、 沢山の友達とクラスで
「カイト、アキラ君は、この世に居たくない理由があったんだよ。」 呆けたカイトの耳に父の声が聞こえる。 カイトは、そんな事は絶対に考えられないと、 もう一度、今度は静かに、その理由を父に教えた。 それを黙って聞いていた父は、 いつまでも洗い場にいてはカイトの体が冷えるからと、 湯船に入るよう勧め。 カイトが自分の横に座って湯に浸かると、唇を噛んで妙な顔をした。 「いいか、カイト。これはここだけの話だぞ。」 湯船に入ったことで横顔しか見えない父の顔がはっきり
随分昔、おれとおまえの先祖の男が、ある力を持っていた。 その力は、修行を積んで得た呪法だったのか、 それとも生まれつき使えた呪術だったのかは、解からない。 ただ、その力を持った男は、その力が使えるという理由から、 その時代の権力者に使えていたのだろうという事は、 輝也さんが調べて書いたあのノートに記されているから、 きっとそうなのだろう。 そして、その男は勤めを続ける内に、何があったのかは知らないが、 その権力者の身内の女性、妻か、姫か、孫娘か、 自分では決して手の届かな
「カイト、あの杯と一緒にあった古いノートを全部読んだか?」 父が体に泡をつけて腕を擦りながら、湯船の中のカイトに聞く。 「ううん、全部は読んでない。 夏に初めて押入れから出したときに、興味本位でざっと見ただけだよ。 あの時、アキラは気になる事が書いてあったみたいで、 妙に黙って真剣に読んでいたけれど、 俺は、隣で何かを食べながら漫画を読んでいたと思う。」 カイトは、あの時の事を思い出して、そう答えた。 最初は、カイトの話を本気にしていなくて、ふざけていたアキラ
ぱしゃん! 湯が跳ねた。 カイトが父の入っている浴槽に並んで座ると、そこは、少し狭く感じられた。 「おまえ、大きくなったなぁ… 」 父がカイトを見ながら、しみじみと言った。 「そうかな? これでも身長は低いほうなんだけど… 」 ぼんやりと、毎日のように父と入浴していた頃を思い出していたカイトは、 嬉しそうな父の声と視線に、少し照れて、そう答えた。 「そうなのか? 何しろ一緒に風呂に入るのは久しぶりだからな、確か、四年生か、五年生になったばかりの頃から
「アキラ君がどうかしたのか?」 父は不思議そうにカイトを見る。その表情はいつもと大して変わらない、 少しカイトの勢いに驚いている様子で、まじまじとカイトを見ている。 「確かにアキラだよね。俺と同じクラスで、この近所の松井アキラだよね!」 カイトは念を押して、そう、何度も聞いた。 「ああ、そうだよ、何を変なことを言っているんだ、小学校は違ったが、 中学生になったら同じクラスになったと言って、喜んでいたじゃないか、 アキラ君とは毎年町内の運動会では同じチームに入っ
「カイト、どうしたの?」 カイトの母が、心配そうな声で聞きながら駆け寄る。 夕方、仕事から帰ってすぐ、薄暗い居間の中、 ソファーの上で膝を抱えるようにして座るカイトを見て、母は顔色を変えた。 「何でもない、まだ風邪が治りきってなかったんだ。」 そうカイトは答えて、学校を早退したことを母に告げた。 「だから、もう一日寝てなさいって言ったのに… まあ、済んだことをぶつぶつ言ってもしょうがないわ、 少しでも食べて、早く横になりなさい、消化のいいもの作るから、 で
「おい、しっかりしてくれよ。 今度の体育祭までには、治ってくれなきゃ困るぞ。」 日出男が、肩をつつくのを止めて、そう言った。 「ああ、そうだよな、確か、俺、リレーに出るんだっけ?」 数日前に決まったそのことを思い出して、カイトが、返事をする。 「出るんだっけ? じゃないだろ、おまえアンカーだぞ!!」 しっかりしろと念を押すように日出男に言われて、カイトは思わず、 「アンカーは、アキラだろ、あいつ一年の中で一番速い…」 そう言いかけて、自分の言葉にギクリ
「何だよ、まだ風邪、治りきってないのか?」 ぼんやりとしていたカイトに、背後から声が飛んだ。 「ああ、ごめん、野村、何か言った?」 カイトが振り返って答えると、 後ろの席の野村日出男は、一瞬、変な顔をした。 「やっぱりまだ具合悪いみたいだな、いつもはヒデって呼ぶくせに、 野村なんて珍しい呼び方で俺の事呼んで、気味が悪いよ。」 日出男はそう言って、からかうように後ろから指でカイトの肩をつつく。 「そ、そうだっけ、悪い… 」 肩をつつかれて、微かに伝わ