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ゆく水や 何にとゞまる 海苔の味#04

ところで「Nature」2010年4月7日号にRoscoff研究所の生物学者Jan-Hendrik Hehemann氏によるZobellia galactanivorans(ゾベリア・ガラクタニボランス:一般的な海洋細菌)についてのレポートが載っている。
https://www.nature.com/articles/nature08937
実は、海藻類は腸内に入っても分解しにくい。板海苔もそうだ。
同氏はこのレポートで「海洋細菌の中で、藻細胞壁の分解を行なう酵素を特定した」と発表している。そして「この酵素が見つかる場所は1つしかない。それは日本人の腸に見られる細菌の中だ」と書いている。
もう少し細かく書くとHehemann氏はポルフィランを分解する酵素を見つけたのである。ポルフィランとは、紅藻類の細胞壁にある炭水化物だ。これを分解酵素を背負ったBacteroides plebeiusが分解するらしい。
どうやら海苔を食べてこれを分解するという能力は日本人だけが手に入れたモノのようだ。これは牛の乳を分解する能力を持っている民族が大きく偏っているのと同じ、歴史の中で獲得した特殊な能力なんでしょうな。

・・となると、ふと浮かぶのがダルスDulseのことだ。アイルランドに行くと副菜として添えられて出てくる海藻だ。アメリカでもアイルランド人は食べる。油でさっと揚げてスナックみたいにして出てくる。あれって、どうなんだろう。最近スーパーフードみたいな言われ方をして、一部ではブームになっているが、分解酵素が腸内になくてもOKなのかな?

そんな話を食事の時、ママにしたら・・
「ナポリにあるわよ」とこともなげに言われた。「ナポリにだけ・・だけどね。海藻入り揚げパン。ゼッポリーニZeppoline。ピザ生地にイーストと海藻を混ぜて発酵させるの。一緒にアンチョビやシラスなんかも細かく刻んで入れるの。小さいフィンガータイプのパンよ。」
あらあら、このシト、食材と料理の種類についての造詣は底知れない。
「ほとんどナポリでしか見かけないけど、ほかの地方で出される場合はフリットディアルゲFritto di alghe"海藻のフリット"と言ってるわね。ときどきゼッポラZeppolaって書いてるレストランもあるわね」
大変失礼しました。
「きっと熱を通すと、欧米人でも分解できるように変性するんじゃないかしら。ダルスも揚げるし、フリットにする理由もそれのような気がするわね」
なるほど。
「でもどうなのかしら・・ボルディエバターに海藻入りがあるでしょ?」
「おお、僕が好きなやつ」
「あれって、生のままを使わないで焼いてからバターに混ぜるのかしら?・・そうね、こんどレンヌへ行った時の宿題ね。聞いてみるわ。」

実は、ウチのママはオモライの天才でして、旅行に行ったときは、必ず地元の料理を食べて、そのレシピをキッチンで聞くんだけど‥あまりにも熱心に質問するんで、大抵はシェフが帰りにその使ってる食材をくれるのだ。大したもんだ。
「だって何使っているのか?どうやって手に入れられるか?聞かないと完全再生はできないでしょ?」
そりゃそうだ。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました