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パリ・マルシェ歩き#01/パリ最古の市場レ・アルの話から

https://www.youtube.com/watch?v=VpiizB-jSQY

パリの一番大きな魅力は、フランスの郷土料理の殆どが此処で出会えることだ。NYCがどんなに凄くてもロンドンがいかほど楽しくても、そして東京でもそんなことは望めない。
僕がパリを愛する理由はこれだ。
マルシェ・ダリグレマルシェ・デ・アンファン・ルージみたいなマルシェに行くでしょ?そうすると、え~そんな遠い所から来てるの?という生産者がいるじゃない?アレってホントにすごいと思う。パリには地方の食材を買う人たちがとっても居るということなのね」
僕らはゲイ・リュサック通りRue Gay-Lussacにあるル・ビストロ・レ・パピーユLes Papilles(30 Rue Gay-Lussac, 75005 Paris)にいた。ここは僕らが馴染みにしているレストランだ。
http://www.lespapillesparis.fr/
ラテン地区、リュクサンブール公園に近い。目の前には肉の煮込み料理リエットRillettesとvelouté de légumesそしてタルタル・ド・サンドルTartare de Sandre、アンドゥイエットAndouilletteが並んでいた。ワインはロワールの白だ。
「こんな素敵なアンドゥイエットが普通に出てくるんですもの。やっぱりそれは食材が手に入るからなのね。マルシェ歩きをしてるとよく知り合いのシェフに顔を合わせたりするでしょ?やっぱりパリは凄いわあと思うわ」
たしかにワインも郷土料理専門の店へ出かけると、ショップではおよそ出会うことのないAOCがリストに有ったりする。逆にそれが、コンペチターがヤマのようにいるParisで生き残ってける武器なのかもしれない。
「ん。そうだね。でも実は、パリでこれほど郷土料理が食べられるようになったのは、つい最近のことなんだ。1970年代になってヌーベル・キュイジーヌNouvelle Cuisineが台頭し始めて、フランス料理の根底に有った伝統というものが大きく揺らいだ。その派生として郷土料理への回帰が現れてからなんだよ」
「ポール・ボキューズやミシェル・ゲラール、アラン・シャペルのこと?」
「ん。そうだ。全員が地方の料理家だ。彼らは全員、出身地の食材を多用した。旬をフランス料理の中に持ち込んだんだよ。バターたっぷりの山盛りごってりから、視覚的に美しい盛り付け、プレートデザインを駆使した。ポール・ボキューズやミシェル・ゲラール、アラン・シャペルたちによってフランス料理は1970年代に激変したんだ。パリに地方料理の店がポロポロと出始めるのは、この大きなトレンドがもたらした波及効果だ」
「マルシェは?もっと古くからあったんでしょ?」
「パリの最古レ・アルLes Hallesは1区にあった。いまは郊外へ移動したけど。パリ市庁舎の西側、ルーヴル美術館の東側にあったんだ。いまのフォーラム・デ・アルWestfield Forum des Halles(101 Porte Berger, 75001 Paris)な。あそこに有った」
https://www.westfield.com/france/forumdeshalles
「ショッピングセンターがあるところよね。あなたの知り合いの会社が入ってるビル」
「ん。レ・アルLes Hallesは1150年にルイ7世の命令で作られた」
「え~そんなに早く?900年も前に?」
「ん。フランク王国ってメロヴィング朝/カロリング朝の頃はソワソンSoissons/ランスReims/アーヘンAachenが首都だった」
「ええ、シャンパニューでその話は聞いたわ」
「Parisを国家を統治するための重要な拠点にしたのはユーグ・カペーHugh Capetなんだ。彼はパリ伯Count of Parisだった。もともとパリが彼の活動拠点だったんだよ。彼の手に王位が渡ったのは987年。ユーグ・カペーは安定した政権を維持するために、地元のパリへ政権を移したんだ」
「なるほどねぇ」
「その当時、パリの中心はシテ島だった。シテ島はセーヌ川に囲まれてね、防御が容易だったからだ。それがユーグ・カペーによって首都とされたことで拡大した。そのことで、交易の場所として早くから機能していたセーヌ川右岸は大きく繁栄したんだ。そこに6代王朝(1137年-1180年)ルイ7世がレ・アル市場Les Hallesの設置を命令した。それがはじまりだ」
「ルイ7世って、アリエノールを王妃にした人でしょ?」
「おお!そうだ。第2回十字軍を仕掛けた王だ。実直敬虔な人で国の拡大化ばかりを考えてる面白くない奴だったんで、淫婦アリエノールは呆れ返って実家のボルドーへ帰っちまった。そしてその警備として随行したはずのアンジュー伯・ノルマンディー公アンリと出来ちゃった。出来ちゃったところか、ボルドーへ帰ると結婚しちまった。国王ルイ7世を放り出してだ。ここから百年戦争が始まる。・・そのルイ7世が作ったのがパリ最古の市場だった」
「なるほどねぇ、ルイ7世は実直敬虔な人だったけど、無能ではなかったのね」
「ん。彼はシテ島を核とした都市計画を考えていたんだ。北側に市場を置くことで商業活動を活性化させて、都市の経済成長を促した。それって分散していた商業地区を一括にすることだからな、徴税がし易くなる。ルイ7世は税収を一気に増加させた人でもある。ということは、その資金で町のインフラが整備できる。産業の善循環が始まる。パリは商業都市になっていったんだ。今のパリの礎を作った人だ」
「ふうん、ほんとは偉い人だったのね」
「ん。非凡ではなかった。王としても人としても並な男だった。並な男だからこそ培う礎を作った男だ」
「それって、褒めてるの?クサしてるの?」
「精一杯ほめてる」
「あそ」



無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました