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イタリアワインとパスタを見つめながらの取り留めない話#10

●茹でるモノの登場
紀元1000年過ぎごろから、茹でるという文化が生まれてくると、おそらく一番初めに茹でられたのは、水を混ぜて捏ねられ引き延ばされた麦の粉でしょう。パスタです。

パスタは、北イタリアで最初に開発された、と云われています。つまり生パスタですね。最初に作られたパスタは、すべて生パスタだった。短冊状・細棒状の前に平板状(パエリア)のものが登場し、これの間に具材を挟んで火を通す。あるいはスープに入れる食べ方が急速に広がりました。

殆んど同時期に、南イタリアで乾パスタが登場します。 実は、北イタリアと南イタリアでは収穫される麦が違います。 北は軟質麦系が多く、南は硬質麦系が多い。
小麦はデンプン粒の間に、さまざまな物質が詰まったコンクリート様の粒です。
硬質小麦の場合、一つ一つのデンプン粒が大きく、これらが硬く密着しあっています。そしてこれを破砕すると、軟質小麦粉より沢山の水を吸収する。
軟質小麦も、構造は硬質と同じですが、軟質小麦のデンプン粒の表面には、くっつくのを妨ぐ物質・フライアビリンというタンパク質がコートされています。そのために軟質小麦のデンプン粒とその間の物質は、くっつかない状態で細胞中に詰まっているのです。コンクリート様になっていない。結果として小麦粒はもろく、粉にするとデンプン粒が1つ1つバラバラにほぼ無傷で分離されてしまいます。そのため軟質小麦の粉は細かく、水分を多く吸うことができません。これを乾麺にすることは可能ですが、耐久性はなくパリパリと簡単に折れてしまいます。比して硬質系の小麦粉で作られた乾麺は、強靭でそう簡単には折れません。

この北イタリア→軟質小麦粉→生パスタ
南イタリア→硬質小麦粉→乾パスタ
という棲み分けは、現在でも、かなりキチンと行われています。

資料を追います。
1200年代の年代記作者にフラ・サリンベネという人がいます。彼の残した「年代記」の中に、ジョヴァン二・ラ・ベンナという修道士が、捏ねて伸ばした半発酵パンを茹でてから、その上にチーズをかけて食べている様子が描かれています。これが茹でて食べることについての初出です。つまり、ラザーニャですね。ラザーニャが登場した。
この「ラザーニャにして食べる」ということと、それまでの食べ方の違いは一目瞭然です。ラザーニャは、小麦粉に水を加えて捏ねたものを引き延ばして、これを湯に入れてα化する。そして湯から取り出して、さまざまな加工して食べる。つまり小麦粉のグルテンをβのままではなくα化し、α化しているうちに食べるのです。α化すると、とても食感が良くなり美味しくなるからです。この方法が発見されると、あっというまに「捏ねた小麦粉のカタマリを伸ばして茹で」てから食べるというやり方は、イタリア中に普及しました。
その時代に発刊されたレシピ本を調べると、年代を追ってラザーニャ、ニョッキ、さまざまなショートパスタ、そしてロングパスタなどが登場してきます。フランク王国の統治によって、イタリア半島は暗黒時代を抜けることが出来たと云えましょう。

2004年~2006年の統計(Istat)資料を見ると、イタリアでは187の製麺所で1万人が働き、年間319万トンのパスタを生産しているそうです。その、パスタの大半は乾燥パスタとのこと。ほぼ半分が海外に輸出されており、中でも一番多い輸出先はドイツだそうです。

それにしても半分は国内消費なわけですから、すごい量ですね。

それにイタリアの家庭では、小麦粉を買ってきて自宅で製麺する方々も多いそうですから、実態としてどのくらいの量のパスタが主食として消費されているか、計り知れないというのが本当の所でしょう。

 では。このパスタというもの。

「パスタとは何か」という、そもそも話について考えてみると・・・異論が出るかもしれませんが、ここでは「穀物を粉末にしたものに水を混ぜ捏ねたりして成形し、それを茹でたり蒸したりしたもの」と定義できるように僕は思っています。

分類のキーワードは4つです。
①材料 ?形質 ③形状 ④調理法
この四つのキーワードが織り交ざって、パスタが出来上がります。

①材料
主たる材料は小麦粉ですが、他にもライ麦、トウモロコシ、ソバ、ジャガイモ、その他の雑穀なども使用します。単体の場合もあり、混ぜたりもします。ジャガイモを使うものとしてはニョッキが有名ですね。

②形質
大分類は、硬質か軟質かです。前者の代表が乾燥パスタであり、後者は生パスタです。実は硬軟、使用される材質が違います。乾燥パスタの場合、デュランセモリナが中心です。いわゆる硬質小麦といわれるものです。生パスタは、普通の小麦粉を使用します。つまりうどん粉ですね。いわゆる軟質小麦と云われる奴です。両者の決定的な違いは、練るときに卵を使うかどうかです。乾燥パスタは卵を使いません。

③形状
これは三大分類できます。ロング・マスタかショートパスタか、他形状か、です。他形状の場合、中に具材の詰め物をすることが多い。
④調理法
これも三大分類です。ひとつは、一般的なパスタの茹で方。パスタ・アシュッタ。パスタを茹でた後、これを水切りして、あらかじめ用意しておいた具材と混ぜて食べる方法。
もうひとつは、パスタ・イン・ブロード。パスタを茹でたら、それを具材の入ったスープに入れて食べる方法。
そして、パスタ・アル・フォルノ。これはパスタを半分まで茹でて、水切りした後、冷まして、そこにあらかじめ用意したソースを塗ったり肉を挟んだりして、オーブンで焼く方法です。いわゆるラザニアが代表的ですね。 この四つが絡み合って、イタリアには各地方に色々なパスタ料理があります。そして何処も「うちが一番」とお国自慢をします。これをイタリア語ではCampanilismoといいます。語源はcampanile鐘楼のことだそうです。イタリアの田舎町は必ず村の中心に鐘楼があります。村人はこれを「近在じゃ、ウチのが一番!」と自慢するそうです。そこからCampanilismoという言葉が生まれたそうです。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました