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夫婦で歩くシャンパニュー歴史散歩5-2-6/ドン・ペリニオンから見えるもの・シャンパニュービジネスについて#04

「シャンパニューの大市は縮小化していたが健在だった。そこで発泡性ワインが売れた。買ったのは英国人だ。英国の貴族たちがこれを希少品として飲んだ。ここに全く誰も思いつかなかったマーケットが発生したんだ。もちろんその前から発泡性ワインを生産していた地域もあった。ラングドックリュションだ。しかし普及はしなかった。マーケットが狭かったためだ。
シャンパニューの大市は違う。マーケットは世界へ開けている。・・そこに新しいワイン/そこにボン!と発酵したガスが溶けたワインが登場したんだ。マーケットがあれば革新性の高い商品は受け入れられる。売れるんだよ」
「それが1700年代の初め?」
「そうだ。・・これってシャンパニュー地方にとって、とんでもない僥倖だったんだ」
「どうして?新しい販売商品化が現れたから?」
「実はシャンパニューには、ブルゴーニュというライバルがいた」
「ライバル?」
「シャンパニューは、ブルゴーニュのように高品質なピノノワールを利用してワインを生産していた。そのワインをマルヌ川を通してパリの王室貴族に売っていたんだ。同じく貴族たちが所有するブルゴーニュに対して、シャンパニューの貴族たちは『追いつけ追いこせ』で頑張っていたんだ」
「なるほどねぇ、貴族たち同士の意地の張り合いね」
「ん、しかしシャンパニューのワインには特筆するアイコンがなかった。『コレ!だからシャンパニューワイン!』がなかった。だから如何ほど伸びても結局は万年二番手でいたんだよ。ところがカノン ジャン ゴディノの指導書『Manière de cultiver la vigne et de faire le Vin en Champagne』がこれを替えたんだ」
「シャンパン?」
「そうだ。彼の指導書を元に泡入りワインを生産することで、シャンパニューは万年二番手と言う位置を見事払拭したんだよ。シャンパニューは誰も知らない新しいマーケットの支配者になったんだ」
「スティーブ・ジョブスのiphoneみたいに?」
「そうだ・・まさにその通りだ。携帯電話とPCの一体化という誰でも気が付くアイデアを具現化させたわけさ。発泡性ワインもそうだ。ワインは発酵すればガスが出る。閉じ込めれば風味は大きく変わる。しかし瓶が持たない。栓がない。それをシャンパニューの貴族たちは、ドン・ペリニヨンの方法を利用して一挙に解決してしまったんだよ。
ところがだ」
「あ・でた。ところが・・ところが??」
「1789年だよ。ブルボン体制を引きずり倒した『市民革命』だ」
「ああ・・そこに繋がるのね」
「ブルジョアたちは、貴族も僧侶も殺しまくった。ブルゴーニュもシャンパニューもだ。土地はブルジョアたちのものになった。広大な土地を持っていた教会も悉くそれを取りあげられた。戦後の日本みたいなものさ。四肢以外は何もかも剥奪されたんだ。・・シャンパニューの場合、市民革命の勢いに乗じてロシア軍プロイセンが急襲してきた。その混乱は悲惨なものだった。ナポレオンが台頭し敗北するまで、シャンパニューは雌伏の時を過ごしたんだ」
「でも、そのことで沢山の市民が死んだんでしょ?」
「ん。その通り、それでも貴族たちを殺して引き継いだシャンパニューの支配者たち/ブルジョアたちは残った。彼らは雌伏の時をやり越すと、新しいワイン『シャンパン』を精力的に売り始めたんだょ。こうして1800年代はシャンパンの最初の黄金期になったわけだ」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました