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らく町まぼろし散歩#04

嫁さんの誕生日で先日道東にあるオーベルジュまで食事に出た。片道9時間の晩飯行だった。
さすがに一泊したんで、翌日は僕の趣味で美幌峠に寄らせてもらった。
菊田先生の「君の名は」を松竹は映画化した。三部作でね。その一つの舞台が美幌だったんだ。ぼくにとって少年/青年期の大きな道祖神でもある松竹の生んだ大作の一つだ。あ。余談だけど「人間の条件」も舞台になった北満鞍山市を訪ねて、鞍山老虎嶺を探し求めたことがある。とても深い思い出だ。
で。今回は熊笹に覆われた美幌峠。チャーターした車は駐車場に待っていただいて展望台まで嫁さんと登った。途中までくると朗々と歌声が聞こえた。「誰か展望台で歌ってるわよ」と嫁さんが言った。違った。途中に、美空いばりの歌碑なるものが建っていたんだ。そこで流しているいばりの歌だった。
「すごいわね。これ、町のお金で建てたのよね。美空ひばりの所縁の人が建てたわけじゃないわよね。」
「どうなんだかなぁ、こんな絶景見晴台で美空いばりに出会うなんて、シュールだな。」
「いばりじゃなくて、ひばり・・さんでしょ」と嫁さん。
「ん~いつもエラそうにしてたからなぁ~」
「そういえば歌碑って有楽町にもあったわよね。」
「ああ、数寄屋橋のとこにあるやつな"銀座の恋の物語"だ。あっちは日活映画だ。ほかには8丁目のとこに"東京行進曲"がある。あれも日活映画だ。菊田先生が原作だ。もう一つはマリオンの前にある"有楽町で逢いましょう"な。こいつは、そごうデパートのCMソングだから、ビックカメラのトコにこそ相応しいと思うんだが」
「そごうの?」
「ああ、関西の十合(そごう)さんが作ったデパートだ。それのCMソングだった。傑作だよ。」
「そごうって、創立者の名前だったの?びっくりね。」
「歌は銀座ジャズ界の星・フランク永井だ。歌詞は佐伯孝夫さん。菊田先生の"君の名は"のオマージュだ。」
「オマージュ?」
「ああ、歌詞を見てごらん
"あなたを待てば 雨が降る
濡れて来ぬかと 気にかかる"とあるだろう?
"君の名は"は銀座空襲の1月27日、たまたま出会った見知らぬ男女・氏家真知子と後宮春樹が戦火の中を二人で逃げ惑うところから始まる。そしてB29が去った後、二人は数寄屋橋の梺でまた会おうと約束するんだ。」
「真知子さんが春樹さんを待つ?」
「ん。そごうが建った頃はもう"戦後は終わ"っていた。でも、真知子と春樹の残香も、有楽町駅前に立った鳩の子たちの幻も、まだ在ったんだ。間違いなく佐伯孝夫さんはその思いをあの歌詞に乗せている。ジャズ・シンガー/フランク永井に相応しい歌詞だよ。」
「みじかい言葉に秘められた街への思い入れね。」
「ん。ちなみに映画化したのは大映だった。川口浩、野添ひとみだったけど、作品としてはスカだったな。」
「ヒットしなかったの?」
「いや大ヒットした。調子に乗って大映は"セクシー・サインすきすきすき"というフランク永井の曲に肖った映画まで作った。ついでに"きらいきらいきらい”という迷画まで作ってる。蛇足もあそこまで行けばたいしたものだ。」
「いつも大映映画には手厳しいわね。」
「いや、そうでもないが・・"きらいきらいきらい"は源氏鶏太の"花のサラリーマン"が原作でね。松尾和子がしょっぱなからこれを歌ってる映画だ。妖艶な松尾さんの御尊顔が拝める作品だよ」

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました