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ちょっとフィクション/血を飲んでいる。

ときどき献血をしに行くけれど、
それはそれとして血を飲んでいる。
吸血鬼なので。

実は僕らの大きな牙はストローみたいに、
歯の真ん中が空洞になって口の中につながっている。
オレンジジュースを飲むみたいにして吸い込んで、
血を飲んている。

とはいえ今時そんな飲み方をするのは、
じじばば連中くらいのものだろう。
ちょうど地方のべたべたな方言みたいなもので、
親世代より若い世代の間では、
人間から直接飲む奴なんているはずもない。

そもそも、
よくもまああんなにドロドロのものを、
飲み込めるものだと僕は感心してしまう。
一度だけ血をそのまま飲む機会があったけど、
食道にまとわりつく息苦しさでそのまま戻してしまった。

あれ以来そのままの血を飲もうと思ったことはない。
飲む必要がないのだから思うこともない。

僕らの暮らしも豊かになった。
どんなリスクがあるかもわからない人間から、
直接血を吸うまでもなく栄養を得られるようになった。

というかもともと血を吸う必要はないらしい。
昔ワイドショーでえらい専門家の人が言っていたけど、
人間と同じ食事で充分に栄養自体はとれるのだそうだ。
ただ時々無性に血が欲しくなるってだけ。

今じゃあスーパーにもコンビニにもドラッグストアにも、
安全性が確認されて黒いボトルに入れられた、
それなりの血が十二分に売られている

だから今時人間から直接血を飲もうものなら、
ケチとかダサいとか古臭いとか言われるんだよね。
僕の知ったことじゃないけど。

さっき話した通り血はドロドロで飲みづらい。
だから適当なグラスに半分血を入れて、
残りをお好みの液体で満たして飲むのが主流。

僕はあまり血を飲まないけれど、
一応オレンジジュースを押し入れにストックしている。
友人が時々家に押しかけてくるから念のため。

今晩は家に一人だけど、
オレンジジュース1本をあらかじめ冷蔵庫に冷やしておいた。
今日は久しぶりに血を飲む日だ。
献血をしてきたから。

献血をした日は無性に血が欲しくなる。
そりゃそうだって感じだ。
血が足りてないんだから。

大きめの瓶を手に取ったとたん、
その場で一気に飲み干したくなった。
でも後悔するのは目に見えている。
喉元が熱くなるのをグウっとこらえて、
急いで家に帰ろう。

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