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ネグロス島へ 慰霊の旅...④


4月12日 セブからネグロスへ


朝がきた。

さあ、何も決まっていないけど、朝が来た。
流されるような、導かれるような旅が出来たらいいと思う。

朝食は昨日パンを買ったお店で食べる。現地の人がひっきりなしに出たり入ったりしていたお店。仕事前に朝食を食べている若い人や、お年寄り夫婦など様々。 カウンターに陳列してあるおかずを指さして頼む。魚のスープ、揚げ春巻き、魚のフライ、アドボなど、どれも美味しい。

昨日までしていた腕時計、なくしてしまったらしい。確かポシェットに入れたと思うんだけど。出し入れしているうちに落としてしまったのかも、、、
セイコーのピンクの文字盤が気に入ってた。3000円くらいで買ったやつだけど、今はそんな値段ではきっと買えないだろうな、、、、

朝食は美味だった!!

宿に戻る。昨日私たちの為に色々調べてくれた受付にいた女性、キャッシー。金髪のボブで、つけまつ毛は2センチぐらいあって、ハスキーボイスで、めっちゃ存在感がある。フェリーでいく事も考えたが、ネットでみると、セブーバコロド間の国内線の座席が5席余っている。すぐに支度をして、タクシーを呼んで空港へ向かう。席がありますように、、、

空港に着き、直ぐにフィリピンエアーのオフィスへ行く。10:55発のバコロド行きチケットが取れた。陸路よりはるかに高くつくが、仕方ない。今回の旅のコンセプトは貧乏旅行ではなく、慰霊の旅なのだ。

国内線の出発ロビーは「これが昨日と同じ空港?」っていうくらい豪華だった。人も多い。昨日のゲート、もしかして従業員用のじゃありませんよね、、、、

宿はシライ市のコロニアルハウスに決めた。明日泊まるパタッグ村のキャンプ場のオーナーのお姉さんが経営しているホテルだ。メッセンジャーで連絡を入れると、「スタジオ」という離れの部屋が一つだけ空いてるという事で、訊いてもいないのにディスカウントしてくれた。 

今回の旅の最大の難所は明日のシライ市からパタッグ村キャンプ場までの道程だ。時刻表もない、行先も書いていないジープを捕まえて私たちが泊まるキャンプ場まで行かなきゃならない。大叔父が導いてくれるのかな、、、

飛行機を待つ間、なんとも言えない気持ちになっていた。今日やっと、大叔父が倒れたその地を、この足で踏む、、、。 遠い異国の地で寂しく死んでいった魂を、79年後に彼のDNAを持つ誰かが訪ねてくれるなんて思っていただろうか、、、。

国内線の小さな飛行機に乗り込む。ギラギラ照り付ける南国の太陽。空港バスを降りて飛行機のタラップに上るまで20mくらいの距離なのに、フィリピンエアーのスタッフがにこやかな顔で日傘を渡してくれる。こういうおもてなし、最高に良いと思うけど、スタッフは大変だろうな、、、、

尊敬する人

機内の窓から外を眺める。大叔父の写真を胸に抱いて。 ネグロス島が見えてきた。大叔父が亡くなったというサンカルロスの街並みが見えてきた時、涙が出てきた。日本の為に散った命たち。利他の極致。彼らの命の犠牲の上に今の私たちの社会がある。

空から見たネグロス島

高校受験の時の自己申告書に今も書く欄があるのか、「あなたの尊敬する人」。いきなり言われても困る、、、、友達はと言うと「両親」と書いている人多数。中には1万円札の顔でなじみのあった「聖徳太子」なるものも。聖人君子か、、

普段はチャランポランなO型人間の私だが、信条においては時にとんでもなく馬鹿正直になる私。 ”尊敬のメガネ”で両親を眺めてみると、「感謝」の文字は浮かんでくるけど、尊敬ではない事に気づく。

考える、、、、
「人の為に死ねる人」というワードが浮かんできた。1回使ったら終わりの命を、1つだけの命を無償で誰かの為に捧げることなんて私には絶対できない。それが出来る人こそ私の尊敬する人だ。 時々新聞に載る「川に溺れた子を助けて溺死」とかいう記事に私は激しく心を揺さぶられる事に気づいていた。

勿論、その人の全てを尊敬しているのではなく(会ったこともないし)、命を投げうった行為そのものを尊敬すると。 担任の先生の困った顔、必死に説明している私の顔だけが思い浮かぶ。 その後、どうなったかは覚えていない。無難に「両親」にしたのかも知れない。

今、思う。その時見ていたのは大叔父さんだったのだなと。 

タクシーの運ちゃん

バコロド空港はサトウキビ畑の中にポツンとある小さくて可愛い空港だった。

サトウキビ畑

外に出ると警備員の様な人が近づいてきて「どこへ行く?」と。
宿の地図を見せるとタクシー乗り場に案内してくれるが、そこでまさかの乗車拒否。

若い運ちゃん曰く「そんなに遠くないから稼げない。」と。
「お客様の笑顔が宝です」とか「自分の職業に誇りを持っています」とかそんなの微塵も感じさせない物言いに感心してしまった。 自分に正直に生きられるこの国って捨てたもんじゃないなと感心するが、状況を考えてみるとやっぱり困る。タクシーは1台きりしかないし、バスも走ってなさそう、、、。 

見かねた警備員さんが電話でタクシーを呼んでくれた。有難い。
暫くすると7~8人は乗れる大型バンがやってきた。ニコニコ顔の40代くらいの男性。警備員さんに「メーターで行くんだよね?」と確認。頷くのでバンに乗り込む。バンにはメーターは無いが、太陽のように素敵な男性の笑顔を信じる事にする。

タクシーはサトウキビ畑の中をひた走る。街の中心部で止めてくれ、後は歩くから。と伝えた。街が見えてきて、「ここで、大丈夫です。」と言うと、「宿の目の前まで行くよ。」とメーターもないのに時間稼ぎ? 
さっきまでのカラッとした笑顔が消え、ねちっこくなっている。これはもしや、、、、

見つからないので、降ろしてもらう。「いくらですか?」と訊くと「いくらでも良いよ。」と運ちゃん。10分そこそこの道のりだったし、150Pくらいかなと思い、渡す。
「オーノー、そんなんじゃ足りないよ。私にも家族がいる。400Pは貰わないと。」って、”じゃあいくらでも良いなんて聞くなよ!!” 
アドレナリンが全開になっている自分を抑えつつ、でも毅然とした表情で「今日セブの空港まで30分以上乗ったけど、310Pでした。150Pでも充分です!!メーター使ってたらもっと安いはず!!」なおも食い下がる運ちゃんをしり目にスタスタ歩く。子どももついてくる。「こんな人たちだから、誰も乗せたがらなかったんだ。」という運ちゃんのイヤミがグサッと胸に突き刺さる。 お互いイヤーな気持ちになる。winwinの反対。

背にしたタクシーの様子もわからず、”追いかけてきたらどうしよう?”と緊張しながら道を歩く。 
一人旅をしていた頃を思い出す。こういう事があるたびにメンタルやられて数日間、暗い気分で過ごしていた。でも今は両脇に2人の子どもがいる。

「なんなの、アイツ。」とか言いながら、屋台の焼きバナナを見つけて「あ、これちょっと美味しそう。食べよ。」なんて言っているうちにイヤな気分も吹き飛んだ。

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