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「鹿鳴館の夜」 メニューで見るレストランクレッセントの歴史(10)(11)

レストランクレッセント閉店を知ってから、家にわずかに残された資料をまとめることが、不思議と私にとっての小さな使命感になっていました。それは、同じ様にクレッセントでの想い出を大切にされている方々にとっても、改めてこんな側面があったのかということを、なくなってしまう前に少しでも知っていただいてお楽しみいただける様な内容になれば、という思いからであると同時に、この昔の資料の中には、古く美しき時代を大切にしつつ、新しい時代へとそれをつなげていく…所々に見え隠れするそんな内容を、現代に向けて発信していくことがとても大切なことの様に思えたからでした。これは、どの時代にも普遍的に存在する、懐かしみと変革の間の感覚でもあると思います。

この「鹿鳴館の夜」大晩餐会の資料一つとっても、美しい優雅な時代に憧れ懐かしむばかりでなく、それをその当時の感覚で改めて「創造」して未来へとつなげていく、そんな内容になっています。数百年、数千年の時を越えて現代に姿を表した美術品を愛した祖父にとっては、風化していく品々や物事の美しさを、再び新しい形で輝かせるという、自然の流れでもあったのかもしれません。


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秋深く、菊花咲き乱れ紅葉も美しい今日この頃、皆様方には益々御清祥のことと御慶申し上げます。当館の年中行事「鹿鳴館の夜」晩餐会の第10回目に当たります。10年前この会を始めましてから、顧客の皆様方多数のご来場を賜り、社員一同深く感謝致しておりますと同時に、この会によって得難い勉強をさせていただきました。

本年の献立は明治34年11月英京ロンドンにおいて開かれた、ロンドン駐在の日本外交官松方氏主催の第晩餐会のメニューを基調とし構成してみました。その理由は、このメニューがヴィクトリア王朝期イングランドの晩餐会を代表する豪華なものであると共に、私自身松方家とは昔からご縁があって、その上旧松方コレクションの美術品数点がクレッセント・ハウスを飾っている因縁を思って、これに決めた次第であります。

何卒、秋深い芝公園に皆様御揃いでご来駕いただき、美しい秋の夜を存分にお楽しみ下さいます様ご案内申し上げます。

昭和59年10月

クレッセントハウス主人 石黒孝次郎

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秋深く、美しい紅葉の季節となり、皆様方には益々御清祥のことと御慶申し上げます。当館の年中行事秋の大晩餐会も、昨年第10回の峠を越し、本年は第11回というあたらいい出発点でありますが、私たちは常に温故知新の格言の通り古き良き時代を知ることによって新しき良き時代を創造していきたいと考えております。

本年の献立は明治44年(1911年)6月にバッキンガム宮殿で行われた、レセプションのメニューを基調として組み立ててみました。同年は、ジョージ5世陛下の戴冠式翌日に当たり、日本では佳内閣より第二次西園寺内閣にうつって、日英同盟改定が行われた年であります。

秋とは言え楠の緑いまだ深い芝公園に英国宮廷料理を賞味されながら、御歓談のひと時を楽しまれる様、ご案内申し上げます。

昭和60年10月

クレッセントハウス主人 石黒孝次郎

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