これまでの暮らしといま
私がこの仕事をしているなかで好きな時間は、利用者の方の昔の話を聞く時間だ。
思い出話をしている利用者の方の顔はイキイキしているし、
「そういう時代を生きてきたんだよなあ」と勉強になるから
好きだというのももちろんあるのだけど、
一番私が楽しいと感じるのは、もうしっかり意思疎通をとることが難しくなってしまった人の昔の話をご家族などから聞くことだ。
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意思疎通がうまく取れない人のケアは難しいことも多い。
でも、その方のこれまでの話を聞くと、急にその方の日常の動きや、脈略のなかった話が意味を持つことがある。
内股でそろそろと歩いていた方は、ずっと和服が好きで和服ばかり着ていたこと。
床に飲み物を撒いてしまう方は、家で打ち水をするのが習慣だったこと。
今自分がどこにいるのか分からなくても、職員に「ゆっくりしてきなよ」と言ってくれる方は、長年お店の看板娘だったこと。
そんな昔の姿を知ると、急によくわからなかった振る舞いや言葉がその人の生きてきた道筋を示すもののように感じられる。
そして、
ずっと居酒屋さんをやられていたなら、机拭きやお茶を入れるのなら手伝って頂けるんじゃない?」
「昔ながらのお家で暮らされていたなら、ベッドではなく布団の方が落ち着いて過ごしていただけるのでは…」
というように、日々の生活を変え、役割を持っていただくヒントになったりもする。
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「よりよい暮らしをつくる」のが介護職の仕事。そのために生活歴を知ることは重要です。というのはよく聞く言葉だけど、相手の背景を理解したことでその人の言動が全く違うものに見えてくるというのは日常でもよくあることだと思う。
改めて、どんな時も忘れずにいたいスタンスだなあと思っている。
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