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【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 4 (忍殺TRPGソロアドベンチャーシナリオ4より)

前回までのあらすじ:ソウカイヤ首魁ラオモト・カンの息子チバが見学中のニルヴァーナ・トーフ社工場が武装アナキストによって襲撃された。アナキスト排除を命じられたスケアードパイソンは、左腕に移植された大蛇、カシコイと共に工場で殺戮の嵐を巻き起こす。工場を突き進んでいった一人と一匹は、ユバ・トラップにかかっていたニンジャ、プレートメイルを助けた。そこに銃声と悲鳴が響き、二人が向かった先には、暴走するモーターヤブとチバの姿が。チバを助けるため、二人のニンジャはヤブに突貫する!

【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 4

「グフフ、あのガトリングガンは私が受け持とう!」泣き叫びながら走るスケアードパイソンと併走するプレートメイルがカシコイに言った。「貴女はその隙に攻撃を!」

「シューッ」了解したと言うように一瞥をくれたカシコイは、ヤブ右側へと回り込むように弟の軌道を制御した。「頼みましたワイ!」プレートメイルはカシコイに向かって小さくフロント・ダブル・バイセップスを決めると、たった今大ホール中の全職員を休憩させ終わり、次の休憩対象を探すヤブを見据えた。

プレートメイルはちらと後方を振り返ってチバの位置を確認。チバから自身が確認できるよう、そしてガトリングガンの流れ弾がチバへと飛んでいかぬよう位置取りを調整する。ヤブとの距離はタタミ10枚。(グフフ、仕掛けるか!)スリケン・ホルダーから大型スリケンを取り出す!

「バルク!」投擲!風を切って飛ぶスリケン!張り詰めた筋肉から放たれる大型スリケンの威力は、クローンヤクザの腹部を貫通するほどの破壊力を持つのだ!しかし!

ガキン!金属と金属がぶつかりあう音が響き、スリケンはヤブの装甲に虚しく弾き返された!なんたる火力と装甲に関しては一切の妥協を許さないモーター理念より生み出されしロボニンジャの堅牢なボディか!

(グフフーッ、さすがはオムラ社製品!)プレートメイルはさほど慌てず、次々とスリケンを投擲!ガキン!ガキン!ガキン!一つ残らず弾き返される!だがダメージは元より期待していない。泣き叫び突進するスケアードパイソンからヤブの注意を逸らし、あの厄介なガトリングガンをこちらに釘付けにするのが目的なのだ。

「優先休憩対象を補足」ヤブ頭部が回転し残忍なLEDが点滅!休憩への執念に燃えるカメラアイがプレートメイルを捉え、ガトリングガンを構える!

「グフフーッ!」それに対してプレートメイルは白い歯を見せてにこやかに笑み、ヤブに見せつけるようにしてサイド・チェストを決める。右肩を前方にぐっとせり出し、ややアメフトのタックルめいた姿勢になる。ヤブはそれに向かってガトリングガンの銃口を向ける!

「直ちに休憩してください」BRATATATA!秒間数十発の勢いで発射される情け容赦のない致死の弾丸!いかにニンジャといえどこれを受けてはネギトロは免れぬ!だがプレートメイルは笑みもポージングも崩さぬまま、ボディビルじみたシャウトを発した!

「プロポーション!」

シャウトと同時にプレートメイルの全身がまるでワセリンを塗りたくったかのようなまばゆい光沢に包まれ・・・ギンギンギンギン!命中した弾丸は全て弾かれた!ゴウランガ!これこそはニンジャソウルがプレートメイルに与えしニンジャアーツ。全身を鋼鉄と化しあらゆる攻撃からその身を守るジツ、ムテキ・アティチュードである!

BRATATATA!ギンギンギンギン!鋼鉄の体で弾丸を弾くプレートメイル!ムテキ!だが彼に余裕無し!(グフーッ!いかなムテキとてこの銃弾を連続で受けては・・・!)携行火器であるアサルトライフルやマシンガン程度の火力ならばともかく、設置式の重火器であるガトリングガンを弾くのは凄まじい負担になるのだ!

ジツの錬度にもよるが、ムテキと言っても真に無敵になるわけではない。一箇所に集中し、連続して強烈な衝撃・・・例えば絶え間ないチョップ攻撃などを・・・を受け続ければ、ムテキのまま破壊されることもあり得る。プレートメイルのムテキはまだ未熟なものであり、ヤブのガトリングを正面から受け続けるのは非常に危険な行為だった。

突き出した右肩に弾丸が当たり、弾かれる。ポージングに変形のサイド・チェストを選択したのは、体に斜めの角度を付けることで弾丸を弾きやすくするためだが・・・(グフゥ・・・だがこれは、思ったよりも・・・!)BRATATATA!ギンギンギンギンギン!プレートメイルの小手先の工夫を無駄な努力と嘲笑うかのような圧倒的弾幕!

(グフ・・・グフフ・・・グフゥーッ・・・)ジツを維持するためにニューロンを限界まで酷使し、精神力を振り絞る!一瞬でも気を抜けば即座にネギトロだ!

脳が煮えるような感覚!死と隣り合わせのジツ維持!刻一刻と削られていく精神力!常人ならば、いやさニンジャでも恐怖で発狂しかねない状況!そんな中で、プレートメイルは・・・(グフフーッ!善哉!)この状況を心底楽しんでいた!

ALAS!迫る死を前にそれを楽しむとは!極限状況に置かれた精神が狂気に呑まれてしまったのか!?否、否である!彼は狂ってはいないのだ!前方から銃弾の雨を受けながら、プレートメイルは後方からの視線を感じていた・・・ラオモト・チバの視線を!

(グフフーッ!役得!なんたる役得か!ラオモト=サンのご子息に我が筋肉を披露することができるとは・・・!)

プレートメイルはその見た目に似合わず、奥ゆかしく礼儀をわきまえた良識あるニンジャだ(少なくとも筋肉が絡まぬ限り)。彼のポージングは彼なりのTPOをわきまえた形で披露されており、センパイや上司にあたる目上のニンジャに対してはアイサツ時に控えめなポージング・オジギをするのみに留めている。

世間一般の常識からすれば、筋肉を誇示するのはあまり奥ゆかしくなく、度を過ぎればシツレイな行為であるということをプレートメイルは十分に理解している。ニュービー・サラリマンとして初出社後に行った無差別ポージング行為による全方位マッスル・ハラスメントの結果即日解雇された経験から彼はそれを学んでいた。およそ90分の社会人生活であったが、この経験は彼を大きく成長させた。

ましてネオサイタマの帝王であるソウカイヤ首領ラオモト・カン、そしてその息子チバの前でポージング行為に及ぶなどシツレイの極み。その場でケジメ、セプクを言いつけられても仕方がない。プレートメイルはそう考えていた。そこに、このシチュエーションが現出したわけである。

(グフフーッ!これはチバ=サンを守るための筋肉行使!ヤブの銃弾をムテキで弾くため必要な行為であり、私利私欲でのポージングでは全く無い!ゆえに今、私がチバ=サンの前でどれだけ筋肉を披露しようとも決してシツレイには当たらぬのだーッ!)

ニューロンがじわじわと焼かれ、銃弾が徐々に体を苛み始めながらも、プレートメイルは筋肉承認欲求を満たされる充足感に打ち震えていた。この苦境すらも、それを耐え忍ぶ己の筋肉を際立たせる演出とすら思えてくる!

(チバ=サンが見ておられるのだ!ブザマな姿など見せられるワケが無い!見せるべきは我が筋肉とポージングよーッ!グフフフフフーッ!)

ムテキをしているにも関わらず体にはすでに数発の銃弾がめりこみ、かすった銃弾は体を削り取っていく。焼き滅ぼされていくニューロンが恐怖と絶望を生み出すが、チバを守り、且つポージングを見てもらえるというアブハチトラズがニンジャアドレナリンを生み出してそれを上塗りする!彼は狂ってはいない!ネジが外れているのだ!

(グフフフーッ!さあもっと撃ってくるがいい!チバ=サンの目に我が筋肉を焼きつけていただくまたとないチャンス!ニューロンが焼き切れるまで耐えてみせようワイーッ!)

◆◇◆

カシコイは走りながら敵を値踏みする。巨大な鋼鉄の機械を。スリケンをすら弾き返す、分厚い鉄の殻を持つ敵を。どうすればあれを殺せる?何をすれば速やかに弟を危険から遠ざけられる?彼女は過去の戦いを思い出す。固い殻を持った敵を。それを殺戮する手段を。

ケンドーアーマーを着た重サイバネスモトリのサイバーツジギリ。似ているが、小さすぎる。重武装ヤクザベンツ、あるいは武装霊柩車。近いが、もう少し生物的なもの。ドリームランド埋立地のヌシ、エルダー・ベンダーミミック。これだ。これが一番近い。

自動販売機を荷台に満載したトレーラーを殻にしていたこの怪物は、当時1200cmを超えていたカシコイが全力で締め付けても殺せなかった。だが、締め付けで脆くなった部分から頭をこじいれ、内部に潜んでいた柔らかい生き物をひきずりだすことで、それを殺すことができた。

あれと同じだ。あの固い殻は、柔らかい中身を守るためのものだ。殻の脆い部分を狙って頭をこじいれて、中身を殺せばいい。頂点捕食者の動物的直感と人間社会で暮らしてきたことでの知恵、そして弟から供給されるニンジャ第六感を併せ持つ彼女は、未知の敵に対する最適な殺戮手段を瞬時に選択することができる。

機械は自分ほど体が柔軟ではない。動かす必要のある場所は殻で覆えない。カシコイは巨大なサスマタを握るヤブの右腕を見る。その付け根は殻に覆われていない。あそこだ。あそこを狙う。

ヤブの注意と左腕から吐き出される銃弾の雨は、あのおかしなニンジャが引きつけている。あれが死ねば銃弾は弟と自分を襲うだろう。急がねばなるまい。ヤブとの距離、タタミ5枚。カシコイは弟に止まるよう合図する。ここから跳ぶ。

頭を地面につける。素早くトグロを巻いてバネめいた姿勢を取り、全身の筋肉を使って大ジャンプ。コイリング・ヘビ。一瞬でヤブの頭上に。体をしならせ、右腕めがけて頭を伸ばす。右腕に巻きつく。そのままフックロープの巻き上げ機構めいて自身をヤブの右腕に巻き取らせる。巻き取り終わったところで、尾に接続されている弟がヤブの右肩上に着地した。

「アイエエエ!」弟が泣き叫んでいる。だがその手はしっかりとマサカリを握り締め、それをヤブに力任せに叩きつけている。自分や家族を助けようと、恐怖を殺意で塗り潰して必死に敵を殺そうとしているのだ。頼もしい弟だ。カシコイは誇りに思った。

右腕に体の大半を巻きつけている今、コブラ・カラテによる攻撃は不可能。機械にはカナシバリ・ジツも無効。弟のマサカリに任せよう。彼女は微妙に体をくねらせ、弟の暴力が殻に覆われていない腕の付け根へ降り注ぐように導いた。

◆◇◆

「アイエエエ!コワイ!殺す!殺す!」ガキン!ガキン!ガキン!鋼鉄製の重いマサカリが、スケアードパイソンのニンジャ筋力によって振り上げられては叩きつけられる!

「ピガッ、ピガガッ!」ヤブが苦しげな電子音声を発する!いかな頑丈極まるロボニンジャとて、装甲に覆われていない箇所をニンジャにマサカリで攻撃され続ければいずれ破壊される!「アイエエエ!」ガキン!ガキン!散る火花!叩きつけられた箇所が変形し始め、小さな裂け目が生じる!

「休憩!休憩!」サスマタでとりついた敵を排除しようとするヤブ!だが敵はまさにその右腕に取り付いており攻撃不可能!ならば左腕!プレートメイルに向けられていたガトリングガンを動かす!しかし腕部構造上、ガトリングガンの銃口は自身右肩に向けられない!可動範囲の限界だ!「ピガガーッ!?」

「殺す!殺す!殺す!」マサカリを振り下ろす度、攻撃の速度と威力が増していく!とにかく一秒でも早く敵を殺して安心したいというスケアードパイソンの恐怖心が一撃ごとに彼のカラテを研ぎ澄ませていくのだ!「殺す!」ガキィィン!裂け目が広がる!カシコイが頭をこじ入れられる大きさまであと少し!

「ピガガガガガーッ!!」「アイエッ!?」だがここで危険を察したか、ヤブが突如として暴れ始める!ガション!ガション!デタラメな方向へとジャンプを繰り返し、とりついた敵を振り落とそうとする!「アイエエエ!?」ロデオめいて宙に身を躍らせるスケアードパイソン!だが左腕のカシコイがヤブにしっかりと巻きついているため振り落とされることは無い!

「休憩休憩休憩!!」振り落とせぬと判断したヤブはホールの壁に向かってジャンプを始める!ナムサン!右腕ごと壁に叩きつける気か!「アイエエエ!止まれ!殺す!家族だ!」狂乱しながらマサカリを高速で振り下ろす!裂け目が広がる!あと一撃!だがヤブが速い!壁まであと一跳び!歯車と油圧シリンダが駆動して逆関節の脚が屈伸し、今まさに最後のジャンプを・・・その時、ガラス回廊から声!

「ヘビの人ォ!ちょいと眩しいっスよ!」

ヤブのカメラアイは、二つの錆色光球が目前に飛来するのを捉えた。それはぶつかりあい、対消滅して、閃光弾めいた輝きを発し、SPLAAASH!「ピガガーッ!?」目を焼かれ、たたらを踏むヤブ!動きが止まった!

「アイエエエエエエエイヤーッ!!」スケアードパイソンは渾身の力を込めてマサカリを振り下ろす!視力異常無し!賢明なるカシコイは錆色光球対消滅直前に一瞬で状況判断、ヤブの右腕から離れて弟の頭部に巻きついて視界を防ぎ、閃光から目を守ったのだ!CRAAASH!裂け目はついに、カシコイが潜り込める大きさに!

◆◇◆

よく頑張ったね。素早く弟の頬に頭をすり寄せると、カシコイは裂け目からヤブの内部に潜り込む。

モーターと歯車がゴチャゴチャと絡み合うヤブの体内。暗く見通しが効かない。問題ない。カシコイはピット器官で熱を見る。体をくねらせて進む。体内中心部に、一際大きく熱を発するモーター。これだ。これを殺せばいい。

モーターはガッチリと固定されている。引きずり出すことは不可能。問題ない。「オゴッ」カシコイは手榴弾を吐き出す。アナキストを殺して飲み込んでおいたものだ。これが何かは知らない。だが殺すためのものであることはわかる。使い方もだ。

手榴弾をくわえて固定する。ピンに舌を絡ませる。引き抜く。モーターに向かって放る。口内のヤコブソン器官が火薬の匂いを拾う。アブナイだ。カシコイは急ぎ体をくねらせて戻る。

体を引き抜く。ヤブが視界復帰。壁に向かってジャンプの構え。素早くコイリング・ヘビ。バネ仕掛けめいてヤブとは逆方向に跳ぶ。壁に激突するヤブ。火薬の匂い。アブナイだ。空中で弟の体に巻きつく。頭からつま先までをすっぽり覆い隠し、盾になる。傷一つ付けさせはしない。

ヤブが爆ぜる。破片が飛んでくる。筋肉を強張らせる。破片が突き刺さる。貫通はしない。問題ない。弟には届かせない。さらに二つ。三つ。問題ない。貫通はしていない。問題ない。

カラテ判定:2,3,6,2 【成功】

床に落下。衝撃は全て自分が吸収。弟は傷つかない。大丈夫。怖くない。ゴロゴロと転がる。止まる。素早く巻きつきを解き、弟の体をチェック。傷一つ無い。良かった。

「アイエエエ!カシコイ、ダイジョブ!?」姉に突き刺さった破片を見た弟は、おっかなびっくり破片をつまみ取る。優しい子。カシコイは改めて弟の頬を撫でる。ヤブを見る。上半身が吹き飛んでいた。敵は殺した。安心だ。弟を守れた。本当に良かった。

「おい」

とびきり不機嫌な、幼い声がかけられた。上等なスーツと端正な顔立ちをトーフまみれにした少年が、カタナのごとき目で床に這う姉弟を睨みすえていた。

◆◇◆

「おい。なんだあのブザマなイクサは」

ラオモト・チバは苛立っていた。気分よくトーフ工場見学ツアーを楽しんでいたら、突如としてアナキストが襲撃してツアーは中止。暴動は収まるどころか悪化する一方で、避難先の大ホールには破壊されたプラントから流れ出したトーフエキスが氾濫してトーフまみれになり、トドメとばかりに狂ったモーターヤブが現われて護衛のクローンヤクザや職員を虐殺する始末だ。

こんな日に限ってフジオ・カタクラ・・・ラオモト家の忠実なるカタナ、ダークニンジャはラオモト・カンから受けた任務で他行中(アナキスト襲撃後すぐに召集がかけられたが)。チバ自身もたかがトーフ工場の見学ツアーにニンジャの護衛など大仰で煩わしいとしてクローンヤクザ数名のみを供としたのだが、これが完全に裏目に出た。自身の見通しが甘かったことを認めたくないチバはさらに不機嫌になった。

見学ツアーを台無しにされたこと。頭からトーフエキスを被ったこと。ヤブの出現によって命の危険に晒されたこと。そして、やっと駆けつけたニンジャがあまりにブザマだったことでチバの怒りは頂点に達し、彼の堪忍袋は灼熱よりなお温まっていた。

「あのパンツ一枚の見苦しい筋肉ダルマは、まだいいとする」閉じた扇子でモスト・マスキュラーを決めている後方のプレートメイルを指す。銃弾の雨から解放された彼は、ニューロンの酷使で目と耳と鼻、肉を削り取られた体からそれぞれ大量に出血し、体力精神力共に限界を迎えて白目をむいて気絶していた。

それでもなおサイド・チェストからモスト・マスキュラーへと移行し、ポージングを決めたまま気絶したのは、チバの前で倒れるブザマを晒すまい、どうせ晒すなら筋肉を、というプレートメイルの矜持である。彼はネジが外れているのだ。

「見た目はどうあれ、ガトリングガンを引き受けたのはアッパレだからな。だが」這いつくばりながら呆けたような顔で自身を見上げる枯れ木めいた異常長身ニンジャを扇子でピシャリと指した。「なんだ貴様の・・・あのブザマなイクサは!?このぼくの目の前で、よくもあんな不細工なカラテを見せられたものだ!」叱責!

「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」理由はわからないがなぜか怒られている!敵を殺して家族を守り、安心しきっていたスケアードパイソンは混乱しながらも素早くドゲザした!だが異常長身を不自然に折りたたむ彼のドゲザは腹が立つほど不恰好であり、それがさらにチバの怒りに火を注ぐ!

「なんだその不気味なドゲザは!ぼくをナメているのか!」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」「ピィピィとみっともなく泣き叫ぶニンジャなど初めて見たぞ!」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」

「なんだあの切れ味の悪いマサカリは!フジオのカタナなら一撃でヤブの腕を落としていたぞ!」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」「それしか言えないのか低脳のカスめ!大体なんだそのヘビは!」「アッ、この子はカシコイ=サンです。女の子なの」「ぼくに向かってなんだそのクチの利き方は!?」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」

チバの怒りは収まらず、その端正な顔は怒りで真っ赤だ。髪にかかったトーフエキスが沸騰してユバにならんばかりにヒートアップ!「もう許せん!貴様はケジメだ!帰ったら父上に進言するからな!」「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」ナムサン!なんという理不尽!チバ救出の大任を果たしながら、八つ当たりでケジメされてしまうのか・・・!?その時!

「シューッ」「ムッ!?」カシコイが鎌首をもたげ、チバの前に顔を突き出した。「なんだヘビめ!貴様もケジメされたいか!?」自身を頭から飲み込むほどの大蛇を前にしても、チバは一切の動揺を見せない。ニンジャすら格下と見下す幼い暴君にとって、自分と父親以外の全ての生物に対して恐れを抱くことなどありえないのだ。

カシコイはチバに対してハイ・オイランめいた艶やかで奥ゆかしいヘビ・オジギをすると・・・護衛クローンヤクザ死体の懐から純白の高級オーガニック・シルクハンカチを口にくわえて取り出し、それでチバに付着したトーフエキスを拭い始めたのだ!

「ム・・・」さすがの帝王とて想定外の事態。チバはやや戸惑いながらも、この奇妙な奉仕清掃を受けた。幼いながらも帝王学を全身に染み渡らせている彼は、他者の前で動揺を見せてナメられるような態度は決して表に出さない。

「フン!芸達者なヘビだな」髪やスーツからトーフを払われ、やや機嫌を直すチバ。カシコイは再び恭しくオジギ。再び護衛クローンヤクザ死体の懐を探る。

「シューッ」「・・・ほう」カシコイがチバに差し出したのは葉巻ケースだ。舌と牙を使い器用に開けられたケースからチバが一本つまみ取ると、今度はライターを差し出す。火を恐れぬカシコイは、これも舌と牙を使って着火。チバがくわえた葉巻に火を付けた。

カシコイのこの献身ぶりには理由がある。チバの発する帝王のオーラとカリスマを感じ取った彼女は、この小さくて利口で大人びてワガママでカネのニオイがして、何よりスゴイカワイイな子供が、弟と自分が得た新たな家族であるソウカイヤにとって重要な存在であると直感した。

故に(かつて父親に彼女がそうしたような)献身的態度を取って気に入られれば、弟が今後家族の中で有利な立場になったり、カネを得られたりするはず。彼女はそう判断した。加えるならチバがスゴイカワイイなので世話を焼きたくなったのだ。

「・・・フゥーッ」ヘビに供された葉巻を一吸いし、煙を吐き出すと、「ムッハハハハハ!面白いヘビだ!気に入ったぞ、カシコイ=サン!」チバは一気に上機嫌になった!暴君なので気分が変わりやすいのだ!カシコイは奥ゆかしくオジギ!

「おい貴様!カシコイ=サンに免じてケジメは取り止めにしてやろう!感謝しておけよ!」「アイエエエエ!アリガトゴザイマス!」「ムハハハハ!情けないニンジャめ!」上機嫌になったチバはスケアードパイソンにも道化めいた滑稽さを見出し、おおいに笑った。

「よし帰るぞ!供をしろ!ぼくは疲れたぞ!服も着替えたい!」暴君らしい決断的口調で言い、自信に満ちた足取りで歩き始めるチバ。「シューッ・・・」「ム?」カシコイはその前に回り込み、頭を下げる。その頭の上には、工場見学VIP専用高級ザブトン付きパイプ椅子が乗せられていた。足部分はカシコイがくわえ、しっかりと固定されている。

「ム・・・ムッハハハハハハ!どこまでも気が利くな!今まで見てきたどのオイランよりも奥ゆかしいぞ、カシコイ=サン!」チバは笑い、トーフに濡れた靴を脱ぎ捨ててザブトンの上にアグラした!「よし、進め!」扇子を広げ前進の号令をかけるチバ!まるで江戸時代のショーグンだ!

「シューッ!」カシコイは決してチバが落ちぬよう揺れぬよう、静かに、しかし素早く進み出す。「ムハハハハ!快適!」チバは扇子を仰いで笑う。「アイエエエ!待ってーッ!」スケアードパイソンが後を追い、ヨタヨタと走っていった。

死体とトーフエキスが氾濫し、あちこちから火の手が上がっている工場内を、大蛇の頭の上に乗ったチバは進む。まるでタノシイランドのアトラクションのようなその光景を見て、チバ救出に駆けつけた他のニンジャ達は呆然と立ち尽くすのみであった。

◆◇◆

「ハァーッ・・・疲れたぁ・・・」

ヘビに乗って去っていくチバと、後ろを追いかける様子のおかしいニンジャをガラスの割れた回廊から見届けたデッドレインは大きく息をつき、その場に座り込んだ。このトーフ工場での騒動も、ようやく一段落したものらしいと安堵して。

ヤブを倒した後もデッドレインの災難は続いた。ユバ・トラップにかかったニュービー達を何人を助け、重サイバネアナキストやスモトリアナキストと言った難敵に絡まれて倒し、またもヤブに遭遇してこれも倒し、火に追われて飛び出してきたバッファローほどもあるバイオドブネズミの突進を避け、この暴動でニンジャソウルがディセンションした労働者ニンジャをソウカイヤに勧誘し、騒ぎに乗じてバイオインゴットを狙って忍び込んできたバイオニンジャと出会ってインゴット探しを手伝い、お礼にバイオパンダのジャーキー(割とイケる)をもらった。

そうこうしている間にとうとうチバのところに辿り着いてみればすでにイクサの真っ最中。先行したプレートメイルはガトリングガンをムテキで受けて一歩も動けない様子。ヤブに取りついてマサカリを振り回しているのは入り口で見たあの様子のおかしいヘビのニンジャで、今にもヤブのジャンプで壁に叩きつけられそうな状況だった。

放っておくわけにもいかず、かといって飛び出してカラテするには間に合わぬと思ったデッドレインは残り少ない精神力を振り絞ってダーティ・カラテミサイルによる目潰し援護射撃を行ったのだ。

結果的にはそれがスケアードパイソンとカシコイ、そしてチバとプレートメイルを救うことになったのだが・・・「最後に出てきてカラテミサイル二発撃っただけじゃ、チバ=サンを助けたってことにはならないっスよねぇ・・・自分から言い出すのもなんかダサいし」

骨折り損のなんとやら。限界まで肉体とニューロンを痛めつけ、得られたものと言えばバイオパンダのジャーキーだけ(もう半分食べた)。今日はブツメツだったろうか。ジツの酷使でニューロンがジクジクと痛む。今更のように流れてきた鼻血を拭う。ポージングしたまま全く動かぬプレートメイルの様子が心配だが、とりあえず心音はしているので大丈夫だろう。

「キンボシ、持ってかれちゃったなぁ・・・」「全くだぜ。まさかあのイカレたヘビがキンボシあげるとはな」「エッ!?」突如として背後からかけられた声に飛び上がると、そこには威圧的なリーゼントが特徴的な恐るべきシックスゲイツのニンジャが立っていた。

「ドーモ、ソニックブーム=サン。デッドレインです」「ドーモ、ソニックブームです。随分お疲れのようじゃねぇか、エエッ?」ソニックブームは血とトーフに塗れてボロボロになったデッドレインの錆色装束を見て言った。

口調はヤクザのそれだが、威圧感はさほど無い。暴力のプロであるこのヤクザニンジャは、威圧しケツを蹴り上げないとマトモに働かぬナメたニンジャと、その必要が無いニンジャで対応を変える。デッドレインは後者で、マトモに使えると判断されたニンジャだ。

「ソニックブーム=サンこそ、わざわざ現場まで?」「これだけハデに死人が出てンだ。何人かニンジャになるヤツが出てもおかしくねェ。スカウト部門が座ってるワケにもいかねェだろが、エエッ?」確かにそうだろう。実際デッドレインも先ほど一人ディセンションしたてのニンジャに出会っている。

「後はまぁ、研修だな・・・オゥ、テメェら」ソニックブームは後ろを振り返る。そこにはいつの間にか、3人から5人ほどのニンジャ集団が複数控えていた。彼らはニュービーの中でもソニックブームやビホルダー、バンディットに見出され、チーム名を戴いた新進気鋭のニンジャチームだ。

「死体を検めて、ニンジャになるヤツがいねェか調べて来い。見つけたらソウカイヤの流儀と社会のルールをカラテで叩き込んでやれ。おかしなジツを使うヤツがいたら即報告だ。アーチ級かもしれねェからな・・・モタモタすんな、とっとと行けッコラー!」「「「ヨロコンデー!」」」

ニンジャチームが工場内へ散っていくのを見届けると、ソニックブームは煙草に火を付けた。「いねェとは思うが、万一アーチ級が出たら厄介だ。だがチバ若の救出にシックスゲイツ級が駆り出されてる今ならリスクは低く済む。俺らで対処できるからな」倒れていたパイプ椅子を拾いあげ、どっかと座り込む。

「絶好の研修チャンスだ。逃がすワケにはいかねェだろが。エエッ?」「確かに、そっスね」デッドレインは同意した。シックスゲイツ級が複数いる今なら、仮にあの死神が現われても返り討ちにできるだろう。

「つーワケで、ここから先はスカウトの仕事だ。テメェはあの筋肉ダルマを叩き起こして連れて帰れ・・・ああ、それとな」ソニックブームはニヤリと笑った。「このミッションに参加した連中全員にラオモト=サンからボーナスが出るって話だ。マジメに働くといいコトあるだろが、エエッ?」疲弊しきったデッドレインの顔に、ようやく生気が戻った。

◆◇◆

「ン・・・?」デッドレインとプレートメイルが去ってすぐ、ソニックブームの携帯IRCにノーティスが入った。LEDは赤。緊急だ。個人宛ではなく、ソウカイネット全域に発信されている。

「労働者の一人がニンジャ化。装束とメンポを自力で生成。見たこともないヘンゲヨーカイ・ジツを使う。アーチ級ソウル憑依者の可能性有り。救援を求む」

発信者は先ほどのチームからではなく、このミッションに参加していたサンシタだ。名前はアンダースリー。チバ発見後全員に伝達された帰還命令を受け、撤収する途中に遭遇したらしい。

「装束とメンポを生成・・・このサンシタがビビって見間違えたんじゃなけりゃ、まず間違いねェな」煙草をもみ消し、立ち上がる。発信ポイントはここからやや遠い。だが近くには上位アンダーカード、次期シックスゲイツと呼べるニンジャが二人。連絡を入れ、救援に向かわせる。

アーチ級と言ってもピンキリだが、早めに対処しておくに越したことはない。中には街一つを破壊したり、数百人規模の死者を出すようなジツを難なく行使する、まさしく半神と呼ぶに相応しいニンジャもいるという。ネオサイタマを支配し、闇の社会秩序を保つソウカイヤとして、到底放置しておけるものではない。

「当たりクジ引いて調子こいてるガキに、社会のルールってヤツを叩き込んでやらねェとな。エエッ?」

メンポの下で凶暴な笑みを作り、ソニックブームは色つきのカゼとなって工場を駆け出した。

◆◇◆

「GRRRRRR・・・」

ユバ・トラップが作動して降りた隔壁前で、ダートドラゴンは己が真に半神的存在・・・ニンジャになったことを悟った。

ネバダ砂漠の支配者であったトレマー・ニンジャの憑依者である彼は、ディセンション時に起こった肉体の不可逆変異によって視覚と聴覚と嗅覚をまとめて失った。

彼の目、耳、鼻は盛り上がった肉によって不恰好なハンダ付けをされたような状態になり、口は肉でできた花弁めいて四つに大きく裂け、その中には三本の肉触手が蠢く。肉触手の先端にはやはり花弁めいた口が開き、それぞれが別々の意思を持つ生物のようにうねっていた。

これはヘンゲヨーカイ・ジツではない。彼は永久にこのままなのだ。ニンジャ伝説に詳しい考古学者、あるいは永劫の時を生きるリアルニンジャならば、これがモンゴル砂漠に君臨したワーム・ニンジャからメンキョを授かり、さらにドトン・ジツを極めんとして米国ネバダ州に渡り、数百年を地中で過ごす内に肉体を変異させていったトレマー・ニンジャそのものの姿であることに気づいただろう。

「GRRRR・・・」五感の内三つを失った代わりに、ダートドラゴンは異常なまでに鋭いニンジャ感知能力を得た。ニンジャの肉体のみが発する独特の振動波(呼吸やニンジャ存在感など)を鋭敏化された皮膚感覚でキャッチし、目標を補足するのだ。無論ニンジャのみならず、他の音や振動も手に取るようにわかる。

憑依直後、たまたま通りがかったアンダースリーと名乗るニンジャとアイサツを交わしたダートドラゴンは、本能の赴くままにアンダースリーに襲いかかり、隔壁に追い詰めて丸呑みにした。

狩りは驚くほどに容易かった。体やニューロンの機構そのものがニンジャ追跡及びニンジャ丸呑みに最適化されているようだった。余計な知性がそぎ落とされた感覚が心地良い。全身がただ一つの目的のために稼動する機械になったかのような清清しさ。

ニンジャを食うニンジャ。ダートドラゴンは己がこの世界の最上位存在であることを確信した。伝説上の怪物であるニンジャですらが、自分にとってはエサでしかない。

工場敷地内には数十のニンジャ振動波がある。広大な敷地内のどこにいるかがハッキリとわかる。これらは全部自分のエサだ。皆追い詰め、丸呑みにしてやろう。

エサが二つ、彼に近づいてきた。「GRRRR・・・」手間がかからなくて良い。ダートドラゴンは肉触手をそれぞれのエサに向けて放った!「イヤーッ!」

「「イヤーッ!」」「「グワーッ!?」

激痛にのたうつダートドラゴン!慌てて引き戻した肉触手の内一本は先端部分がグズグズと崩れ、急速に劣化したかのように崩壊している。もう一本はなおひどい。先端部の口が強引に引きちぎられ、さらには触手全体の中ほどまでがヒラキにされていた。

「なるほど、確かにこれはアーチ級。だが、クジ運が強いとは言えんな。ほとんどケモノではないか。知性もあるかどうか怪しいぞ」右手に黒いクナイを持ったニンジャが歩み出る。よく見ればそのクナイは黒くこごったこの世ならざる泥で生成されており、不吉な存在感を放っていた。

「ハッ・・・イイじゃねぇか。リー先生のとこにでも持ちこみゃ、ちっとは使い道があるだろうよ」もう一人のニンジャは赤滅する両目を持っていた。手を振ると、ちぎれた肉触手がべしゃりと壁に叩きつけられた。

「シックスゲイツを待つまでもねぇ。俺が片づけてやる」「殺すなよ。触手と手足をちぎって無力化しろ。稀少なアーチ級ソウルだ。ラオモト=サンの八つ目のソウルに選ばれるかもしれん」「ヘッ、引きちぎれと来たかよ。俺の得意分野じゃねぇか」

二人のソウカイニンジャは不敵な態度を崩さない。肉触手を傷つけられたダートドラゴンは怒りに震え、奇怪な口からくぐもるようなアイサツを発した。

「GRRRR・・・ドーモ・・・ダートドラゴンデス・・・」手練のソウカイニンジャ二人はアイサツを返す。「ドーモ、ナンバーテンです」「ドーモ、メギンギョルズです」

◆◇◆

その日、トコロザワ・ピラーはオマツリめいた活気で溢れていた。数時間前にチバ救出の緊急ミッションを出した時の張り詰めたアトモスフィアが嘘のようだ。

サンシタからベテラン、シックスゲイツに至るまで全てのニンジャがチバの無事を心から喜び、救出作戦が不幸な結果に終わった場合ラオモト・カンの怒りの矛先がどこに向くかという恐れが取り除かれたことに心底安堵していた。

暴動発生と鎮圧失敗の責任を追及されることを恐れたヨロシサン・フーズは、親会社であるヨロシサン製薬を通じてすぐさま莫大な金額の「誠意」をラオモトに献上した。上機嫌のラオモトはこの誠意の内のいくばくかを使い、チバ救出に従事したニンジャ全てにボーナスとして与えた。

ラオモト・カン自身ではなくチバのために働いたことでラオモト家に対する献身と忠誠を認められ、評価されたニンジャ達は喜び合い、互いの健闘を讃え、より一層の忠誠を自らの装束やメンポに記された誇りあるクロスカタナに誓った。

「GRRRRR・・・タスケテ・・・タスケ・・・」

喜びに包まれるトコロザワ・ピラーの中で、全ての武器をもがれ拘束された状態で49階の不気味なラボに運び込まれたニンジャだけが、絶望のうめき声を上げていた。

【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 4 終わり。5へ続く

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