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【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 3 (忍殺TRPGソロアドベンチャーシナリオ4より)

前回までのあらすじ:ニルヴァーナ・トーフ社工場が危険な武装アナキストの襲撃を受けた。工場見学中だったソウカイヤ首魁ラオモト・カンの末子ラオモト・カンを救出するため緊急召集を受けるソウカイニンジャ達。真っ先に工場へ到着したニュービーニンジャ、スケアードパイソンは、その著しく低い知性を危惧されてチバ救出ではなくアナキスト殲滅だけを指示される。左腕の大蛇、カシコイの活躍でアナキストを殺戮していくスケアードパイソン。全ての敵を殺し、家族であるソウカイニンジャ達を助けるため、ヘビとニンジャの姉弟は工場の奥へと突き進んでいく・・・

【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 3

「ウウ・・・俺は一体・・・?」

警備労働者にマシンガンで撃たれた武装アナキスト、マモジ・コトワは、体中に満ち溢れる不思議な活力に戸惑いながら目を覚ました。体が軽い。見れば撃たれたはずの傷口は塞がっており、乱闘で折れたはずの腕を動かしても何の痛みもない。

とにかく起き上がらねばと思い、体を起こそうとする。「イヤーッ!・・・!?」自身でも予期せぬ力強いシャウトを叫んだかと思うと、彼は寝た姿勢のまま空中高く跳ね上がり、そのままくるくると回転して地面に着地していた。ナムサン!これはまるでニンジャの動きではないか・・・!?

(なんだ今のは!?まるでニンジャじゃないか!?)自分の身体能力に驚愕するマモジ!(いや、これは・・・実際ニンジャなのか!?)その通り、実際ニンジャであった!マシンガンで撃たれ瀕死になった彼にニンジャソウルが憑依したのである!

「ウオオーッ!俺はニンジャだ!ニンジャなんだ!」マモジが己をニンジャとして認識すると同時に、彼のニューロンに名乗るべきニンジャネームが浮かんだ!「俺は・・・アナキズム!」マモジは己の新たな名を宣言するように叫んだ!恐るべき無政府主義ニンジャ、アナキズムの誕生である!

「アナーキー・イン・ザ・トーフ・ファクトリー!支配抑圧の象徴たる暗黒メガコーポを俺のアナーキー・カラテで粉砕アババババーッ!?」BRATATATA!「サヨナラ!」爆発四散!恐るべき無政府主義ニンジャ、アナキズムの最期である!

「休憩を受け入れました。ありがとうございます」アナキズムが血煙となって爆発四散するのを確認すると、モーターヤブは左腕のガトリングガンを停止させた。このオムラ製ロボニンジャの持つ圧倒的火力は、生半なニンジャを葬り去るに十分な威力を持っているのだ。

ガション、ガション、ガション。さらに三機のモーターヤブが工場奥より進み出る。その内一機の脚部にはクズ肉と化したハッカー・アナキストの肉片がこびりついていた。このハッカーは暴徒鎮圧用としてこの工場に配備されていた四機のモーターヤブをハッキングしアナキスト側の手勢としたが、曖昧極まるオムラ社製AIの恐ろしさを甘く見ていたため、真っ先に休憩対象とされたのだ。

「休憩対象を検索中」「検索中」「検索中」ロボニンジャ達は恐るべき休憩への意気込みを感じさせる電子音声を発しながら別々の通路へと進んでいく。しばらくすると、工場のあちこちから悲鳴と断末魔、それにガトリングガンの銃声が聞こえ始めた。休憩時間が始まったのだ。

おお、ナムアミダブツ!炎と有毒ガスとトーフエキスに包まれ、アナキストとニンジャが跋扈する工場内に、新たな脅威が解き放たれたのだ!

◆◇◆

「アバーッ!」「ハァッーッ!ハァーッ!家族!」工場内を走り回るスケアードパイソンが闇雲に振り回したマサカリがアナキストの首を跳ね飛ばした。「シューッ」彼の左腕から生えたバイオパイソンのカシコイは、その巨体を巧みにくねらせて重心移動を行いスケアードパイソンの動きを制御。振り回すマサカリがアナキストだけに当たり、壁や機械や労働者に当たらぬよう誘導する。

「家族が大事!他はみんな敵!殺せば安心!死体は怖くない!」父親の教えをチャントめいて復唱しながら進むスケアードパイソン。彼の通った後には無数の首と手足と肉片が散らばる。

「アイエエエ化け物ーッ!」BLAMBLAMBLAM!マサカリとヘビを振り回すゴア製造機怪人を見て恐怖した労働者が銃撃!「家族が大事!」錯乱しているスケアードパイソンはこれに全く気づかぬが、「シューッ!」落ちていたカタナを口にくわえたカシコイが銃弾を全て叩き落す!ゴウランガ!なんたる飛来する銃弾が持つ熱に反応するヘビ特有のピット器官とコブラ・カラテのワザマエが合わさったタツジン的ヘビ・ディフェンスか!

「アイエッ!?ヘビがカタナアバーッ!」脳天にカタナを突き刺され労働者即死!「シューッ!」カシコイは怒りに燃えて労働者ケバブ死体を睨む。賢明なる彼女は労働者が殺害対象ではないことを動物的本能で察していた。だが弟を攻撃するなら躊躇わず殺す。

散らばる首の中にはアナキストの他にも相当数の労働者やトーフ・マニアのものが混じっていた。スケアードパイソンに恐怖して攻撃した者もいれば、不運にも敵対存在との乱戦中に流れ弾を寄越してしまった者もいる。故意であろうと無かろうと、彼女が弟を危険に晒した存在を許すことは決して無い。

アナキストを殺し、労働者を殺し、ヨタモノを殺しながら、姉弟はトーフ工場の奥へ奥へと突き進み、とうとう製造プラントエリアに出た。プラントには「四角い存在」「凝縮したアモルファス」などの製品名がショドーされており、そこは偶然にも工場見学ルートであった。

ラオモト・チバはつい先ほどまでここを見学していたのだが、暴動発生を知ったチバの護衛クローンヤクザが彼をこの先の大ホールへと避難させていた。そんなことを露知らぬスケアードパイソンはひたすらに敵の殺戮を求めて突き進むのみであった。

◆◇◆

「休憩!」BRATATATA!「イヤーッ!」

横薙ぎに吐き出される弾丸を連続側転によって回避したデッドレインはそのまま跳躍し、巨大なトーフ・プレス機の陰に身を隠した。

「休憩対象を検索中」目標を見失い、その場で足踏みしながら方向を変えるヤブ。「アイエッ!?」スキを突いてカラテを仕掛けようと突貫したニュービーニンジャは、突如として眼前に向けられた銃口から身をかわそうと「休憩対象を発見。ありがとうございます」BRATATATA!「サヨナラ!」爆発四散!

「ウェー・・・ナムアミダブツ」敬遠なブディストである年の離れた友人に教わった略式ネンブツを小声で唱えたデッドレインは、トーフ・プレス機の隙間からヤブの様子を窺う。「そこらの野良サンシタよか余程おっかねぇスね、ありゃ」

工場内にはモーターヤブが配備されており、可能性は低いがアナキストにハッキングされているかも知れぬとソニックブームからIRCで聞かされてはいたものの、いざ相対してみるとその威圧感は凄まじいものがあった。

ニンジャであろうと容易くネギトロに変える左腕の無慈悲なるガトリングガン。右腕のサスマタはバイオスモトリであろうと易々とその体を押さえ込むであろう威容。オムラ社らしい無骨な鋼鉄ボディは堅牢な装甲で覆われ、ニンジャのスリケンすら弾き返す。

「ハズレ引いたっスかね、こりゃ・・・プレートメイル=サンに付いてった方が良かったかもなぁ」入り口で別れた筋骨隆々たるニンジャのことを考えてぼやく。

敵はニンジャにとって何の障害にもならぬアナキスト。ならば戦力を集中することに意味は無い。二手に分かれた方がより早くチバを発見・保護できる・・・彼らはそう判断した。それ自体は妥当な判断だったはずだが、まさかこんな難物に遭遇してしまうとは。

「イ、イヤーッ!」ヤブの背後を取ったニュービーが必死にスリケンを投擲!狙いは左腕のガトリングガン、装甲に覆われていない駆動部分!しかしワザマエ不足が祟ってか狙いが逸れて当たったのは背面装甲!スリケンは金属音を立てて虚しく弾き返される!「休憩対象を感知」頭部のLEDが光る。

ガシュン!ヤブは振り向くことなく、その逆関節の脚を油圧駆動させて後方へジャンプ!「エッ・・・アバーッ!?」着地点にいたニュービーはヤブの重量に押し潰され爆発四散!「サヨナラ!」

「ナムアミダブツ・・・」デッドレインは周囲を窺う。ヤブの周りは未だ数人のソウカイニンジャが取り囲んでいるが、いずれもニンジャとなって日の浅いニュービー、サンシタだ。イクサの経験も乏しく、このミッションが初任務というニンジャも少なからずいる。とてもロボニンジャを相手に出来るカラテは持ってはいまい。

チバ救出という重大ミッションを与えるに及ばずと判断された彼らに下された命令はアナキスト及び反ニルヴァーナ・トーフ存在を排除し、工場への被害を可能な限り少なく抑えることだ。いかなサンシタといえアナキストやトーフ・マニアのヨタモノ程度にニンジャが遅れを取ることは考えられず、実戦半分研修半分のイージー・ミッションと思われた・・・暴走するロボニンジャが現われるまでは。

アナキストの中途半端なハッキングによって暴走したモーターヤブは、ただ移動するだけで工場内のあらゆる設備を破壊するのみならず、動くものを全てを労働者と認識、強制的に休憩を取らせようとガトリングガンやサスマタで殺戮の限りを尽くす。無論、その休憩行為の余波で工場設備が破壊されるのは言うまでもない。

この狂ったロボニンジャは明らかに反ニルヴァーナ・トーフ存在であり、ニュービー達が排除すべき対象であった。しかしカラテとワザマエに乏しく、連携行動も取れぬニュービーが対処できる相手ではない。たった今爆発四散した二人のニュービーを見ても明らかであろう。

「どうしたもんスかね、これ」デッドレインに下された命令はラオモト・チバ救出であり、モーターヤブ撃破ではない。彼の脚力ならばヤブの攻撃を振り切りこの場を抜け出すことなど造作も無い。

つまらぬ雑事に関わらず、弱者はキリステし、チバ救出に専念するのが真のソウカイニンジャとしての姿であろう。だが・・・恐怖と絶望に体を震わせながら、それでもなお任務を投げ出さすまいと踏みとどまるニュービーの姿。

「新米を放り捨ててイチ抜けたとか、そんなダサイこと」デッドレインの周囲に超自然のコロイド光が生まれた。それは大気中の重金属と混じりあい、四つの錆色光球となる。「センパイができるかっつー話なんスよねぇ!」トーフ・プレス機の陰から飛び出す!「イヤーッ!」

ヤブが左腕を動かすより早く、デッドレインは周囲に浮かぶ錆色光球を三発射出!ヒトダマめいてヒュルヒュルと飛ぶそれを撃墜せんとガトリング掃射の構えを取るヤブ!だが錆色光球が速い!ヤブのタタミ三枚前まで飛んできた光球は、内一発が急激に軌道を変えてヤブの背後に回りこみ、残る二発がヤブの頭部へ!

(効いてくれよ・・・!)ヤブにとって分厚い装甲に覆われた頭部は急所足り得ない。直撃したところでダメージは期待できまい。だが、デッドレインの狙いはそこでは無かった。

SPLAAASH!「ピガガーッ!?」異音を発してたたらを踏むヤブ!「よッし効いたあ!」デッドレインは小さく拳を握る!おお、一体何が起こったというのか!?

ヤブに着弾する直前、錆色光球は互いにぶつかり合い対消滅した。その際に生まれた閃光弾めいた輝きがヤブのLEDカメラアイを焼いたのだ!

ゴウランガ!これこそはデッドレインの操るダーティ・カラテミサイルの妙技!重金属を取り込み生成される彼独特のカラテミサイルと、緻密なるカラテミサイル操作によって繰り出されるヒサツ・ワザだ!

「ピガーッ!休憩休憩休憩!」カメラを焼かれたヤブはデタラメな方向にガトリングガンとサスマタを振り回す!「イヤーッ!」デッドレインは残る一発の錆色光球を従えてヤブに向かって跳躍!空中で体をひねってサスマタを避け、ヤブ右肩を蹴ってさらに跳躍!

「休憩!」衝撃により休憩対象を感知したヤブが左腕を上空に向けるも「ピガーッ!?」先ほど背後に回りこんだカラテミサイルがヤブの左脚関節部に着弾!姿勢を崩しヒザを折るヤブのガトリングガン駆動部目がけデッドレインは最後の錆色光球を射出、それを追いかけるように落下しながらのカワラ割りパンチを繰り出す!

「イヤーッ!」CRAAAASH!「ピガガガガーッ!」

デッドレインの全体重と全カラテを乗せた高高度垂直落下カワラ割りパンチは、ダーティカラテミサイルと同時にガトリングガンに直撃!カラテとカラテをかけあわせたことにより100倍即ち二倍の威力で駆動部は見るも無残に完全破壊!ガトリングガン無力化!

さらにヒザを折っていたところに上からの攻撃を受けたことにより、左足関節にヤブ自身の重量そしてデッドレインのカラテ衝撃が容赦なく襲いかかった!「ピガーッ!」バランスを崩し、左半身を大きく沈み込ませるヤブ!

デッドレインはヤブを蹴って再跳躍し地面に着地、油断なくザンシンを決める。カメラ焼き付きから回復したヤブは左腕を向けるも、ひしゃげねじれた駆動部は不機嫌そうな唸りを上げるのみ。ならばと近づいてサスマタを振るおうとするが、多大なダメージを受けた左足関節部はメキメキと音を立てたのち、自重に押し潰されて完全破損した。

「たたたたただちに休憩休憩休憩」銃を失い、機動力を奪われ、残された右脚で床を蹴りながらサスマタを振り回すヤブ。ロボニンジャが足をもがれた虫めいて無闇にジタバタと動き回る鉄クズと化したのを確認すると、「エート・・・あとヨロシク」周囲のニュービー達に始末を任せ、デッドレインは走り出した。

随分時間を食ってしまった。状況的に仕方なかったこととはいえ、他ニンジャを出し抜いてのチバ救出、そしてそれに付随するボーナス獲得はもはや厳しいだろう。(トロでも腹いっぱい食べたかったんスけどねぇ)友人の握るスシを思い出し、ため息をつく。

未だIRCにチバ発見の報は無し。最悪の事態も考えられるが、デッドレインはさほど悲観していなかった。彼は帝王ラオモト・カンを、そしてその血を最も色濃く受け継いだ息子チバを知っているからだ。

モータルでありながらニンジャを格下の存在と見なして全く恐れぬ小さな暴君の風格は、デッドレインや他のニンジャを圧倒してやまぬ。チバが幼く、また非ニンジャであることを加味してなお、あの帝王がこんなトーフ工場暴動に巻き込まれて死ぬことなど考えられなかった。ラオモト親子が苦境に陥る姿など、彼らの圧倒的カリスマを知るソウカイニンジャには想像すらできぬのだ。

状況が状況なだけにシックスゲイツ級も動員されているという話だ。間もなくチバは保護されるだろう。その栄誉とボーナスを得るニンジャは誰だろうか。(知り合いがボーナスGETしてスシおごってくれるとか無いっスかね。プレートメイル=サンとか)年相応に調子のいい考えを思い浮かべながら、デッドレインは工場内を駆ける。

◆◇◆


「シュッ!」「アイエッ!?どうしたのカシコイ!?」泣き叫びながら細い廊下を走っていたスケアードパイソンは、カシコイのただならぬ様子に気づいて足を止めた。

「シューッ・・・」カシコイは注意深く床を這い、巧妙に隠されたスイッチを見つける。彼女はスケアードパイソンに距離を取らせると、「オゴッ」先ほど飲み込んだ拳銃を口から吐き出し、それを舌と牙を用いて構えた。弟の体から供給されるニンジャ器用さは、彼女の舌にマニピュレータめいた精密動作を可能とさせた。

BLAM!ガシュン!「アイエッ!?」

カシコイの放った弾丸がスイッチに命中すると、スケアードパイソンの目の前に突如として隔壁が降りてきた。対侵入者トラップがしかけられていたのだ。あのままウカツにスイッチを踏んでしまっては隔壁内に閉じ込められ、何らかの残虐行為を受けていたことであろう。

「アイエエエコワイ!みんな私を殺す気なんだ!」巧妙に隠された敵意に狼狽してマサカリで壁を殴りつける!ガゴンプシュー!偶然にも壁に埋め込まれたトラップの制御配線を切断!隔壁が上がると、そこからはドロドロとした大量のユバが流れ出てきた。

ナムサン・・・!これは卑劣なるユバ・トラップだ!この恐るべきトーフ工場特有の残虐トラップにかかった者は、逃げ場のない隔壁内を熱く粘つくトーフエキスであるユバで満たされ、もがきながらユバ溺死していくのである!

トーフ狙いで侵入したヨタモノをトーフで殺す・・・「トーフ盗りがトーフ」という恐るべき反トーフ存在インガオホー殺に対する意気込みがサツバツたるポエットを感じさせると業界内外で高く評価され、大規模トーフ工場には相当数のユバ・トラップが設置されている。

「アイエエエ・・・」食べ物を殺人機構に組み込む冒涜的狂気を間のあたりにし、スケアードパイソンは腰を抜かしてへたり込む。彼の乏しい人生経験と僅かな知能では、これほど恐るべき敵意と殺意が存在することを想像できなかったのだ。「コワイ!コワイ!」号泣!だがその時!

(ガシュン!)「アイエッ?」スケアードパイソンのニンジャ聴力は壁を挟んだ隣の廊下から聞こえた音を捉える。トラップの作動音。何者かが卑劣なるユバ・トラップにかかったのだ。

「もしかしたら家族がかかったのかも!助けないと!」スケアードパイソンは駆け出そうとして、「待てよ?家族じゃなくて敵かも知れないぞ?」と気づく。内部が透けて見えない以上確率は常に50%。ハーフ・ファミリー、ハーフ・エネミーである。「アイエエエ、どうしよう・・・!?」頭を抱えてしゃがみこむ。彼は決断力に乏しいのだ!

「シューッ」錯乱した弟を諭すように、カシコイが舌でマサカリを指す。「そうか!助けて家族だったらそれでいいし、敵だったら殺せばいいんだ!」スケアードパイソンの迷いが消えた!隣の廊下へ走る!

◆◇◆

「グフフ、落ち着け・・・落ち着くのだ。ユバとはいえこれはサカイエサンのものと違い大豆オフ・・・たんぱく質やプロテインは含まれては・・・しかし・・・グフゥーッ」

チバを探して全力疾走していたプレートメイルは卑劣なるユバ・トラップにかかり、腰まで粘性のトーフ・エキスに浸かりながら状況を打破するためにポージング黙考していた!

実際のところは考えるまでもなく隔壁をカラテ破壊すればいいだけの話なのだが(プレートメイルのカラテならそれは容易い)、人生に筋肉本位制を採用したこのマッスル・ニンジャは、例え大豆オフのイミテーション・トーフであろうともそこにプロテインの気配を感じてしまい、冷静に行動することができなくなってしまうのだ!

「グフゥーッ!これはオーガニック・トーフではない!だから筋肉とは何も関係がなく・・・」だが胸まで上がってきた粘性の液体は否応なくユバを連想させる。「グフ・・・ユバ・・・プロテイン・・・筋肉・・・グフーッいかん!邪念が!」

立ち上るフェイク・プロテインの気配がプレートメイルのニューロンをかき乱す!隔壁で密閉された空間にはどんどんユバが流れ込んでくる!このままではユバで溺死してしまうぞ!危うし、プレートメイル!

◆◇◆

「アッ、これだ!」下りた隔壁を発見したスケアードパイソンは耳を澄まし、ニンジャ聴力を鋭敏化させる。壁の向こうから聞こえてくるのはゴボゴボというユバが注がれる音、そして((グフゥーッ!冷静!筋肉!))という苦しげな声!家族か敵かはわからぬが、家族であるなら死なせるわけにはいかぬ!

「シュッ!」廊下の壁を睨んでいたカシコイが、ここだと言うようにある一点を示す。先ほどの配線切断によるトラップ解除を見ていた彼女は、ヘビ特有のピット器官と動物的直感により壁に埋め込まれた配線の位置を見抜いたのだ!スケアードパイソンはその場所めがけてマサカリを振り下ろす!

「アイエエエイヤーッ!」CRASH!配線切断!ガゴンプシュー!隔壁が上がり、先ほどよりも大量のユバが流れ出し・・・そして、アゴの下までがユバまみれになりながらサイド・チェストのポージングを決める筋骨粒々たる男が現われた!

「シューッ・・・!」敵である可能性に備え、ヘビ・警戒するカシコイ。だがユバ侵食を免れていた鼻から上を覆う黒いメンポ、それに燦然と輝くクロスカタナのエンブレムを認め、警戒を解く。この男は家族だ。少なくとも害意を持って弟の前に立つまでは。

「アイエエエ・・・良かった・・・エト・・・ダイジョブ?」スケアードパイソンもクロスカタナ紋を認め、声をかける。「グフゥーッ・・・プロテイン・・・あいや、スミマセン!助かりましたワイ!」マッスル・ニンジャは白い歯を見せて笑い、謝意を込めて丁寧にポージング・オジギした。「ドーモ!プレートメイルです!」

「ド、ドーモ!スケアードパイソンです!あの、こっちは、カシコイ=サン。女の子なの」「シューッ」愚鈍な弟はぎこちなく頭を下げ、賢明なる姉は鎌首をもたげてヘビ・アイサツした。

(グフ?このニンジャは入り口で見たワイ)プレートメイルはソニックブームからの連絡にあった「手を出さなければ害は無いイカレたニンジャ」という一文を思い出す。目の前の枯れ木めいて細い長身のニンジャは、頭を小刻みに揺らして泣き笑いのような表情を作りながらしきりに頷いている。(ウム、なるほど)明らかに様子がおかしい。

だが自分を助けたニンジャに敬意を払わぬプレートメイルではない。それにニンジャは多かれ少なかれ様子がおかしいものだ。彼は気にせずに改めて礼を述べようとし「グフゥーッ・・・!?」カシコイをまじまじと見、興奮のあまりモスト・マスキュラーを決めた。

「な・・・何たる美しき筋肉か・・・!」プレートメイルはカシコイの800cmを超える巨体にみっしりと詰まりながら、驚くべき柔軟性と力強さを両立させたヘビ・筋肉の美しさに瞠目する。タマチャン・ジャングルの頂点捕食者たるバイオパイソンの強大なボディにスケアードパイソンから供給されるカラテが流れ込んで作られたその筋肉は、人ならざる妖しい魅力をもって筋肉至上主義者たるプレートメイルを魅了した。彼はあらゆる筋肉を愛する。それが人間でも機械でも、動物でもだ。

「アイエ・・・?」スケアードパイソンは目の前のニンジャが突如としてポージングをしながらおかしな目線でカシコイを見つめているのを不安そうに眺める。カシコイはただならぬ気配を感じ、不安げに身をくねらせた。「グフゥーッ!官能的ですらある!」その様を見てプレートメイルは悶絶!興奮のあまりその場でスクワットを始める!

「グフゥーッ!」カシコイをおかしな目つきで見つめながら超高速でスクワットを行うプレートメイル!「シュ、シュ・・・」カシコイは何か得体の知れぬ恐怖を感じ、弟に身をすり寄せた。「ウーン?カンノウテキ?カシコイ、ほめられたの?よかったなの?」スケアードパイソンは状況を全く理解できず、とりあえずカシコイの頭を撫でた。

ナムアミダブツ!なんたるケオス!このままでは事態の収拾がつかぬと思われたまさにその時!((BRATATATA!))((アバーッ!))二人のニンジャはニンジャ聴力で、一匹のヘビは体表に当たる音波振動で、廊下の先から響く銃声と悲鳴を捉えたのだ!

「グフーッ!もしやチバ=サン!?」素早くリラックス・ポーズを決めたプレートメイルは一瞬で冷静さを取り戻し、床を蹴って走り出す!「アッ、家族がアブナイ!?」先ほどとは違う種類のただならぬ様子で走り出したプレートメイルを見て、スケアードパイソンも後を追う!筋肉視線から逃れられたカシコイは少し安堵!

「グフーッ!おお、チバ=サン!ご無事であられたワイ!さすがは帝王の子!」ガラス貼りの回廊に辿り着いたプレートメイルは、左手の大ホールから見えた惨状に驚きつつも、ラオモト・チバの無事に安堵した。

プラントから漏れ出したトーフエキスが氾濫し、その中を労働者やサラリマン、護衛クローンヤクザの死体がゆっくりと漂うというジゴクめいた状況でなお、チバの顔に恐怖の色は全く伺えぬ。「おい!フジオ!早く来い!」

上等なアルマーニのスーツと艶やかな髪、半ズボンからのぞく白い足をトーフエキスにまみれにした若き暴君は、IRC端末に向かってカタナのごとき鋭い声を向けていたのだ。ラオモト家に傾倒するソウカイニンジャならば余りの尊さにその場でドゲザせんばかりのカリスマである。

(グフ・・・では、先ほどの銃声は?それに護衛クローンヤクザが皆死んでおるワイ・・・?)プレートメイルの疑問はすぐさま氷解した。「ドーモ、モーターヤブです。直ちに休憩してください」大ホールの反対側から、不快な電子音声が聞こえたからだ。続いて銃声、職員の悲鳴が響き渡る。

「グフッ!よりにもよってここに!?」IRCによりヤブ暴走の事前情報は得ていたが、まさかチバの眼前に現われるとは!

BRATATATA!「「「アババババーッ!」」」唸るガトリングガン!虐殺される職員!失われる筋肉!(ナムアミダグフ・・・!)何たるマッポー的休憩光景か!暴走ヤブはいまだ生き残っている職員を狙っているが、彼らが尽く休憩した時、その銃口はチバに向かうであろう!もはやマッタナシか!(やるしかないワイ・・・!)

モーターヤブと戦うのは初めてのことだ。もし以前プレートメイルを導いてくれた六面体の小さなセンセイがここにいれば、彼に的確なインストラクションを与え、ヤブの弱点や有効なイクサ運びをレクチャーしてくれたことであろう。だが、今は一人。ここは自分だけの力で・・・(いや、一人ではなかったワイ)

「アッ、小さい子供だ」プレートメイルに追いついたスケアードパイソンはチバの姿を見てニコニコと笑った。彼は子供が好きだ。自分の姿を見て泣き出されることはよくあるが、少なくとも彼を攻撃してはこないからだ。

よく見ればネクタイにはクロスカタナのエンブレムも付いている。「子供で家族!ヤッター!」小さい子供が家族になったのは初めてだったのでスケアードパイソンはとても喜んだ。だが直後、職員をテンポ良くゴア殺していくヤブの姿を認めて恐怖に号泣する。「アイエエエ!コワイ!アレなに!?」「シューッ・・・・」カシコイはこれまでにない強大な敵対存在を睨み、戦力を測る。

「あれはモーターヤブだ。スケアードパイソン=サン、カシコイ=サン。ロボニンジャであり、鋼鉄製の筋肉は素晴らしく、とても強い」プレートメイルは二人に語りかける。「恐らく私一人では対処しきれぬ。君たちの力が必要だ。チバ=サンを救わねばならぬ」

「チバ=サン・・・ア、あの子供・・・」スケアードパイソンは子供を見、ついでヤブを見・・・突如絶叫した。「アイエエエ!あの子供がアブナイ!チバ=サン!家族が!コワイ!敵だ!あれを殺さなきゃ!」

恐怖がスケアードパイソンの体に満ちる。それも彼が知る最高の恐怖、家族を失うことへの恐怖が。恐怖はカラテを生み、恐怖から逃げるために相手を殺す力を彼に与える!「アイエエエイヤーッ!」CRAAASH!マサカリでガラス窓を破壊し、大ホールに突入するスケアードパイソン!「バルク!」後を追うプレートメイル!

「アイエエエエ!殺す!安心する!家族だ!」絶叫しながら走るスケアードパイソンに追走しながら、プレートメイルはカシコイを見た。その目は知性に溢れ、弟を守る強い意志と敵に対しての決断的殺意に燃えていた。(知性、そしてあの筋肉)プレートメイルは一瞬で状況判断した。(この場で一番の強者は彼女か。ならば)

「私が囮になる。攻撃をお任せしてよろしいか?」プレートメイルはカシコイに問うた。「シュ・・・」弟以外から話しかけられたことにやや驚いたカシコイだったが、アトモスフィアでこの男の言わんとすることは理解できた。「シューッ」肯定の意を込めて首を縦に動かす。おかしな人間ではあるが敵意は無い。自分と弟の役に立つならそれでいい。

「アイエエエ家族!」「シューッ!」「グフフーッ!」二人のニンジャと一匹のヘビは鋼鉄のロボニンジャへ向かって走る!これ以上家族を、弟を、筋肉を失わぬために!

【スケアード・ニンジャ・アンド・クレバー・パイソン】 3 終わり。4へ続く

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